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O plus E誌 2013年5月号掲載
 
 
めめめのくらげ』
(ギャガ配給)
      (C) Takashi Murakami / Kaikai Kiki Co., Ltd.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [4月26日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国ロードショー公開予定]   2013年3月30日 DVD観賞
       
   
 
中学生円山』

(東映配給)

      (C) 2013「中学生円山」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [5月18日より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開予定]   2013年3月14日 東映試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  さすが,キャラクターデザインは一流の出来  
  久々にメイン欄で邦画を2本取り上げよう。2005〜2009年頃までは,毎月とまでは行かないまでも,かなりの数の邦画を取り上げていたのに,この数年間はめっきり減ってしまった。それだけCG/VFXの意欲作がない訳で,日本映画界の沈滞が感じられる。
 1本目は,題からして異色の『めめめのくらげ』だが,「あの村上隆が映画監督をはじめました」というのが,本作のキャッチコピーである。本欄の読者は,この名前を聞いて誰を想像するだろうか? 筆者のような団塊の世代なら,往年のプロゴルファー「村上隆(パリス)」を第一に思い出す。青木功,ジャンボ尾崎全盛時代の1975年に公式戦年間グランドスラムを達成した名選手である。ただし,今更,彼が映画監督を志す訳はない。
 若いコミックファンなら,漫画家「村上たかし」の本名ではないかと思うだろう。家族やほのぼのとしたペットものが得意で,代表作「星守る犬」が2011年に西田敏行主演で映画化されている。次は自らメガホンをとっての映画化かと思われても不思議はない。
 本作の「村上隆」は,世界的ポップアーティストの「村上隆」だった。オタク系のアニメ・キャラを現代アートの造形物に仕立てて名をはせた芸術家であり,若い女性たちには,彼がデザインした白地のヴィトンのバッグが知られている。彼のサブカルチャー路線の延長線上に,異色キャラクターが登場する映画があったとしても全く不思議ではない。本作は,彼が主宰するカイカイキキの全額出資による自主製作作品であり,構想10余年,当初フルCGアニメの予定であった原案を,実写+CGキャラで映画化したものだという。
 時代は東日本大震災後の日本,主人公は転校してきたばかりの小学生の正志(末岡拓人)と,彼が段ボール箱の中から発見した奇妙な生物の「くらげ坊」である。少年少女たちは皆,「ふれんど」と呼ばれる独自キャラを有していて,携帯電話状のコントローラー・デバイスでそれを操作する,というファンタジー仕立てだ。
 以下,CG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ 最初に本作を観たのは予告編でも完成版の試写でもなく,10分強のサンプル・フッテージであった。くらげ坊(写真1)が,授業中の教室で他のふれんど達と戦うシーンは魅力的であった。3D作品であればもっと良かったのにと感じた。見せ場10分強の映像だけを先に公開するというマーケティング・センスは鋭い。
 
 
 
 
 
写真1 突進するくらげ坊。これは,3Dで観たかった。
 
 
  ■ 村上隆の名前は,原案・監督の他に,キャラクターデザインでクレジットされている。それだけのことはあり,「ふれんど」のデザインは素晴らしい。特に,敵キャラの方が上出来である(写真2)。CGデザインする前に人形が作られていたはずであり,当然しっかりキャラクタービジネスを目論んでいるに違いない。
 
 
 
写真2 個々のキャラ・デザインはさすがと言える
 
 
  ■ 全編でCG/VFXカットは900の予定が1,000以上に膨らんだという。浮遊するキャラは勿論CGの産物である(写真3)。そのカンフーバトルや透明化して消えて行くシーンの出来映えは,十分合格点を与えられる。一方,ヒロインの咲(浅見姫香)の巨大なふれんど「るくそー」は,着ぐるみと見て取れた(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 多数の浮遊キャラは,当然CGの産物
 
 
 
 
 
 
写真4 このふれんど「るくそー」だけは着ぐるみ?
(C) Takashi Murakami / Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 全体的にCGと実写の合成は陰影表現で不自然な箇所が目立った。終盤登場するボスキャラは,デザインも品質もお粗末だった。筆者がようやく全編を通して観たのは,公開1ヶ月時点の未完成版映像であったので,完成版までにはまだVFXの突貫工事が行われ,相当改善されているのではないかと好意的に解釈する。
 ■ 全編通しての物語は,児戯に等しく,お粗末な子供だましのレベルだ。ビジュアルセンスがウリのアーティストの作品とはいえ,これは酷過ぎる。続編2作を撮り,3部作にするというが,何とか大人の観賞に耐える作品に建て直して欲しいものだ。
 
 
 
  クドカンの抱腹絶倒コメディ,ヘタウマCGも大活躍  
   もう1本,邦画を取り上げよう。こちらは,マルチタレントの「クドカン」こと宮藤官九郎の脚本・監督作品である。Wikipediaには,「日本の脚本家,俳優,作詞家,作曲家,放送作家,映画監督,演出家,ミュージシャン」と記されているように,八面六臂の活躍だが,彼が最も才能を発揮するのは「脚本家」だろう。TVシリーズ『木更津キャッツアイ』で注目を集めたが,本欄で取り上げた『ピンポン』(02年7月号)『鈍獣』(09年5月号)『カムイ外伝』(同年9月号)だけを見ても,全く異質の作品群が並ぶ。見事な構成力で,コミックの脚色や戯曲でも才能を発揮していることが分かる。筆者にとって最も印象深かったのは,抱腹絶倒のコメディ『舞妓Haaaan!!!』(07)だ。嬉しいことに,本作はそのコメディ路線の延長線上にある青春映画だ。自ら監督を務める3作目で,絶妙のストーリーテラーぶりと緻密な演出力を発揮している。
 題名どおり,主人公は男子中学生の円山克也で,現役中学生の平岡拓真が演じている。監督が「最も多感で傷つきやすく,かつアナーキーだった中学時代。その記憶を美化することなく,包み隠さず描いた青春映画」というように,エッチなことばかり考え,スーパーヒーローになる妄想を膨らませる。冒頭から,チープで楽しいCGがふんだんに登場する。
 彼が妄想世界にトリップするのに付き合うシングル・ファーザー下井辰夫役は,SMAPの草g剛。シリアスな役も見事にこなすが,本作の前半で見せるコミカルな演技は特筆ものだ。その飄々とした天性のコメディ・センスを見出したクドカンの眼力は凄いと感じた。映画そのものも,前半は快調なギャグとパロディでぶっ飛ばし,物語にミステリー要素を織り込みながら,後半はペーソスの利いたヒューマンドラマと変貌する。いや,なかなか見事な構成力である。こちらはお子様映画でなく,老若男女が楽しめる娯楽映画に仕上がっている。
 他の登場人物の使い方も絶妙だ。『息もできない』(08)のヤン・イクチュン(写真5)もコミカルな役回りに仕立て,団地妻の坂井真紀と絡ませる。この2人の登場場面は笑える。余裕の演出だ。もう1人,往年のフォークシンガー,遠藤賢司が痴呆老人役で登場する。彼がストリート・ライブに乱入し,ギターの弾き語りでシャウトするシーンは圧巻だ。この老人と幼女が恋に落ちるという展開も意表をついている。
 
 
 
 
 
写真5 韓流スターのヤン・イクチュンが,コミカルな役で登場
 
 
  さて,肝心のCG/VFXだが,数々の妄想シーンで登場し,彩りを添えている。宇宙人然り,浜辺に置かれたベッドから空に延びる梯子も然りである(写真6)。妄想とともに光る円山君の背骨や多数のカラスもCG/VFXの産物だ。そのほとんどが,チープでお世辞にも高品質とは言えない描写レベルである。これは半分は低予算のせい,半分は意図的な安っぽさだろう。使い方が絶妙で,ヘタウマの妙だと言える。残念なのは,そのいずれもスチル写真として提供されないことだ。もはや,CGをウリにする時代ではないとはいえ,この映画の製作会社・配給会社は,作品の価値,宣伝方法を全く分かっていないのではないかと思う。
 
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写真6 この梯子が空高く伸びる
(C) 2013「中学生円山」製作委員会
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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