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O plus E誌 2012年7月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『一枚のめぐり逢い』:ザック・エフロン主演のラブ・ストーリーで,原作は人気作家ニコラス・スパークス作のベストセラー小説「The Lucky One」だという。ついこの間まで『ハイスクール・ミュージカル』シリーズで高校生を演じていたイケメン青年が,海兵隊勤務を経て帰還したヒゲ面の男臭い風体で登場し,子連れのバツイチ女性と恋に落ちる。まあ,これも大人の俳優への成長過程だ。戦場で拾った1枚の写真が結ぶ縁であり,これが災いのもとともなる。物語の展開としては,山田洋次監督の『遥かなる山の呼び声』(80)によく似ているが,落しどころが相当に違う。物事は万事,美男美女に好都合に働くのがこの種の映画の常とはいえ,ここまで能天気な結末だと少し白けてしまう。
 ■『ネイビーシールズ』:戦闘シーンのリアルさでは,これまでに観た映画の中で最高傑作だろう。表題は米海軍の特殊コマンド部隊の名称で,誘拐されたCIA局員の救出作戦とそこから発展するテロ事件の防止作戦を描いている。何しろ,主要キャストは俳優ではなく,実際の隊員たちを起用し,制服も銃火器も作戦立案もすべて本物だという。とりわけ,中盤の救出作戦の迫力はもの凄い。脱出後は,ボートをヘリが吊り上げ,浮上した本物の潜水艦の艦上へと移動する。このリアルさには息を飲むが,それを誘導する音楽がかなり騒々しい。ここまで煽ってくれなくても,十分緊迫感は得られる。作戦成功の陰で落命した隊員に捧げる鎮魂歌は不快ではないが,ここまで英雄視する脚本には少し引いてしまう。この自己中心的な論理で,米国は民族紛争に介入し,国際政治を蹂躙しているのだから。
 ■『ワン・デイ 23年のラブストーリー』:アン・ハサウェイ主演のラブ・ロマンスで,お相手は『ラスベガスをぶっつぶせ』(08)のジム・スタージェス。ポール・マッカートニー似のあの青年だ。1988年7月15日に知り合った彼らのその後の関係を,定点観測のように毎年同じこの日に切り出し,23年間描き続ける。互いに別の恋人がいる親友関係というのは,NYを舞台にした『恋人たちの予感』を思い出す。同作品の公開は1989年だったから,その後の時代背景の中で,同趣旨の男女関係をロンドンとパリに舞台を移して描いた訳だ。途中少し退屈するが,物語は最後の4年間で急展開を遂げる。少し安易な決着かなと思いつつも,種明かしのように出会いの原点に回帰する手口は巧みだ。ジム・スタージェスは子育てに明け暮れる現代のヒゲ面の方がカッコいいが,アン・ハサウェイは最初の丸メガネで芋ネエチャン風の女子学生姿の方が,素朴で可愛い。
 ■『プレイヤー』:映画は予備知識なく観て驚くのも感動するのもアリだが,本作品は浮気に奔走する2人の男の姿を様々な形で描くオムニバス作品だと分かっていた方がいい。そうでないと,何が何だか分からなくなる。邦題は英題のカタカナ表記だが,これが「プレイボーイ」の意だと分かる日本人はそう多くない。原題は『Les Infideles』で「不誠実」の意だ。原案・製作・主演は『アーティスト』(11)で本年度アカデミー賞主演男優賞に輝いたジャン・デュジャルダンで,相棒は『この愛のために撃て』(10)のジル・ルルーシュ。2人で最終エピソードの共同監督も務めている。他のエピソードの監督も,『アーティスト』のミシェル・アザナヴィシウス,フレッド・カヴァイエなど,フランスの映画界の錚々たる面々である。多彩な浮気男を演じるジャン・デュジャルダンの役者ぶりが抱腹絶倒だが,この種の映画はフランス語かイタリア語が断然良い。そう言えば,『アーティスト』ではセリフは全くなかった訳だが。
 ■『それでも,愛してる』:タフな刑事役や異色作品の監督業で名をはせたメル・ギブソンの主演作で,鬱病で家庭崩壊を招いた玩具会社社長ウォルターを演じる。妻メレディス役は,16年振りの監督第3作のメガホンをとるジョディ・フォスター自身が演じている。原題は『The Beaver』。ウォルターが"ビーバーのぬいぐるみ人形"を手にして,腹話術を始めた途端,鬱病は消滅し,躁状態にまで達するという設定だ。このビーバーの声色,指操作はまさに熱演であり,本作最大の見ものである。心を病んだ父と17歳の多感な長男との確執は,ハリウッドお馴染の父と子の物語だから,最後がどうなるかは容易に想像できてしまう。結末が問題ではなく,現代社会で起こりがちな悩み,迷い,心の葛藤の描写がテーマとは分かっていても,あまり愉快な映画ではない。それとも,こうした掘り下げ方が,同様な悩みをもった人々の救いになるというのだろうか?
 ■『臨場 劇場版』:例によって,テレビ朝日系列のTVシリーズを映画化し,東映が配給する劇場版だ。そのこと自体は問題ないし,『相棒』『探偵はBARにいる』に続いて,先月号の『外事警察』と本作もシリーズ化するのかと想像した。残念ながら,本作はその期待に応えるほどの出来映えではないと感じた。原作は,横山秀夫の同名の短編連作警察小説で,主人公は敏腕検視官・倉石義男を中心とした鑑識課チームという設定は悪くない。TV版はそこそこ高視聴率だったようだが,劇場版ということで力が入ったのか,さしたる事件でもないのに引き伸ばし過ぎだ。別の事件の人間模様を絡ませたのも無理がある。何よりも,内野聖陽演じる検視官に全く魅力がない。組織に反抗する一匹狼の警察官という存在は,小説・映画向きではあるが,ここまで粗野だとリアリティがなく,不愉快なだけだ。
 ■『ラム・ダイアリー』:原作は作家ハンター・S・トンプソン(故人)の同名小説で,ジョニー・デップがこのかつての親友に捧げた作品として,自ら企画・製作し,主演している。最近,海賊の船長,殺人鬼の理髪師,狂気の帽子屋,ヴァンパイア……と異様なメイク続きだったで,普通の顔での登場が物珍しく感じる。舞台は1960年のプエルトリコの州都サンファンで,主人公は破綻寸前の新聞社に雇われ,ラム酒漬けの日々というので,やはり根っから堅気の役柄ではない。映像を通して,当時の社会情勢や,米国の自治領たるこの地区の貧困と観光地としての様子がよく分かる。最近の映画としては少し盛り上がりに欠けるが,この時代の描くテンポとしては悪くない。この役はJ・デップ自身が演じる必要はあったのかと思う半面,こうしたJ・デップの一面も悪くないなと感じた映画だ。
 ■『ぼくたちのムッシュ・ラザール』:舞台はカナダ・モントリオールの小学校で,授業も映画全体も公用語のフランス語で語られる。自殺した担任の女性教師の代用教員としてアルジェリア移民のバシール・ラザールが採用される。教育熱心な彼と問題児生徒らとの交流を描いたヒューマン・ドラマだが,人生の意味,教育のあり方を問う,期待通りの素晴らしい映画だった。校長はじめ,専任教員の大半が女性であり,モンスター・ペアレントの介入,生徒の身体に触れるなという規則等の描写に,洋の東西を問わない教育現場の荒廃を痛感させられた。冬から春,夏へ,クラスの子供たちの心が癒された頃,教員資格も永住権ももっていないことが発覚し,ラザール先生は学校を追われることになる……。その先をくどくど語らず,感度的なエンディングで締めくくる。このハグのシーンは素晴らしい!
 ■『苦役列車』:異色作家・西村賢太の芥川賞受賞作品の映画化で,貧しい肉体労働青年の青春を描いている。父親が性犯罪者で一家離散,中卒で酒に溺れる日雇い労働者,風俗通い,安アパートの家賃滞納といった日常は,この作家自身の実体験を誇張したものだろう。社会の底辺層のリアルな描写とも言えるが,正直言って,この主人公には全く感情移入できず,同情心は湧かない。むしろ不愉快な思いの方が強く,孤独で救いのない生活は,自己責任だろうと言い放ちたくなる。唯一の救いは,読書だけが趣味で,物書きを目指す下りだが,その結果が芥川賞に繋がったという事実を知らなければ,最後まで観ているのが「苦役」だった。そこまでの気分にさせてくれた主演の森山未來の演技力も,山下敦弘監督の演出力も大したものだと言えるだろう。
 ■『屋根裏部屋のマリアたち』:チャーミングな映画だ。舞台は1960年代ドゴール政権下のパリ,フランコ独裁政権下のスペインからパリにやって来た若い女性マリアと,彼女をメイドとして雇った富豪との淡いラブ・ストーリーをコメディ・タッチで綴っている。フランス語とスペイン語が入り交じる会話だけで,エレガンスを感じてしまう。パリのブルジョワジーの生活描写も興味深いが,屋根裏部屋に住む陽気なスペイン人メイドたちの描き方が素晴らしい。男性観客は間違いなく,主人公ジャン=ルイに感情移入し,美しいマリアに恋することだろう。波乱万丈の物語ではないが,ラストのマリアの笑顔だけで幸せな気分になってしまう。
 
   
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