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O plus E 2022年7・8月号掲載
 
 
ゴーストブック おばけずかん』
(東宝配給)
      (C)2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [7月22日より全国東宝系にてロードショー公開中]   2022年6月27日 東宝試写室(東京)
2022年7月11日 東宝試写室(大阪)
       
   
 
TANG タング』

(ワーナー・ブラザース映画)

      (C)2015 DI (C)2022映画「TANG」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [8月11日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2022年6月16日 大手広告試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  夏休み公開のファンタジー2本,いずれも白組担当  
   春休み,GW,夏休みには,定番の邦画アニメ(『ドラえもん』『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』等々)の公開ラッシュとなる。いくら興行成績上位でも,当欄では取り上げない。ところが,ファミリー映画でもVFXを多用したファンタジーとなると放ってはおけない。しかも山崎貴監督久々の「実写+VFX」作品となると,これはもう当欄のトップ記事として扱うのが慣例だ。
『ゴーストブック おばけずかん』の予告編を見ると,監督デビュー作『ジュブナイル』(00年7月号)を彷彿とさせる「ほのぼの系」のファンタジー映画ではないか。これはしっかり論じて紹介するしかない。
 そう思ったところに,同じく『ジュブナイル』を思わせる映画がもう1本あった。少年とロボットの交流を描いた『TANG タング』である。調べてみると,このロボットのCG/VFXの主担当は山崎監督が所属する「白組」らしい。即ち,2本とも「白組」主担当のファンタジーなのだ。ここは2本まとめて語ることにする。
 
 
  山崎監督の原点回帰,自ら妖怪のデザインも  
  フルCGアニメが3作続いたので,実写映画としては『アルキメデスの大戦』(19年7・8月号)以来,3年ぶりの山崎作品となる。「おばけ=日本の妖怪」がCG描写の対象であるなら,『DESTINY 鎌倉ものがたり』(18年1月号)の要素も活かされていると想像した。詳しくは後述するが,映画を観ると,『STAND BY ME ドラえもん』(14)の影響も少なからずあることが感じられるはずだ。
 原作は,斉藤洋(作),宮本えつよし(絵)の絵本シリーズ「おばけずかん」である。「大人が知らないベストセラー」であり,全国の小学校の図書室にあるが,人気が高く,なかなか借りられないという。2022年3月現在で全32巻,アニメ化,TVドラマ化もされているらしい。絵本の各巻には複数のおばけが紹介されていて,個々の特徴や対処法が載っているようだ。
 1本の実写映画では,当然ごく一部しか登場させられないから,本作はほぼオリジナル脚本となる。原作の絵柄は素朴で可愛いが,実写+VFX映画としては,各おばけをどんなCG描写にするのかも見どころだ。
 脚本を担当した監督は,通常は「監督・脚本」と記載されるが,山崎監督の場合はいつも「監督・脚本・VFX」と表記されている。ところが本作の場合は,さらに「ストーリー原案・キャラクターデザイン」が付く。原作を意識しつつも,山崎オリジナルストーリーが展開し,日本の妖怪たちを自ら山崎流のCGキャラクターとしてデザインし直したということだ。それだけの自信がある表記であり,その面目躍如たる映画に仕上がっていた。
 学校では,子供達の枕元に現れて「願いを叶えたいか?」とささやく謎のおばけが噂になり,「おばけずかん」を求めて少年たち3人組が不思議な古本屋を訪れる。その奥は迷路のようで,異世界に繋がっていた…。SF的にはパラレルワールドものであり,山崎監督得意のタイムスリップも後半に登場する。
 主人公の少年・一樹役には,城桧吏が配されている。『万引き家族』(18年5・6月号)では,学校にも通わず,家族の生(いつき)計のため万引きを働く少年役だった。少年少女はオーディションから,4人のバランスを考えて選んだという。「サニー」役のサニーマックレンドンを選んだのが大正解だ。日本人とアフリカ系アメリカ人のハーフで,英語も日本語も話せるようだが,愛すべき少年として,こういう風貌の少年がいるだけでハリウッド映画風になり,国際的競争力があるだろう。  一樹の父母役で,『ジュブナイル』で少年・祐介と少女・岬を演じた遠藤雄弥と鈴木杏が登場する。このキャスティングは嬉しい。ヒロインの代用教員・瑤子先生は,新垣結衣が演じている。山崎監督作品の『BALLAD 名もなき恋のうた』(09年9月号)でもヒロインであったし,当欄では主演作『トワイライト ささらさや(14年11月号)『くちびるに歌を』(15年3月号)も取り上げている。『くちびるに…』も臨時教員役であったが,本作の方が好感のもてる役であった。謎の古本屋の店主役として神木隆之介が登場する。この長めの半白髪の頭髪は,「ゲゲゲの鬼太郎」のイメージかと思われる。
 以下,当欄の視点からの感想とコメントである。
 ■ まずCGキャラから語ろう。「おばけずかん」を案内する「図鑑坊」は,最初白い布をまとった幽霊姿で登場し(写真1),やがて姿を現わす(写真2)。猫のような小動物で,結構可愛い(声:釘宮理恵)。「身代わりおばけ」(写真3)は,多数登場して,何でも代行してくれる便利な存在だが,技術的には単なるCG合成だ。日本の妖怪の定番の1つ「一旦木綿」は,本作では空を飛べることが強調されている(写真4)。少し見にくいが,同じ画像で手前に写っているのが「旅する雲梯」で,人がぶらさがると空に舞い上がる。学校や児童公園にある長梯子の妖怪版である。これは少しユニークだ。
 
 
 
 
 
写真1 古書店店主と幽霊姿の図鑑坊
 
 
 
 
 
写真2 姿を現した図鑑坊。画質調整は見事。 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 多数登場する身代わりおばけ達
(上:完成映像,下:撮影風景)
 
 
 
 
 
 
 
写真4 空を駆ける「旅する雲梯」と「一反木綿」
(上:完成映像,下:撮影風景)
 
 
  ■ 日本の妖怪の山崎流デザインの見どころは,「山彦」(写真5)と「百目」(写真6)だ。それぞれ著名な妖怪だが,どの妖怪解説本を見てもこんな姿はなく,独創的である。終盤に登場する「ジズリ」(声:田中泯)は,いかにもボス・キャラだ(写真7)。このジズリの能力が物語を左右するが,クライマックスシーンはVFX的にもしっかり描かれている。その他,3人組+瑤子先生が迷い込む異世界では,建物の一部が歪んでいる(写真8)。学校の校舎の破壊シーンも登場する(写真9)。VFXシーンは多過ぎず,レベルは低くなく,使うべきところにだけ効果的に使うという山崎ポリシーが徹底されている。
 
 
 
 
 
写真5 伝説の「山彦」はこんな姿で登場 
 
 
 
 
 
写真6 体中に目がある「百目」は緑色で登場
 
 
 
 
 
写真7 凶暴なジズリの登場が本作のクライマックス
 
 
 
 
 
写真8 異世界では建物の一部が歪み,ずれていた
 
 
 
 
 
写真9 学校校舎の破壊シーンは勿論VFXの産物
(C)2022「GHOSTBOOK おばけずかん」製作委員会
 
 
  ■ 本作の成功要因は,「男子3:女子1」という少年少女の構成比率だろう。思えば『ジュブナイル』もそうであったし,『ドラえもん』もしかりだ。本作の「一樹」にとっての「湊」は,言うまでもなく「のび太」にとっての「静香ちゃん」だ。「図鑑坊」は,「テトラ」「ドラえもん」であり,神木隆之介が演じた「古本屋店主」は『ジュブナイル』で香取慎吾が演じた「電気屋・神崎」に符合している。少年少女ものにとって,この「男子3:女子1」は黄金比なのかも知れない。
 ■ 本作の最大の不満は『GHOSTBOOK…』であった題名が,急にカタカナ表記になったことだ。製作委員会名,映画のタイトルシーン,図鑑の表紙…いずれも英字表記である。映画紹介サイトの大半の表記もまだ英語のままだ。最終段階でカナカナに変更した無粋な担当者の責任を追及したい。これじゃ『 ALWAYS 三丁目の夕日』(05年11月号)以後の山崎作品の伝統を踏みにじっている。切腹ものだ。いや,縛り首の方が相応しい。

 
 
  英国製名作童話を和風味付けで映画化  
  少年とロボットの心温まる交流となると,上記『ジュブナイル』の他,秋山貴彦監督の『HINOKIO 』(05年7月号),フルCGアニメの『ロン 僕のポンコツ・ボット』(21年Web専用#5)等々,同系列作品が多数ある。ポスターや予告編を見ただけで,「TANG」なるロボットの形状は,誰もが『WALL・E/ウォーリー』(08年12月号)を思い出す。いずれも「癒し系」である。
 若作りなので「少年」と書いてしまったが,主人公の春日井健(二宮和也)は既婚者で,人生の夢も妻(満島ひかり)との未来も諦めてしまったダメ男だ。そんな彼の家の庭に,記憶喪失の旧式ロボットが迷い込んできた。TANGと名乗る時代遅れのロボットと健は,ダメダメ同志で心を通わせるようになる……(写真10)

 
 
 
 
 
 
 

写真10 ダメ男と記憶喪失ロボットが心を通わせる

 
 
 監督は三木孝浩で,スタッフも全員日本人であるので,オリジナル脚本の完全な邦画だと思っていた。原作は英国製の名作童話「Robot in the Garden」で,劇団四季がミュージカル化して公演しているという。
 その程度の予備知識で,この映画を観たが,以下は当欄の視点からの感想と論評である。  ■ TANGが失った記憶の中には,世界を揺るがすほどの秘密が隠されていた。それを狙った悪人たちが暗躍するので,波乱万丈の展開,少し派手なアクションシーンも期待したのだが,ほぼ何もないままに終わってしまった。これじゃ「子供だまし」以下の中身だ。最近,孫に付き合ってお子様番組を見るが,もう少し複雑で盛り上がりがある。この映画は,子供でもバカにする幼稚なレベルだ。山崎監督の『ゴーストブック…』がしっかりクライマックスを設けているので,余計にその差が目立った。二宮和也,満島ひかりの演技は悪くないが,ここまでお子様向き過ぎる物語設定の中では,彼らの演技力は生きてはこない。
 ■ CG/VFXには約10社の名前があったが,白組が主担当というので,クオリティは安心して観ていた。デザイン的には,WALL・Eは超えないが,嫌みのないデザインだ。原作童話のイラスト画のロボットよりも,断然こちらの方が良い。(写真11)の犬型のペットロボットと併置しているのは意図的だろうが,オンボロ・ロボットであることを強調している。ただし,(写真12)は実物大模型かもしれないし,CGであっても不思議ではない。この程度のCGは今や当たり前だ。冒頭の住宅街,空飛ぶドローン,近未来の福岡市などのCG/VFXも,ごく平均的なレベルである。多彩さ,使い方の上手さの点でも,『ゴーストブック…』の方が圧倒的に上だと言える。

 
 
 
 
 
写真11 ペットロボットに比べると質感は高い
 
 
 
 
 
写真12 これは実物か,それともCGか?
(C)2015 DI (C)2022映画「TANG」製作委員会
 
 
  改めて,原作のあらすじ,ネタバレ紹介記事を読んだが,原作は英国,米国,日本と旅するロードムービーで,悪人ももっと悪人然としている。どうせなら,同じように旅を重ねて日本にたどり着く形にした方が,原作のテイストも活かすことができ,配給元のワーナー・ブラザースのルートで世界市場を狙えたのにと思う。比べる相手の『ゴーストブック…』のレベルが高過ぎたとも言えるが,本作は企画段階で失敗していると思う。
 
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  (O plus E誌掲載分に加筆し,画像も追加しています)  
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