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O plus E誌 2013年11月号掲載
 
 
42〜世界を変えた男〜』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月1日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2013年9月11日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  主人公以上に,助演者の男の美学を感じる逸品  
  この表題から,どんな分野の,誰を描いた作品か分かるなら,相当な通だろう。本作の予告編は,まずヤンキースのユニフォームで背番号42をつけたイチロー(本来は31)が登場し,「知っていますか? イチロー初め,メジャーリーグの全選手が,年に一度背番号42をつけることを」というナレーションが続き,全員が「42」を背にしているチームが登場する。そう,これはベースボール界の伝説上の人物,黒人初の大リーガー,ジャッキー・ロビンソンを描いた物語である。
 これは日本国内用の予告編だけの映像であり,米国版予告編には全く登場しない。本編でも,永久欠番のことは,エンドロールでの後日譚の1つとして触れられるだけである。原題は単なる『42』。即ち,アメリカ人なら誰でも知っている事柄だが,副題を付け,その上,イチローまで登場させたのは,日本人の大半は知らないだろうという配給会社の広報担当の判断である。
 彼のMLBデビューは,1947年4月15日。その50周年を記念して,1997年の同日に,彼の背番号42が全球団共通の永久欠番となったようだ。映画では,1945年にブルックリン・ドジャースのGMブランチ・リッキーに見出され,1946年に傘下のマイナーリーグ,モントリオール・ロイヤルズで頭角を現わし,翌年メジャーデビューを果たして,成功を収める過程が描かれている。彼のデビューが,球団内外に大きな波紋を巻き起こし,チームメイトや相手チームの監督からの露骨な嫌がらせを受け,孤独な闘いを続ける様は,まさに感動のストーリーを仕立て上げるのに格好の材料だ。
 1947年は筆者が生まれた年であり,大リーグのチーム名をそらんじていた団塊の世代の野球少年たちも,さすがにこの選手のデビュー当時までは知らなかった。時代は,占領下で日本国憲法が公布され,施行された頃である。自由と平等の平和憲法を押しつけた国では,まだここまで露骨な人種差別が横行していたのである。南北戦争から80年以上経っても尚この状態であり,M・L・キング牧師らの公民権運動が1950〜60年代であったことを考えると,この選手のMLBデビューがいかに大きな衝撃であったか,改めて思い知らされたというのが偽らざる感想である。
 脚本・監督は,ブライアン・ヘルゲランド。監督としてはこれが4作目だが,脚本家としての実績が上で,『L.A.コンフィデンシャル』(97)『ミスティック・リバー』(03)でオスカー受賞とノミネートを果たしている。主人公のJ・ロビンソンを演じるチャドウィック・ボーズマンは,これまでTVドラマが主体だったが,本作でブレイクすることだろう。むしろ真の主演と言えるのは,この伝説の創造者ブランチ・リッキーを演じたハリソン・フォードである。あのインディ・ジョーンズがこんな老け役で熱演するのかと感慨深い。まさに,男の美学だ。その半面,(本号の別作品に登場する)ジェフ・ブリッジス,トミー・リー・ジョーンズが演じても,それなりの味のある好演になったのではないかと想像した。
 映像的には,少しぼやけて色褪せた画質で始まり,60年以上前にタイムスリップする感じを抱かせた上で,次第に普通の映像に戻している。試合の描写,J・ロビンソンの活躍も,数々のスポ根ものを観てきた目には,スーパープレーがなく,淡泊で,盛り上がりに欠ける感もある。運動能力からすれば,これくらいが本物に近いのだろう。激し過ぎない試合描写が,彼が逆境に堪えている様を象徴しているとも言える。
 さて,当欄のお目当てのCG/VFXだが,ドジャースの本拠地エベッツ球場(当時はロサンジェルスでなく,NYのブルックリン区内)の外観(写真1)は言うまでもなく,NY市街地の夜景,高架鉄道等々もVFXでの描写である。一方,フィールド内視点からの試合のシーンは,観客だけCGで描いているのかと思ったら,スタンドそのものもVFXの産物のようだ(写真2)。どこかの古い地方球場の利用で済みそうに思えるのだが,当時の3階建てのメインスタンドや外野の場外を描くのに,VFXの力が不可欠なのである。さほど高度な技術が要る訳ではないが,Hammerhead Productions, Shade FXが,無理のない,良質の合成シーンを生み出していた。
 
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写真1 1947年当時のエベッツ球場をデジタル再現
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 観衆だけでなく,内外野スタンドや場外の建物もCG製
(C) 2013 LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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