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O plus E誌 2016年5月号掲載
 
 
ヘイル,シーザー!』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [5月13日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開予定]   2016年3月23日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  1950年代の映画黄金期へのオマージュがたっぷり  
  もう1本行こう。ようやく,洋画の普通の実写映画だ。1950年代のハリウッド黄金期のメジャー・スタジオを舞台にしたサスペンス・スリラーである。監督は,かつてはカンヌ国際映画祭の,今ではオスカーでも常連のコーエン兄弟だ。近作『ブリッジ・オブ・スパイ』(16年1月号)は脚本だけの担当だったが,しっかり脚本賞部門にオスカー・ノミネートされていた。監督作品となるとこれが3年ぶりとなる。お子様連れで賑わうGWの喧騒を避け,この大人の映画を一息ついた5月13日公開としたのは賢明な選択だ。
 スタジオの命運を賭けたローマ史劇のスペクタクル大作『ヘイル,シーザー!』の撮影中に,主演男優で世界的大スターのベアード・ウィットロック(ジョージ・クルーニー)が誘拐されるという事件が起こる。スタジオ内の各種トラブル処理の「何でも屋」のエディ・マニックス(ジョシュ・ブローリン)が,関係者に事情聴取しながら,事件の解決に乗り出す……という設定だ。映画に登場するキャピタル・ピクチャーズは,必ずしも配給元のユニバーサル映画とは限らず,20世紀フォックスやパラマウントだと思ってもいいし,かつて栄光に輝いていたMGM映画を思い浮かぶ人も少なくないだろう。
 この時代に古代ローマを描いた映画といえば,ワイド画面の『聖衣』(53)『ディミトリアスと闘士』(54)に始まり,『ベン・ハー』(59)『スパルタカス』(60)で頂点に達した。その後の『クレオパトラ』(63)は大失敗作,『ローマ帝国の滅亡』(64)は安上がり史劇で,まさにこれ以降「滅亡」の道を歩んだ感がある。劇中劇の『ヘイル,シーザー!』は,いかにもいかにものローマ史劇仕立てで,笑いを誘う。終盤では『ベン・ハー』を見習ってか,シーザーが救世主と遭遇するシーンを登場させるなど,サービス精神もたっぷりだ(実際には,シーザーはイエス・キリスト生誕のずっと前に暗殺されている)。
 上記2人の他は,明るいミュージカル・スターにチャニング・テイタム,セクシー女優にスカーレット・ヨハンソン,演技は空っ下手の西部劇俳優にアルデル・エーレンライク,メロドラマ監督にレイフ・ファインズという豪華キャストが登場し,一癖も二癖もある役を演じる。コーエン兄弟好みでは,お馴染みのフランシス・マクドーマンドがベテラン編集者役で,久々のティルダ・スウィントンが双子の記者を演じるといった具合だ。
 物語は二転三転し,誘拐事件の真相は思わぬ方向に飛び火する。緩急のつけ方が上手く,映画の文法を心得ている。名作へのオマージュやパロディ風の場面,意味深なセリフはドッサリ埋め込まれていたと思うが,実のところ,筆者も全部は把握し切れていない。西部劇の撮影シーン,ミュージカルでのタップダンス・シーン等,古い映画ファンほど歓喜の涙にむせぶに違いない。以下は,CG/VFXに関する当欄の視点からの論評である。
 ■ CG/VFXの絶対的分量はさほど多くないが,巧妙かつ効果的に使われている。大別すると,1950年代を描くためにシーンの一部をCGで表現する場合と,映画中の映画の場面やその撮影風景を描く場合に分けられる。前者の目的で,自動車や小道具は当時のものを利用し,髪形や衣服も徹底して1950年代ファッションにしているのは当然だが,背景に当たる市中や撮影所内をVFX加工していると考えられる。特に頻出するのが撮影所内の光景だ。恐らく,現在のユニバーサル・スタジオか,あるいは何の縁もない敷地内にCG製の大型撮影スタジオを建て,往時のキャピタル・ピクチャーズの撮影所構内に見せているのだろう(写真1)
 
 
 
 
 
 
 
写真1 R屋根のスタジオを配して,往年の撮影所を再現
 
 
  ■ 後者では,写真2は兵士たちがくぐるアーチをCGで描いている。当時なら遥かに大きな宮殿も全部実物大セットを作ったはずだが,今ならこんな些細なものもCGで描けるぞという洒落っ気からのCG採用なのだろうか。写真3は,海面をCGで描き加えている。これも同様の趣旨からだろう。その他では,S・ヨハンソンが水面から高くジャンプするシーンなど,明らかにVFXの産物で,このレベルは驚くに値しない。  
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写真2 比較的小規模なアーチだが,CGで描写
 
 
 
 
 
 
 
写真3 潜水艦は張りぼてで,水面をVFX加工
(C) Universal Pictures
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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