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O plus E誌 2017年1月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『ヒトラーの忘れもの』:デンマーク映画は少し珍しいが,強く印象に残る作品だ。なかなか上手い邦題だが,原題の『Land of Mine』は「我が祖国」の意ではなく,「地雷の国」という意味らしい。時代は第2次世界大戦でドイツ降伏後の1945年5月で,舞台は大西洋に面したデンマークの西海岸だ。大戦中に連合軍の上陸を怖れたナチスが欧州の海岸沿いに埋めた多数の地雷を,終戦と共に,ドイツ軍捕虜が撤去作業の強制労働に投入される。その約半数が爆死するか重傷を負ったという。本作に登場するドイツ人少年兵10数名も例外ではない。彼らを監督するデンマーク人軍曹ラスムスン(ローラン・ムラ)は,ナチス憎しの思いから,彼らを敵視し,非人間的な扱いをする。やがて,良心の呵責から,少年兵達と心を通わせるようになるが……。過酷な撤去作業や誤爆シーンが印象に残る一方,(詳しくは書けないが)人間味のあるラストシーンに救われる。
 『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』:本稿執筆時点での「キネマ旬報」最新号(12月下旬号)では,「映画とジャズ」が特集されている。当然,その中でしっかり解説されている作品だ。1991年に逝去したモダン・ジャズ界の巨人マイルス・デイヴィスが,1970年代後半に音楽シーンから姿を消していた5年間を描いている。伝記映画風ではあるが,中身はフィクションだ。監督・主演はドン・チードル。敬愛し,傾倒するマイルスの空白の5年間を想像し,マイルスに成り切って演じている。慢性の腰痛,ドラッグ依存症に苦しむどん底生活と,過去の栄光の時代が何度も交錯する。「Miles Ahead」は彼が1957年に収録した名盤の題名で,映画中では勿論数々の名演奏が登場する。早速,サントラ盤音源を取り寄せたが,筆者の書斎ではあの高らかなトランペットの音が味わえない。本作は,なるべく音響効果の良い映画館で観ることを薦めたい。
 『こころに剣士を』:上述の『ヒトラーの忘れもの』同様,第2次世界大戦後の欧州の実態を映像で学べる作品だ。こちらはフィンランド映画で,舞台は戦後ソ連邦に組み込まれたエストニアの田舎町である。1950年代初頭,スターリン圧政下の自由のない国で,秘密警察に追われる主人公が,中学校の体育教師となり,フェンシング部を設立して,子供たちとの交流から新たな生き甲斐を見つける物語だ。全く未経験の素人集団を鍛え,レニングラードでの全国大会に出場させるまでの過程,当初反抗的だった少年が徐々に心を開いて行く様子は,定番のスポーツ・サクセスストーリーだ。当時のソ連邦の様子がよく分かる。実に素直な描き方で,嫌味はないが,物語が少し淡泊過ぎる。官憲の酷い仕打ちや,フェンシング試合での緊迫感等,終盤はもっと盛り上げても良かったのではないかと感じた。
 『オアシス:スーパーソニック』:1990年代のロック界を席捲した英国の人気バンドの軌跡を追った音楽ドキュメンタリーで,副題はデビュー・シングル盤の曲名だ。2009年に解散したが,本作は1994年のデビュー前からの絶頂期3年間だけを描いている。映画は2日間で25万人を集めたという1996年のネブワース野外ライヴに始まり,最後もそのライヴで終わる。本作はその20周年記念という訳だ。ネブワースはロンドン北部の町で,レッド・ツェッペリン,ビーチ・ボーイズ,クイーンのライヴも有名だが,このオアシスのライヴ映像には圧倒された。もの凄い観客の密度と熱気だ。ドキュメンタリーとしては,全く性格が異なるリアム&ノエル・ギャラガー兄弟の少年期を語る母親のインタビュー,来日公演時のエピソード,仲が悪いはずの兄弟の掛け合い漫才のようなシーンが印象に残った。人間関係がドロドロした解散前には触れず,最初の3年間だけに絞ったのは正解だ。20年以上前に,これだけの映像を撮り溜めてあったことに改めて感心する。
 『僕らのごはんは明日で待ってる』:印象的な表題だが,観終わってもピンと来なかった。瀬尾まいこ著の原作小説は,食を通じて愛を育み,やがて結ばれるカップルを描いているというが,映画中ではさほど「食」の話題はなかったからだ。典型的なデート・ムービーで,無口で陰気な男性(中島裕翔)と快活で前向きな女性(新木優子)の織りなすラブストーリーである。恋愛の進行は順調だが,途中から難病ものの展開となり,最後は落ち着くべき形に着地する。そうと分かっていながら,結構感情移入してしまうのは,なかなか巧みな脚本の力だ。ケンタッキーフライドチキン(KFC)とポカリスエットの商品名が露骨に何度も登場するが,当然,両社の協賛は得ているのだろう。印象的なのは,男がKFC店頭から重いカーネル・サンダースの立像を持ち出して,彼女の病床に運ぶシーンだ。宣伝効果抜群だが,真似をする単細胞な若者が増えはしないかと懸念する。
 『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』:題名に「ヒトラー」の名前は出てこないが,最近とみに多いナチス・ドイツものである。時代は戦後の1950年代後半が中心で,ホロコースト関連の最重要戦犯アドルフ・アイヒマンが南米に潜伏していたのを突き止め,1960年に拘束するまでを描いている。映画製作大国ではないが,この種の映画はドイツ製に限る。戦中であれ,戦後処理であれ,自国ゆえに当時の資料や小道具が揃っていることは言うまでもないし,ドイツ人俳優がドイツ語で演じてこそ雰囲気が出る。ハリウッド俳優が英語で演じたのでは,全くの興ざめだ。本作の主役は検事長のフリッツ・バウアーで,『ヒトラー暗殺,13分の誤算』(15年11月号)のブルクハルト・クラウスナーが演じている。部下の検察官カールは『東ベルリンから来た女』(13年2月号)などのロナルト・ツェアフェルトで,この2人のコンビネーションが微笑ましくもある。ナチ残党の数々の妨害工作を跳ねのけ,アイヒマン捕獲に至るまでの緊迫感のあるドラマだ。といっても,ハリウッド流のサスペンス活劇ではなく,生真面目なドイツ人らしい正義感で貫かれている。ゲイの話題を登場させたのは,物語に彩りを添えるためだろうが,お遊びでなく,その描き方も真面目そのものだ。
 『ネオン・デーモン』:主人公は田舎町から大都会LAに出て来て,モデルを目指す16歳の少女ジェシーだ。彼女を演じるエル・ファニングは,少し大人になり,頗る美しい。ファッション業界に生きる女性たちの競争心,嫉妬心を描くタッチは辛辣で,絢爛豪華な衣装やスポットライトの中で,ダークな物語が待っていることが予感できる。ジェシーのサクセスストーリーかと思いきや,次第にホラー色が強くなり,やがて猟奇殺人事件へと発展する。監督は,『ドライヴ』(11)のニコラス・ウィンディング・レフン。実力派であることは間違いないが,本作は映画賞狙いの描写が多いことが鼻につく。難解ではないが,抽象化し過ぎ,誇張し過ぎの感が否めない。万人受けする映画ではないが,本作の鮮烈な描写を好む映画通も結構いると思われる。
 『天使にショパンの歌声を』:カナダ映画で,描かれるのは1960年代のケベック州の修道院なので,全編フランス語での会話である。修道院経営の寄宿学校が廃校の危機に遭い,音楽コンクールに優勝することで存続させようとする……。1990年代に大ヒットした『天使にラブソングを…』(92)を意識させる邦題だが,修道院長の反対に遭う訳ではない。むしろ,校長のマザー・オーギュスティーヌ(セリーヌ・ボニアー)が存続活動の推進者で,姪のアリスのピアノの才能を利用しようとする。演奏されるのもモータウン・ミュージックではなく,クラッシックの名曲揃いだ。ショパンだけでなく,リスト,バッハ,モーツァルト,ドビュッシー等の著名曲が登場する。驚いたのは,アリスを演じるライサンダー・メナードの見事な指使いだ。多少の素養があって特訓してもここまでとはと感心したが,元々プロの若手ピアニストで,これが映画初出演だという。それなら納得で,女優としての成長を期待したい。
 『ザ・コンサルタント』:何という面白さだ。天才的な数字把握力をもつ公認会計士が主役で,顧客は裏社会の巨悪産業だ。彼の闇の会計術に財務省捜査官たちが目を光らせるというので,社会派ドラマかと思ったが,全くの娯楽作品だった。最近脇役で「バットマン」を演じているベン・アフレックの主演作だというので,彼の監督作品かと期待したが,そうではなかった。少年時代から重度の自閉症で,父親の配慮で特殊戦闘能力を身に付けたという,この主人公のキャラクタ設定のユニークさに驚く。まるで西洋版「必殺仕事人」だ。共演のアナ・ケンドリックは『マイレージ,マイライフ』(09)に似た役どころで,2人の身長差とぎこちないラブシーンが微笑ましい。終盤は当然,敵の殺し屋や捜査官たちとの激しいバトルだろうと想像するが,見事に肩透かしを食う。その意外性にも座布団2枚だ。痛快度は今年のピカ1で,別項のベスト10にもランク入りさせた。
 『マギーズ・プラン -幸せのあとしまつ-』:NY舞台の大人のラヴ・コメディ。最近の邦画は若者向け恋愛映画に席捲されているが,それらとは何が違うのか。 主に想定観客層の年齢,映画愛への違いだろうか。少しオシャレで,ハイソで,会話も室内インテリアも垢抜けている。ドタバタ喜劇ではないのに試写会場は終始笑い声が聞こえたから,セリフも字幕も優れているのだろう。妻子ある男性との略奪婚に成功した女性マギーが,夫を元妻に返そうとする変な3角関係を描いている。ダメ男で主体性のない小説家にイーサン・ホーク,鬼嫁だった元妻で大学教授にジュリアン・ムーア,共に適役だと思うが,この2人がカップルというのはどうも似合わない。アラサーの主人公マギーを演じるグレタ・ガーウィグは少しふくよかで魅力的な女性だが,基本的に男に興味がないらしい。こういう女性を描くのは,勿論女性監督(レベッカ・ミラー)である。
 『新宿スワンII』:新宿・歌舞伎町を舞台に若い女性を水商売や風俗産業に送り込むスカウト業がテーマで, 前作は原作者の実体験に基づく生々しさと,主演の綾野剛の新境地とも言える熱演が鮮烈だった。この続編は,原作コミックの「横浜編」がベースで,現地スカウト会社との覇権争いを描いている。テーマは同じだが,綾野剛のイノセンスは薄まり,ヤクザを絡めたスカウト会社間の抗争だけになってしまった。ヒロインの広瀬アリスは大根過ぎて全く魅力がないし,浅野忠信,椎名桔平の演技力も生かされていない。園子温監督だけに暴力シーンの連続は覚悟していたが,キック中心のバトルはワンパターンで飽きてしまう。いくら金まみれでも,現職警官から拳銃を仕入れるというのは,余りにもリアリティに欠ける。原作は沢山あるのだから,もう一度新宿に戻った続編での巻き返しに期待したい。兄貴分の伊勢谷友介の出番を増やすと物語が引き締まるだろう。
 
  (上記の内,『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた』は,O plus E誌には非掲載です)  
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