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O plus E誌 非掲載
 
 
モンスターズ・ユニバーシティ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2013 Disney / Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月6日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー公開予中]   2013年7月6日 TOHOシネマズ二条
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  15年前の前日譚は,素晴らしいデザインで描かれたキャンパス・ライフ  
  フルCGアニメの発展史として紹介されるピクサー作品だが,本誌で紹介できなかったので,止むなくWebで紹介しておこう。「もはや,フルCGアニメだからという理由だけで取り上げる時代ではない」と記してから久しいが,それでもかなりの比率で紹介してきた。それだけ,技術的にもクリエイティビティの上でも語るべきことが多かったからである。
 ところが,米国ではそこそこヒットしたメジャー系の映画なのに,本邦では公開すらされず,そのままビデオ作品(DVDやBlu-ray Disc)としてスルーされる作品も増えてきた。ブルースカイ・スタジオ製の人気シリーズの4作目『アイス・エイジ4/パイレーツ大冒険』(12年7月米国公開)までがそうなったのは淋しい限りだ。最大手の1つドリームワークス・アニメーションの『不思議の国のガーディアン』(12年11月米国公開)や『クルッズ』(13年3月米国公開)も,日本での公開予定は立っていない。後者は国際線機内で観たが,古代人の家族の勇気と知恵を描いたユニークな設定で,極めて良質なファミリー映画だ。これが日本でヒットするかと問われたら,余り肯定的な返事はできない。本邦にはどのシーズンにも定番のアニメ作品が待っているだけに,興行としての採算を考えたら止むを得ないところだ。
 そんな中でも,ディズニー・ブランドで公開するピクサー作品だけは興行的にも別格である。既に『トイ・ストーリー』シリーズや『ファインディング・ニモ』(03年2月号)で,一般人にもピクサーの名はかなり浸透しているので,尚更である。そのピクサー14作目の劇場用長編アニメである本作は,恒例の夏休み開始時期より2週間早い7月6日の公開となった。今夏は,7月20日公開の宮崎アニメ『風立ちぬ』との競合を避けてのことなのだろう。
 費用効果比を考えてか,大阪地区ではマスコミ用試写会自体がなかったので,筆者は公開日の午前中に映画館で3Dの日本語版を観た。あまり埋まっていない客席の大半は母親と幼児の組か,せいぜい中学生までの客層であった。それでも,公開週も次週も,興行成績は邦画を抑えて2週連続のトップであった。さすが,ディズニー&ピクサーのブランド力だと感心した。単にそれだけでなく,かつての名作『モンスターズ・インク』(02年2月号)の続編で,キャラクター・ビジネス等でのお馴染みのサリーとマイクのコンビの再登場ゆえ,知名度も高かったのだろう。
 表題からすると,インク(株式会社)の後に,彼らは大学に入り直したのだろうか,それとも会社が副業で大学を始めたのかと想像したのだが,全く違っていた。まだ「モンスターズ・インク」に入社する前の前日譚で,彼らの大学入学時の出来事を描いている。それも,前作で脇役だったチビで1つ目のモンスターのマイクが,本作では堂々の主役である(写真1)。漫才コンビに喩えるなら,ボケ役のサリーに対して,やや地味なツッコミ役だったが,今度はこちらに焦点を当てようというのは,キャラクター・ビジネス上も上手い作戦だ。
 
 
 
 
 
写真1 前作で脇役に徹したマイクが,堂々の主役
 
 
  人間の子供を怖がらせて,その悲鳴エネルギーを収集する独占企業が「モンスターズ・インク」という前提は前作と同じである。そこで働くエリート・モンスターを育てる最難関大学が「モンスターズ・ユニバーシティ」であり,マイクは小学生の頃から「怖がらせ屋」になることに憧れ,この大学に入学して来る。ところが,小柄で可愛過ぎるマイクは全く怖くないことから,学部を追放される。一途なマイクは,モンスター界のタブーを破り,起死回生の作戦を実行しようとするが,史上最悪の事件を引き起こす……。という設定の下に,学園生活の楽しさも冒険もふんだんに盛り込まれている。
 前作の監督ピート・ドクターは,御大ジョン・ラセターらと共に製作総指揮に回り,新たに監督に抜擢されたのは,ダン・スキャンロンだ。『カーズ』(06年7月号)の脚本の一部を担当し,『トイ・ストーリー3』(10年8月号)のストーリー・アーティストも務めたというが,これまでこの名前を聞いたことはなかった。ピクサー人脈の中にも,監督予備軍は多数いるはずだから,やはり実力あっての抜擢だろう。
 サリーとマイクの声の出演は,前作と同様,ジョン・グッドマンとビリー・クリスタルだが,日本語版の石塚英彦(ホンジャマカ)と田中裕二(爆笑問題)のコンビも継続されている。体型的にもぴったりで,このコンビがなかなかいい。ボケとツッコミの呼吸も合っている。ライバルの『シュレック』(01年12月号)は,日本語版の主演がダウンタウンの浜ちゃん(浜田雅功)で,およそ重量感がなかったが,その点,石塚英彦のサリーは絶品だと感じた。本作では,登場場面の多いマイクの声を,田中裕二は見事に演じ切っている。是非,日本語版を観て欲しいところだ。各国の年少者観客を意識してか,ピクサー作品は,劇中の英語表記(看板や本の題名等)を,各国語に差し替えた映像を上映しているが,本作はその比率が一段と増し,至るところに日本語が溢れていた。フルCGアニメなら簡単にできることとはいえ,大したサービス精神だと思う。
 物語は,冒険あり,笑いあり,友情ありのまずまず水準以上の出来で,満足度も高い。「夢をもってひたすら努力する者には,必ず道は開かれる」というテーマは少しクサイが,ファミリー映画としては止むを得ないところで,あまり説教臭くなく,楽しくまとめている。
 さて,当欄としては,CG技術のことも語らねばならない。オープニング・シーケンスは,まるで実写のような光景の連続だった。3Dの飛び出し感,奥行き感も効果的に配置され,この点でも卒はない。技術的には,さほど驚きはないのだが,本作の場合,やはり前作と比べて見るべきだろう。10数年間での画質面での向上は圧倒的だ(写真2)。やはり,特筆すべきはサリーの体毛で,本数は15倍になっているという。前作で,物理モデルによる衣服シミュレーションの導入は,少女のブーだけだったが,本作では127体に適用されている。屋外シーンが多くなったためもあり,各シーンで登場するキャラクター数は平均25体に及んでいる。しかも,その一体一体を丁寧に描き分けている(写真3)。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 前作(上)と見比べると,画質の差は歴然。サリーの毛は15倍に増えている。
(c)DISNEY/PIXAR
 
 
 
 
写真3 凡庸に見えるが,モンスターは一体ずつ顔も形も色も,描き分けられている。
 
 
  前作では,1コマ(1/24秒)の平均レンダリング計算時間は8〜10分だったが,恐らく現在も同等の計算時間を使っていることだろう。となれば,スペック的にはコンピュータの性能向上分,画質が向上するのは当然であるが,ピクサー作品の場合,美的デザイン面での向上も嬉しくなるほどだ。本作で,それが遺憾なく発揮されているのは,大学キャンパスのデザインだ(写真4)。広大な敷地に古風で威厳のある建物,樹木の配置,そこを行き交うモンスター学生の動きまで,見事の一言に尽きる。ハーバード大学,マサチューセッツ工科大学,カリフォルニア大学バークレー校等の名門校を取材した結果だというが,そこには伝統あるキャンパス・ライフへの憧れと尊敬の念も込められていると感じられた。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 キャンパス内のデザインも描き込みも素晴らしい
(C) 2013 Disney / Pixar. All Rights Reserved.
 
 
 
  大学生活での各種イベント,米国独特の学生友愛サークルの活動もしっかりと描かれている。現役学生が共感を覚えるのは勿論のこと,何年,何十年前に大学を卒業した社会人たちも,輝かしい青春時代の1コマ,各自のキャンパス・ライフを思い出し,感じるものが多いはずだ。そうした郷愁の念も描いた作品なのに,本邦では小中学生しか観に行かないというのは,実に勿体ないと感じた次第だ。
 
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