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O plus E誌 2016年12月号掲載
 
 
海賊とよばれた男』
(東宝配給)
      (C) 2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C) 百田尚樹/講談社
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [12月10日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2016年11月8日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  絵に描いたようなヒット企画,上質のVFXもたっぷり  
  ある時期,当映画評のこのメイン欄で,かなりの比率で邦画を紹介していたのだが,最近めっきり少なくなっている。評価基準を少し下げ,甘くしてもなお紹介したくなる邦画が見当たらないのである。一方,世界のCG/VFX業界は,レベルも仕事量も増大の一途で,米国,英国だけにとどまらず,カナダ,オーストラリア,ニュージーランド,シンガポール,インド…へとスタジオ設立の場も広がっている(よく見れば,英語圏ばかりだ)。それだけ,彼我の実力差も大きくなっている。
 そんな中で,久々に当欄のトップを飾るのは,やはりお馴染みの山崎貴監督作品だった。近作は『寄生獣』(14年12月号)『同 完結編』(15年5月号)で,寄生獣ミギーを描くのにCGは不可欠であったものの,VFXの出番はそう多くなかった。それに比べて,戦前戦後の日本や満州までを描いた本作は,正にVFXの活躍の場であり,当欄も自信をもって語れる作品である。
 映画としても,絵に描いたようなヒット企画だ。原作者・百田尚樹,主演の岡田准一,山崎監督のトリオは,日本アカデミー賞で12部門にノミネートされ,作品賞,監督賞,主演男優賞,撮影賞,照明賞,美術賞,録音賞,編集賞の8部門で最優秀賞に輝いた『永遠の0』(14年1月号)と同じである。加えて原作は,第10回本屋大賞受賞作であるから,この映画が大ヒットしない訳がない。それなら安心して製作費をかけられるし,相対的にVFXにもかなりの額が回ってくる訳である。
 主人公は,戦前,戦後一貫して石油事業の拡大に尽力した国岡鐡造で,その青年期から晩年までの生涯を描いている。よく知られているように,出光興産の創始者・出光佐三がモデルで,同社の歩みを余り脚色せずに語っている。まずは昭和20年5月の東京大空襲,続いて終戦直後の混乱期から,映画は始まる。途中,何度か青年期の回想シーンが入るものの,戦後の復興期,世界的にも石油事業が拡大する時代を描いている。クライマックスは,英国軍の攻撃が予想される中,イランの石油を日本に運ぶ「日章丸事件」(本作では,意図的に「日承丸」と呼ばれている)を巡る手に汗握る展開である。
 青年期から92歳の晩年まで,岡田准一が1人で演じ切っている。大半が60代の老け顔だが,違和感を感じないのは,NHK大河ドラマ『軍師官兵衛』で黒田官兵衛を晩年まで演じた経験からだろうか。他の出演者は,山崎作品常連の吉岡秀隆,染谷将太,堤真一,國村隼らが登場する。初出演組は,綾瀬はるか,鈴木亮平,小林薫,黒木華,近藤正臣らで,なかなかの豪華出演陣である。鐡造の妻・ユキは出番が少なく,この程度の役に綾瀬はるかを使うのは少しもったいない気もした。
 映画全体の評価はあちこちで語られるだろうから,当欄は,CG/VFXに特化して語ろう。
 ■ まず注目の的はオープニング・シーケンスだ。米軍の爆撃機B-29の腹部が開き,大量の焼夷弾が投下される。どうだ,こんなアングルの戦争映画は見たことないだろうと言わんばかりの場面だ。続いて,東京が燃え盛る様子が生々しく描かれる(写真1)。勿論,CG/VFXで描いたシーンの連続だ。冒頭シーンを派手なVFXでデコレーションするのはハリウッド系大作の定番だが,それに負けじという心意気が感じられる。
 
 
 
 
 
写真1 オープニングは迫力ある東京大空襲から
 
 
   ■ 戦前・戦後の東京の街も見事に描かれている。アップのシーンでの自動車の一部は本物かも知れないが,大半はCGだろう。東銀座の歌舞伎座に隣接した国岡商店の本社は,ミニチュア,CG,マット画の合わせ技のようだ(写真2)。終戦後の瓦礫の山の描写も良い出来だ(写真3)。欧米の大手スタジオでは,ニューヨークやロンドンの街は,過去2〜300年間のいつでも描写できるようCGデータが揃っているという。日本でも,せめて明治以降の東京はどの時代でも描けるようになっていれば,ずっと映画作りの幅が拡がると思う。そうあって欲しいものだ。
 
 
 
 
 
写真2 東京・銀座に進出した国岡商店の本社
 
 
 
 
 
写真3 終戦直後の荒廃した銀座は各種VFXで再現
 
 
  ■ 海外は,戦前の満州と戦後のイランのアバダン港が登場する。前者は,満鉄本社(写真4)や当時の機関車(写真5)がCGで再現されている。後者の登場場面は少ないが,当時のイラン国民の歓迎ぶりが伝わってくる(写真6)。いずれも当時を知る人はいないだろうから,現存する写真を基に再現したのだろう。良い出来だ。国内で力が入っているのは,戦前の門司市時代の国岡商店だ。1階部分だけ実物大セットを組み,2階はミニチュア,市電はCGで描き加えている(写真7)。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズで手慣れた方法で,クオリティも高い。
 
 
 
 
 
写真4 売り込みで交渉で出向く満州鉄道の本社
 
 
 
 
 
写真5 極寒の地・満州も満鉄の機関車も上々の出来
 
 
 
 
 
写真6 こちらは1953年のイランのアバダンの港
 
 
 
 
 
 
 
 
写真7 (上)1階部分だけ作られたセットと山崎監督,(下)2階と市電はCGで描いて合成
 
 
 
  ■ 終盤の圧巻は日承丸の描写だ。進水式,アバダン港,スンダ海峡,川崎港と様々な場面でたっぷり登場する(写真8)。随所に『タイタニック』(97)へのオマージュが感じられる。もっとも実物大で撮影されたのは,艦上のごく一部で,他はほぼすべてCGである(写真9)。CG/VFXの主担当は,勿論,山崎監督所属の白組で,VFXディレクターはいつものように渋谷紀世子氏だ。相変わらず,少数精鋭で,エンドロールを見ても,アーティスト名は30人弱しか名前がない。ハリウッド大作なら10倍の名前が並ぶところだ。いくら監督の意向が直に伝わり,以心伝心の関係が出来上がっているとはいえ,これは凄い。映画そのものの出来は☆☆+程度だが,当欄としてはVFXに文句なく最高点を与えざるを得ない。     
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写真8 随所に『タイタニック』へのオマージュを感じる
 
 
 
 
 
写真9 日承丸の大半もイランの小船もCGで描写
(C) 2016「海賊とよばれた男」製作委員会 (C) 百田尚樹/講談社
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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