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O plus E誌 2013年12月号掲載
 
 
47RONIN』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月6日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2013年11月12日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  無国籍で奇妙な忠臣蔵も,これはこれでアリか?  
  先月号で『42〜世界を変えた男〜』のことを,数字だけでなく,副題がついていても,普通の日本人には誰のことか分からないと書いたが,本作はすぐに赤穂浪士のことだと分かるだろう。原題は空白が入る『47 Ronin』で,これでIMDbを検索すると,全く同名で『四十七人の刺客』(94)や『The 47 Ronin』で『元禄忠臣蔵』(41)も出て来る。さすがに戦前公開の後者は観たことがないが,筆者の年代だと,映画・TVドラマ併せて数十本の「忠臣蔵」を経験してきた。NHK大河ドラマだけでも半世紀に3回製作されている。
 その中でも高倉健主演の『四十七人の刺客』は,「刺客」という珍しい言葉を使ったように,かなり大胆な新解釈の大作だった。本作は,キアヌ・リーブス主演,全編英語のハリウッド映画だというから,さらに斬新な「忠臣蔵」であることは間違いない。ひょっとして,K・リーヴスが大石内蔵助かと思ったら,さすがにそれはなかった。日英混血のカイなる人物で,少年時代から浅野家と関わりを持ち,仇討ちでは四十七士に加わるのだという。こうした架空の人物を加えて,新味を出した企画は多々あったから,全うな前提である。映画としては,『ロード・オブ・ザ・リング』(02年3月号) のファンタジー性に『グラディエーター』(00年7月号) の戦闘シーンを加味したものというから,VFX大量使用は確実であり,当欄としては大いに期待した。
 監督は,これが初長編となる新鋭カール・リンシュ。CM畑の出身だというが,初監督作品で伝統ある忠臣蔵の新解釈を任せるのは随分な冒険である。その半面,全く拘りのない斬新な映像作品を生み出すことも期待できる。大石内蔵助役には,最近洋画出演が目立つ真田広之。浅野忠信,菊地凛子といったハリウッド好みの俳優が主要な役どころを占めているのも心強い。ただし,浅野内匠頭役が田中泯で,吉良上野介役が浅野忠信だという。そりゃないよ。誰が考えたって,これは逆だ。田中泯はまさに吉良顔であり,浅野は浅野が演じるべきじゃないか。浅野家の姫君ミカ役に柴咲コウを配し,K・リーヴスの恋人役としたため,年齢的に父親の内匠頭を老人にしたのだろうが……。スタッフは全員ハリウッド人脈で,大半をブダペストで撮影しているが,上記の他にも日本人俳優は何人か登場し,赤西仁が大石主税を演じている。全員そこそこの英語を話せていた。
 物語はと言えば,刃傷,切腹,仇討ちという骨格は「忠臣蔵」であるが,映像的には全く無国籍の奇妙奇天烈なファンタジーだった(写真1)。赤穂浅野家の城も武者の甲冑も赤揃え(写真2)なのはまだしも,吉良邸は屋敷でなく,堂々たる山城だった(写真3)。敵味方は色分けされていて,極めて識別しやすい。ちょっと黒澤明の『乱』(85)を思い出す。日本文化は無視して,思いっ切りデフォルメしているかと思えば,所々で純然たる和風,和式の事物が登場するから頭が混乱する。中盤,テングと称する妖術集団が登場する(写真4)に及んで,ようやくこれは「忠臣蔵」を意識せずに観るべき洋画だと気付かされる。
 
 
 
 
 
写真1 この広大な荒野だけで,既に国籍不明
 
 
 
 
 
写真2 大石内蔵助と赤穂浪士たち
 
 
 
 
 
写真3 何とこれが吉良の城。ここに討ち入るとは…。
 
 
 
 
 
写真4 ヒラヒラ舞う衣は,勿論CGでの描写
 
 
  この映画は,誰を主ターゲットとして企画されたのだろう? 国内では賛否両論か,拒絶反応の方が強いと想像するが,アジア市場ではこれでいいのかも知れない。以下,擁護派と拒絶派の視点から論じてみよう。
 【擁護派】「忠臣蔵」などロクに知らない若い世代には,和風テイストを振りかけたCGファンタジーで一向に構わないだろう。海外市場も同様だ。広大な屋敷や甲冑姿の戦士など,中国映画の武侠物を思い出す。あれだって,中国の歴史や文化を正確に描いている訳ではない。我々は,相当デフォルメした映像を楽しんでいる。
 異彩を放っていたのは,吉良家の女間者ミヅキを演じた菊地凛子だ。白狐や蛇に変身して,存在感は随一だった(写真5)。彼女が操る毒グモなども,CGの出来は上々だった。CG/VFX主担当はFramestoreで,MPCやデジタル・ドメインが副担当として参加している。
 
 
 
 
 
写真5 存在感抜群。ついに蛇にまで変身。
 
 
  【拒絶派】K・リーヴスの着物姿は似合っていて(写真6),『ラスト サムライ』(04年1月号) のトム・クルーズと好勝負だが,主役としての存在感が今イチだった。血判書や白装束など,しっかり日本風かと思えば,切腹シーンで全員上半身裸になるのは興醒めだった。和服なら,腹の部分だけを出せることも判っていないのか。
 
 
 
 
 
写真6 かなり和服姿が似合っている
(C) Universal Pictures
 
 
  映像的には,3Dの効果は殆どなく,戦闘シーンも大味で特筆すべきものはなかった。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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