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O plus E誌 2015年9月号掲載
 
 
カリフォルニア・ダウン』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2014 VILLAGE ROADHSOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月12日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2015年8月5日 ワーナー試写室(東京)
       
   
 
天空の蜂』

(松竹配給)

      (C) 2015「天空の蜂」製作委員会
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月12日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2015年7月3日 大阪ステーションシネマ[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  和洋2本のパニック映画は,ヘリの扱いが対称的  
  3組目は,いわゆるパニック映画,Disaster Filmの類いである。大別して,宇宙人襲来,墜落・脱線等の大事故,地震・隕石等の天災,テロリストの脅威等が挙げられる。下記では,後の2ジャンルから,洋画1本,邦画1本を紹介する。いずれもCG/VFXを多用し,共にヘリが大きな役割を果たしている。
 
 
  物語は陳腐だが,よくぞここまで壊したと感嘆!  
  原題は『San Andreas』。米国カリフォルニア州を縦断する大きな活断層の名称で,日本ほどではないが,しばしば大きな地震を引き起こしている。M9.5の巨大地震が発生し,サンフランシスコやロサンジェルスが壊滅的な被害を受けるという内容だ。当初は,5月末に日米ほぼ同時公開の予定であったが,4月25日のネパール地震への配慮からか,本邦での公開が無期延期されていた(なぜ,日本だけ自粛したのだろう?)。
 正直言って,当初の予定通りだったとしても,本作には余り食指が動かなかった。最新CG技術を駆使して天変地異を描いた大災害映画なら,すぐに『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)と『2012』(09年12月号)が思い浮かぶ。『世界侵略:ロサンゼルス決戦』(11年4月号)でも,エイリアンの襲撃でLAの街が徹底的に破壊されていた。地震映画なら,邦画の『日本沈没』(06年7月号)も忘れてはならない。という風に,CGの威力は十分堪能してきたので,「またか」という印象をぬぐえなかったのである。
 そうしたネガティブな先入観があったのに,実際に本作の大地震のパワーを観ると,素直に興奮した。当欄としては,CG/VFXのクオリティで相対的に高評価を与えざるを得ない。と,ここまで書いてから,『2012』の紹介記事を読み直したのだが,何と,見出しも本文も,ほぼ同じことを書いていた。即ち,6年前に感嘆した破壊の描写が,さらに進化していた訳である。
 以下,他作品と比較しての見どころである。
 ■ 平穏な日常生活から始まり,やがて大災害に至る展開が多いのに,本作では開始早々,予兆の崖崩れが起こり,遭難した女性を救助隊が間一髪救出する。既にCGパワーも全開だ。続いて,ネバダ州のフーバーダムが倒壊する。重低音が鳴り響き,ワーナー試写室の椅子が振動する。そういえば,この体感演出は『大地震』(74)で最初に喧伝された手法だった。これを味わうには,絶対に音響効果の良い大きなシアターで観るべきだ。
 ■ そしてローレンス教授の予知通りM9.1の大地震が到来し,LAのビルが次々と倒壊する。見慣れたシーンとはいえ,その間をヘリがすり抜けるシーンには手に汗握る(写真1)。ヘリは実機で,背景がCGのVFX合成である。これだけで終わらず,M9.5の巨大地震が到来する。シスコではベイ・ブリッジは倒壊し(写真2),ゴールデンゲートにも大津波が襲来する(写真3)。CG製の津波はもう何度も観たが,街の破壊され方がリアルだ(写真4)。東日本大震災被災地の映像を何度も観てきた我々がそう感じるのだから,現地を知る米国人なら尚更だろう(写真5)
 
 
 
 
 
写真1 倒壊するビルを間一髪ですり抜けるヘリ
 
 
 
 
 
写真2 まずベイ・ブリッジが先に倒壊
 
 
 
 
 
 
 
写真3 (上)ゴールデンゲートの日常の光景,(下)そこに到来した大津波
 
 
 
 
 
写真4 東京も近々こうなるのかと想像してしまう
 
 
 
 
 
写真5 リアル過ぎて当該地区の住人はぞっとすることだろう
(C) 2014 VILLAGE ROADHSOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
 
 
  ■ ビルの亀裂や倒壊が力学的に正しいのか不明だが,映画としての迫力は凄い。本作は,とりわけ俯瞰視点での描き方が進化している。CG/VFX担当は,Scanline VFX,Hydraulx,Method Studiosである。中堅スタジオのHydraulxは『デイ・アフター…』『世界侵略…』の主担当であった。Scanline VFXも『2012』や『ポンペイ』(14年6月号)にも参加していたから,言わば,破壊表現のプロたちである。であれば,彼らが過去の作品よりもリアルな災害を描写できて当然と言える。
 ■ この種の映画の主役は災害表現で,物語は添え物と分かってはいたが,予想以上にお粗末な内容だった。主人公は救助隊長だというのに,大災害の非常事態に自分の妻子の救出だけしか考えていない。上司の許可を得ての行動だが,許可する上司も上司だ。新しい男を作り,離婚届を突きつけた夫人を助ける必要がどこにある? もう少し2次被害の状況にリアリティがあり,避難や救助の必然性が感じられる筋書きであって欲しかった。
 
 
  CGの規模では劣るが,緊迫感の演出はこちらが上  
   もう一方は邦画の意欲作で,新開発の国産ヘリを乗っ取ったテロリストが,全国のすべての原発の即時停止を要求し,聞き入れなければ,最新原発に落下させると脅迫するテロ事件を描いている。原作は,人気作家・東野圭吾の同名小説である。1995年に既に原発を題材にして小説を発表していたことから,原発再稼働と安全基準を巡っての論議が盛んな現在,その先見性が話題になっている。本作では,最後に少し東日本大震災後の被災地が登場するが,勿論,この映画化で追加された逸話だ。
 監督は,社会派サスペンスが得意な堤幸彦。主人公は,大型ヘリの設計士・湯原役の江口洋介とターゲットとなる原子力機器の設計技師・三島役の本木雅弘のダブル主演だ。助演陣は,仲間由紀恵,綾野剛の他,柄本明,國村隼,石橋蓮司,竹中直人などの日本映画界お馴染みの面々である。松竹作品だが,その広報宣伝から,かなり気合いが入っている一作だと感じ取れた。
 テロ事件は,小説発表当時の1995年の前提で進行する。防衛庁(当時)に納品予定の当日に大型ヘリ「ビッグB」が乗っ取られ,遠隔操縦で福井県の原発「新陽」の上空でホバリングする。燃料切れで墜落するまでの8時間に,姿の見えないテロリストとの虚々実々の駆け引きが始まる……。まだ9・11も3・11も経験していない時代であるから,確かにかなりの先見性である。10年以上前に映画化していたなら大したものだと言えるが,それでは原発の安全性には今ほどの理解がなかったし,話題性もなかったと言えよう。
 邦画のパニック映画としては,高倉健主演の『新幹線大爆破』(75)を思い出す。娯楽映画としての演出,緊迫感の出し方は,かなり参考にしていると思われる。同作は犯人グループが早々に明らかになっているのに対して,本作は犯人の姿は見えないまま物語が進行する。もっとも,目の肥えた観客なら,中盤辺りで真犯人は想像できてしまう。それでも,物語としては『カリフォルニア・ダウン』より数段面白い。
 ビッグBは頭部や後部など,部分的に実物大セットが組まれている(写真6)。外観全体はCGで制作され(写真7),飛行シーンや爆破シーン(写真8)などは,勿論すべてCGと実写の合成である。この点では,『カリフォルニア・ダウン』と逆なのが興味深い。一方,湯原が搭乗する自衛隊救出ヘリは,民間からのレンタル機を塗り直し,自衛隊機に見せた上で実写で撮影している。ビッグBとの接近シーンでの合成も卒なくこなしている(写真9)。ビッグBは全編のかなりの場面で登場するから,邦画のVFX映画としては大力作である。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 部分的に実物大模型を制作。左:コックピット部,右:可動床の後部格納庫。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 ビッグBの外観全体はCGで制作。全編で再三登場する。
 
 
 
 
 
写真8 クライマックスは,遠隔操作での爆破シーン
 
 
 
 
 
 
 
写真9 爆発された機体(CG)は自衛隊機(実機)と交錯し,落下する。映像として,好い構図だ。
(C) 2015「天空の蜂」製作委員会
 
 
  CG/VFXの主担当は,堤監督ご指名のエヌ・デザインだ。その他はメモを取り切れなかったが,20社近くが参加していたようだ。こうした大作が,日本のCGクリエータ達が腕を磨く場となることは喜ばしい。
 娯楽映画としては成功の部類だと思うが,反面,原発の安全性に対する姿勢があいまいで,その点に不満が残る。原作がどうであれ,今の時代にこの映画を作るなら,もっと明確なメッセージがいるはずだ。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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