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O plus E誌 2009年6月号掲載
 
 
 
天使と悪魔』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
   
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [5月15日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2009年5月12日 SPE試写室(大阪)   
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ヴァチカンを舞台に格調高い,緊迫感溢れる娯楽大作  
 

 3年前に公開された話題作『ダ・ヴィンチ・コード』(06年6&7月号)の続編という触れ込みである。ダン・ブラウンの原作小説自体は本作が先に執筆されているが,矛盾はない。前作は,ルーブル美術館とパリ近郊や英国の教会が舞台で,ダ・ヴィンチの名画に隠されたキリストの末裔を巡る謎に,秘密結社フリーメイソンが暗躍する。本作では,ヴァチカンのローマ教皇庁とローマ市内が舞台で,秘密結社イルミナティが仕掛けた陰謀にヴァチカン崩壊の危機が迫る。冒頭の衝撃的な殺人事件,キリスト教文化に秘められた暗号解読,観光ガイドを兼ねての歴史的スポット巡りという構図は,まさに相似形だ。監督のロン・ハワード,宗教象徴学者ロバート・ラングドンを演じるトム・ハンクスも続投である。
 前作は興行的には成功しながらも,批評家筋の評価は芳しくなく,世評も賛否両論だった。原作が大ベストセラーであり,期待も野次馬度も大き過ぎたからだと思う。筆者が敢えて☆☆☆を与えたのは,素直に眺めれば十分面白い作品であり,映画の制限枠の中にまとめる苦労を評価したからである。となると,それよりも緊迫度も面白さも上の本作を低く評価する訳には行かない。原作自体のサスペンス度が上なので映画化にそう苦労しなかったはずだが,ビジュアル的に大いなる見せ場があり,映画館に足を運ぶだけの価値をもたせている。
 今回のヒロイン,ヴィットリア・ヴェトラ役には,『ミュンヘン』(06年3月号)で主人公の妻を演じたイスラエル人女優アィエレット・ゾラーが抜擢された。重要な役柄カメルレンゴ(前教皇の侍従)を演じるのは,『スター・ウォーズ』シリーズ,『ムーラン・ルージュ』(01年11月号)のユアン・マクレガーで,凛々しい演技の中にも,今や大スターの風格が漂う。
 物語の根幹をなすテーマは,科学と宗教の対立だ。スイスのCERN(欧州原子核研究機構)で生成された「反物質」が何者かに盗まれ,強力な爆弾として使用される恐怖が生じる。一方,突然のローマ教皇(法王)の死で開催されるコンクラーベ(教皇選出秘密会議)の当日,4人の有力枢機卿が誘拐され,彼らを1時間おきに殺害し,最後に反物質を爆発させるという予告が届く……。
 小説と映画の両方を楽しむ方法については,前作の評で紹介し,今回もこの方法を踏襲した。5月15日世界同時公開で,その評価についての事前情報はない。試写を観たのは3日前であり,本稿の締切にもギリギリだった。スチル画像も数点しかなく,CG/VFXの情報も皆無だった。いま,筆者の手元にあるのは,試写観賞後に購入した美術セット中心のメイキング本1冊だけである。
 以下で,筆者自身が愉しみ,分析した結果をなぞってみよう。若干のネタバレを含むので,願わくば映画観賞後に読んで頂きたい。
 ■ 全世界が市場とは言え,アメリカ人観客の目を最も意識していることは明らかだ。彼らのルーツたる欧州の宗教文化や伝統への憧れを十分に計算している。徹底した歴史考証や現地調査に基づいた上でのフィクションである。全編を貫くのは,その格調の高さだ。例えば,コンクラーベ。朱色の法衣を纏った枢機卿たちの姿を見ただけで,その威厳と格式に圧倒される(写真1)

 
   
 
写真1 コンクラーベに向かう枢機卿たち  
 
   
   ■ 前作ではルーブル美術館内部の徹底した撮影が許可されたが,サンタンジェロ城でたった二晩の撮影が許されただけだという。よって,ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂もシスティナ礼拝堂も大規模セットとVFXによる再現である。ローマ市内4ヶ所の教会内部もしかりだ(写真2)。壁面の装飾から数々の彫像に至るまで,よくぞここまでの再現に挑戦したものだと感心する。    
   
 
写真2 教会はセット,火は実物だが,後でCGで強化  
 
   
   ■ 屋内だけではない。サン・ピエトロ広場もベルヴェデーレの中庭も,そ して四大河の噴水広場をはじめとする市内各所もセットだという。広場を 埋め尽くす群衆(写真3)やヘリの離着陸(写真4)がこんな風に実現でき る訳ないから,少し考えればCG/VFXの産物だと分かるはずだ。      
   
 
写真3 このカメラの位置から広場自体も本物でないと分かる  
 
   
 
写真4 実物大のヘリが急上昇とともにCGに変わる  
 
   
   ■ CERN内部の場面では,反物質を生成する装置や保存容器をどう描写するのか気になったが,まずまず無難な表現だった(写真5)。原作に登場する超音速ジェット機はどんな形で描かれるのかも楽しみだったが,荒唐無稽すぎたためか割愛されていた。それは止むを得ないとしても,個性的なコーラー所長がこの映画に登場しないのは少し残念だ。    
   
 
 

写真5 反物質の生成装置(左)と保管容器(右)。この爆発が物語の鍵となる。

   
   ■ まさか反物質爆弾が爆発数秒前で解除されるなどという単純な結末は誰も予想しないだろう。となると,その爆発の模様がどう描かれるかが興味の的だ。ヘリの急上昇,猛烈な爆風,焼身自殺のシーン等は,さすがCG/VFXの威力だと感じさせるシーンの連続だった。
 ■ インビジブル・ショット中心のVFXの主担当は,英国のDouble Negative社だ。観ている途中でそう確信した。何故かと問われてもその理由は明確に言えないが,同社特有のテイストを感じたからだろうか。随所で緊迫感を高める音楽も,ハンス・ジマーだとすぐ分かった。エンドロールに流れるメロディも,この映画を象徴するかのような威厳が感じられた。  
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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