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O plus E誌 2013年8月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『偽りの人生』:アルゼンチン映画で,製作・主演は,『ロード・オブ・ザ・リング』(01~03)『ザ・ロード』(09)のヴィゴ・モーテンセン。NY生まれだが,3歳から11歳までを過ごした「第二の故郷」だけあって,全編スペイン語のセリフで挑み,しかも一卵性双生児の兄弟を見事に演じ分けている。闇社会で荒んだ生活を送ってきた末期ガンの兄が,首都で医師を営む裕福な弟の家庭を訪れ,自分を殺してくれと依頼する。人生をやり直すことを切望していた弟は,兄を殺害し,彼になりすまして,故郷の水郷の村へと戻るが,そこには兄が関与していた犯罪組織が待っていた……。このデルタ地帯の汚さ,貧困振りは,『ハッシュパピー バスタブ島の少女』(13年5月号)の住人たちの生活を思い出す。入れ替わったことが発覚しないか,結構サスペンスフルな展開であり,素朴な少女との恋の描写も悪くない。それでいて,今一つ感情移入できなかったのは,何不自由ない生活を捨てて,別の人生に賭ける意味が,凡人である筆者には理解できなかったからだろうか。
 ■『シャニダールの花』:不思議な設定の幻想的な映画だ。脚本・監督は,『五条霊戦記 GOJOE』(00)の石井岳龍だから,単純で素直な作品は期待しなかったが,それでも,女性の皮膚に植物が宿り,美しい花を咲かせるという設定は不思議な感覚だった。表題は,イラクのシャニダール遺跡に由来しているらしい。表現は難解でも異様でもないが,なぜこんなSF的な設定をしたのか,根拠となる事象は何なのか,最後まで謎は解けなかった。この摩訶不思議さがウリなのだろう。あらゆるシーンやセリフが,その不思議な感覚を維持し,最後まで緩まない。主演の植物学者役は,いま売れっ子の綾野剛。この繊細な役にはピッタリだ。ヒロインには『東京オアシス』(11)の黒木華が起用されている。「文学的な香りがする女優」という評価は,本作でもそのまま当てはまっている。いいキャスティングだ。
 ■『31年目の夫婦げんか』:結婚31年目で夫婦の絆を取り戻すため,妻が夫に求めたのは,1週間の高額セラピー。そこには驚きの試練が待っていた……。監督は『プラダを着た悪魔』(06)のデヴィッド・フランケル,主演がメリル・ストリープで,夫役に配されたのは,ベテランのトミー・リー・ジョーンズとくると,モーレツ妻に気弱で口数の少ない亭主の組み合わせかと想像したが,偏屈度や口数の多さは逆だった。原題は『Hope Springs』でセラピーを受ける町の名に過ぎない。「けんか」は少し語弊があるが,なかなか良い邦題だ。夫婦の性生活にまでずけずけと切り込むカウンセリング場面は,かなり笑いを誘うが,後半は真面目なヒューマン・ドラマである。ただし,道化役しか見たことがないスティーヴ・カレルが,ニコリともせず,大真面目な顔でセラピストを演じているのが,却って可笑しかった。
 ■『ニューヨーク,恋人たちの2日間』:ロマンチックな題だが,ハイテンポでセリフもどっさり,観客をも翻弄するラブ・コメディだ。どこかで聞いたことがある題名だと思ったら,『パリ,恋人たちの2日間』(07)の続編だった。前作を観ていないと,この映画のエッセンスは楽しめないかと思う。前作同様,監督・脚本の上に,写真家マリオンを主演するのはフランス人女優のジュリー・デルピー。パリからNYに移り住み,新しい恋人は人気DJの黒人男性ミンガス(クリス・ロック)で,互いの連れ子と一緒に住んでいる。そんな彼らのアパートに,マリオンの父親,妹とその彼氏が訪れ,居座り,やりたい放題で数々の騒動を引き起こす。彼らの奔放な言動を第3者の目で笑っていられるか,翻弄されて切れそうになるかは,ミンガスへの感情移入度に寄るだろう。付き合い切れない父親役のアルベール・デルピーはジュリーの実父で,父と娘の呼吸はピッタリだ。
 ■『終戦のエンペラー』: 進駐軍の最高司令官マッカーサー元帥の名前は誰でも知っているだろうが,戦後生まれの筆者の世代は,同時代に彼を見た記憶はない。サングラス,パイプ姿で厚木飛行場に降り立った写真と米国大使館を訪問した天皇陛下と並んだ写真で知るのみだ。本作はこの2枚の写真の間の出来事を克明に描いた物語で,主人公は天皇の戦争責任の調査を命じられたフェラーズ准将(マシュー・フォックス)である。映画自体は米国籍だが,原作は岡本嗣郎のノンフィクション「陛下をお救いなさいまし 河井道とボナー・フェラーズ」で,舞台となるのは東京,登場人物の大半は日本人である。まだ生き証人も多いので,当時の建築物はかなり忠実に再現されていると見て取れた。マッカーサーを演じるのは,ここでもトミー・リー・ジョーンズ。上記の『31年目……』より先に観たので,その点での違和感はなかったが,あまり適役と思えなかった。その一方で,西田敏行,伊武雅刀,夏八木勲,桃井かおり等の日本側出演者の演技は,いずれも重厚かつ繊細で,この歴史的事実を記憶に留めるのに相応しい好演揃いだった。
 ■『トゥ・ザ・ワンダー』:30数年間でたった4作品しか撮らなかった超寡作の巨匠テレンス・マリックが,5作目の『ツリー・オブ・ライフ』(11年8月号)から間を置かずに生み出した最新作である。フランスの聖地モンサンミシェルに始まり,米国オクラホマ州の大自然を描く,流れるような映像は,まさに芸術であり,音楽も詩的だ。豪華出演陣ながら,セリフはほとんどなく,前作以上に難解と言わざるを得ない。テーマは,男女の愛の芽生えと移ろい,そして神の存在なのだろうが,筆者には,この監督の映像の意図を,一度の観賞だけで適確に読み取る力はない。主演のベン・アフレックはどう見ても凡庸だが,この巨匠から何かを学び取れば,監督として大成する糧にはなるだろう。彼と恋に落ちるシングルマザー(オルガ・キュリレンコ)と学生時代の女友達(レイチェル・マクアダムス)は共に魅力的で,私なら両方ともずっと愛し続けたい。
 ■『マジック・マイク』: 監督はスティーヴン・ソダーバーグ,主演は目下売り出し中の人気男優チャニング・テイタム。その彼が10代に実体験したという男性ストリッパーの世界を描いている。女性観客の圧倒的な支持を得て大ヒットしたという本作を,物珍しさをもって観た。なるほど,こういう世界もあるのか。イケメンで,筋肉質のダンサーたちの肢体には,少し嫉妬心を感じつつ眺めた。経験者C・テイタムのダンスは素晴らしく,弟分を演じたアレックス・ペティファーが女性客を魅了するのも理解できる。この若い2人よりも,存在感を示したのは,男性ストリップクラブの経営者役のマシュー・マコノヒーだ。既に40代だが,そうは見えない肢体と歌で,若者に一歩も引けをとっていない。各種映画祭で助演男優賞に輝いたのも当然だ。
 ■『タイピスト!』:一言で言って,実にチャーミングな映画だ。主演女優(デボラ・フランソワ)も映画も,それ以外に形容のしようがない。フランス映画で,時代は1950年代,当時の女性の憧れの職業は秘書だった。まだPCやワープロは勿論,電動タイプライターすらない時代で,適確で迅速なタイプ打ち能力が求められていた。メモも取れない,備品も壊す,田舎娘のドジな新米秘書が,タイピング早打ちの能力だけを買われ,コーチ役の上司と早打ちコンテストを目指すサクセス・ストーリーだ。衣装,調度類から,映像の色合いまで,50年代を見事に再現している。スポ根ものに通じる猛特訓や競技会でのかけひきの様子を描く半面,現代女性を意識した描写があり,女性の存在感もしっかり加味されている。物語はフランス全国大会まででも良かったのだが,さらに米国での世界大会がついていた。若干蛇足の感があったが,ここでアメリカをコケにする様子を描きたかったのだろう。監督は,これがデビュー作となるレジス・ロワンサル。いや,大した才能だ。
 
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