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O plus E誌 2012年7月号掲載
 
 
 
 
『だれもがクジラを愛してる。』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
 
 
      (C) 2012 UNIVERSAL STUDIOS

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [7月14日よりTOHOシネマズ シャンテ他順次ロードショー公開予定]   2012年5月31日 東宝東和試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ただの感動作でなく,マスコミの狂騒ぶりが印象的  
  当初は短評だけの予定だったのに,今月もまた1本,試写を観てからメイン欄に格上げしてしまった。それが,このクジラ救出劇の映画である。北アラスカの北極圏で氷漬けになり,逃げ場を失ったクジラ3頭を救出するために,まだ冷戦下の米ソが協力作戦をとるなど,国際的にも大騒ぎとなった実話がベースとなっている。かすかに記憶はあるが,1988年の出来事で,もう24年も経っているとは思わなかった。その後も何度か類した救出劇が報道されているし,最近ではアフリカ象の親子の救出騒ぎが記憶に新しい。
 本作の原題は『Big Miracle』。原作は,ジャーナリストのトーマス・ローズが1989年に著した「Feeling the Whales: How the Media Created the World's Greatest Non-Event」であるから,なかなか味な邦題をつけたものだ。今回この映画の公開直前に,同じ題の邦訳本(阿部清美訳,竹書房刊)も初めて出版されるという。何で今頃?との感もあるが,原作の映画化権を得てここまで漕ぎ着けたのは,脚本家のジャック・アミエルとマイケル・ベグラーの情熱だったようだ。
 監督は『そんな彼なら捨てちゃえば?』(09)のケン・クワピス。主演の自然環境保護団体グリーンピースの女性活動家レイチェルを演じるのは,『チャーリーズ・エンジェル』シリーズのドリュー・バリモア。実際にも,動物愛護や人権活動家として,種々の慈善活動や特別大使を務めているから,この役はピッタリである。彼女の愛らしさと,芯の強さと,マイペースの傍若無人な活動家ぶりが,この物語を引っ張っている。彼女の元カレで,現地TVレポーターのアダム役には『お家をさがそう』(09)のジョン・クラシンスキー。助演陣に余り名の通った俳優はいないが,特筆すべきは,アラスカ先住民イヌピアト族に本物の先住民を起用したことだ。族長マリク役を演じるジョン・ピンガヤックの風貌は,少し日本人に似ている。彼もネイサンを演じた少年も,これが映画カメラの前に立つのは初めてとは思えぬ好演である。
 さて,メイン欄に格上げした理由は,勿論予想以上にVFXが効果的な役割を果たしていたからだ。クジラが人々の眼前に登場する場面が頻出する。誰が考えてもすぐ分かるが,現実のクジラがここまでの演技はできないし,ましてや史実と丁度同じ3頭が海中を悠々と泳ぐシーンを好都合に撮影できる訳はない。当然,ここはSFX,VFXの活躍の場である。
 わずかに残された穴からクジラたちが呼吸をしに,海上に顔を出すシーンの質感は抜群だ。その表面での光の反射や海水の滴りをCGで表現するのは容易ではないし,不可能でないまでも,コスト的には得策ではない。この頭部中心のクジラはアニマトロニクスだろうと予想したが,エンドクレジットを観るとGlasshammer FX社の名前があった(写真1)。3頭分ニュージーランドで制作し,アラスカの撮影現場まで運んだらしい。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 穴から顔を出すクジラはアニマトロニクス製(下は撮影風景)
 
 
  一方,海中を並んで泳ぐクジラ(写真2)はCG表現だろう。石油会社所有のホバーバージを引き摺り,移動させるヘリは,残存する機体を塗り直して利用したという。クジラのために雪原に開けた穴のシーンは,プールに白いプラスティック,紙,砕いた氷を配したSFXで表現したとのことだ。いずれも,それはアップのシーンだけで,空中での2機のヘリ,延々8kmも続く多数の穴や雪原(写真3)は,当然CG/VFXの出番だろう。大きな役割を果たすソ連の砕氷船もそうに違いない。VFXの主担当はRhythm & Hues社だが,他ではModus FX,Gradient Effects等が参加している。
 
 
写真2 水中で泳ぐクジラは,CGで描いたのだろう
 
 
 
 
 
写真3 8km続く多数の穴や雪原自体もVFXの出番
(C) 2012 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
 
 
   クジラの救出劇自体は,固唾を飲んで見守る物語に仕上がっている。こうした動物を目の前にすれば,誰しも助けたいと思うのは人情だが,ここまでの狂騒ぶりは,馬鹿馬鹿しくもあり,これが動物愛護のあるべき姿かとの想いも強くなる。世界を敵にしたくない石油資本や,目先の視聴率しか眼中にないマスコミの描き方は滑稽であり,この映画を単なる感動の物語にしなかったところが,本作の製作者たちの見識だと感じた。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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