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O plus E誌 2017年6月号掲載
 
 
purasu
怪物はささやく』
(フォーカスフィーチャーズ/
ギャガ配給)
      (C) 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月9日よりTOHOシネマズ みゆき座他全国ロードショー公開予定]   2017年4月24日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  英国児童文学の伝統を感じるストーリーテリング  
  3本目はダーク・ファンタジーで,英国製の児童文学が原作だ。英国図書館協会の伝統あるカーネギー賞と優れた絵本に与えられるケイト・グリーナウェイ賞を初めてW受賞したというが,単純なベストセラーではない。2007年にガンで逝去した女性作家シヴォーン・ダウドの未完の遺稿を,新進作家のパトリック・ネスが加筆して完成させ,「ハリー・ポッター」シリーズのイラスト版のジム・ケイが挿画を描いたという代物だ。
 もうそれだけで物語の骨格はしっかりしていると予想できた。さらにP・ネス自身が映画の脚本を担当し,J・ケイが怪物のデジタル・デザインに参加したというから,W受賞の原作のテイストを活かした映画であることも間違いない。プロデューサのベレン・アティエンサはじめ,『パンズ・ラビリンス』(07年10月号)の製作スタッフが関わっているというのも,このダーク・ファンタジーにはぴったりだ。
 病気の母に死期が迫っていることを知りながら,それを受け入れることが出来ない13歳の少年コナーが主人公で,彼の悪夢に登場する怪物とのやりとりが描かれている。真夜中の12時7分になると怪物はやって来て,「3つの物語を聞かせるから,お前が4つ目を話せ」と迫る。何やら,「クリスマス・キャロル」を彷彿とさせる夢の中の3つの物語だ。この怪物は何千年も生きているという庭のイチイの木が変身した「樹木の精」らしい。怪物と少年との会話は,『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(16年10月号)の巨人と少女の心温まる交流も思い出させてくれる。
 英国児童文学の伝統を引く見事なストーリーテリングで,ホラータッチで少年の心の葛藤を描き,感動のエンディングへと向かう。原作にはない後日談も味わい深い。映画ゆえのビジュアルで,ここはもう一度じっくり観たくなる。原作は,我が国で中学生の読書感想文の課題図書にも選ばれていたというが,この深味のある物語を中学生がしっかり読み取れたのかと疑問に思う。
 監督は,J・A・バヨナ。『永遠のこどもたち』(07)で長編デビューし,『インポッシブル』(13年6月号)で大津波に遭遇した家族を描いたスペイン人監督だ。本作は,スペインのアカデミー賞と言われるゴヤ賞を本年度最多の9部門で受賞している。
 主演のコナー少年役に抜擢されたのは,ルイス・マクドゥーガル。『PAN 〜ネバーランド,夢のはじまり〜』(15年11月号)にもピーターの親友役で登場していたようだ。母親役は,最近当欄にも再三登場するフェリシティ・ジョーンズ。厳格な祖母役を,ベテランのシガニー・ウィーバーが演じている。そして,陰の主役とも言うべきは,怪物の声を演じているリーアム・ニーソンだ。ドキュメンタリー作品のナレーターも何本かこなしている深味のある渋い声だ。上述の『BFG…』の巨人のルックスは,マーク・ライランスよりも彼に似ていたから,この役もピッタリだと感じた。
 以下,CG/VFXに関する感想と評価である。
 ■ コナー少年の家からは,教会と墓石が見え,そこにイチイの巨木が立っている。いきなり夢の中で教会が倒壊し,墓石が揺れ動くシーンが登場するが,CG/VFXが活躍するシーンはさほど多くない。勿論,最大のポイントは,樹木の精である怪物の描き方だ。『ガーディアンズ…:リミックス』のベビー・グルートのような可愛い小木ではなく,恐ろしげな大木でなければならない。まずは,目が赤く光る登場の仕方で恐怖心を煽る(写真1)。シルエットでの登場シーンは大きさがよく分かるが,これは原作の挿画のイメージを模したものだ。樹木であることが分かるアップのシーンは,木の精の描き方としてはオーソドックスな形状デザインだと言える(写真2)。スタジオ内には顔や手の部分だけの実物大アニマトロニクスを配して,少年の演技を引き出したようだが(写真3),最終的にはほぼすべてCGで置き換えている。
 
 
 
 
 
写真1 悪夢に登場する怪物が,赤い目で覗き込む
 
 
 
 
 
 
 
写真2 人体モデルに樹木の形状を付したモデリングデータ(上)レンダリング結果(下)
 
 
 
 
 
写真3 実物大のアニマトロニクスを配して,少年の演技を撮影
 
 
 ■ 物語の進展とともに怪物の表情がなごみ,コナーを護る存在となるのは,CGゆえの表情表現の長所だ。言うまでもなく,Facial Capturingでリーアム・ニーソンの表情を捉え,地を這うような動きもMoCapデータで表現している(写真4)。最近のCG/VFX技術なら何も目新しいことではなく,少し物足りなかったのだが,終盤に極上のシーンが用意されていた。墓地が崩壊する地割れのシーンが素晴らしい(写真5)。1/10模型を作り,地下の揺動装置で震動を与えて撮影し,VFX加工したようだ。    
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写真4 木の精の怪物の表情や動きはMoCapデータ
 
 
 
 
 
写真5 終盤の墓地の地割れシーンが素晴らしい
(C) 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU. All rights reserved.
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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