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O plus E誌 2011年9月号掲載
 
 
 
 
『シャンハイ』
(ギャガ配給)
 
 
      (C) 2009 TWC Asian Film Fund, LLC.

  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [8月20日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2011年3月28日 GAGA試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  太平洋戦争前夜の上海租界の描写が一見に値する  
  今月は盛り沢山で紙幅が厳しいが,VFXは少量ながら,この作品を取り上げておきたい。不思議な魅力のある映画で,筆者が単に語っておきたいだけなのだが,強いて理屈をつけるなら,VFXの使われ方が,この映画のエッセンスそのものに関わっているとも言える。
 題名通り,舞台は中国の上海で,時代は1941年太平洋戦争勃発前夜である。既に欧州では大戦が始まっていた。題名がカタカナであるように,欧米列強が中国社会で覇を競った上海租界の模様を克明に描いている。「租界」という言葉を知らない世代に,少し講釈しておこう。
 [大辞林]そ-かい【租界】一九世紀後半から解放前の中国の開港場で,外国人が行政権と警察権を握っていた地域。共同租界と各国専管租界とがあった。
 とあるように,天津や広州などにも存在したようだが,「魔都」と呼ばれた上海租界が特に有名である。「外灘」(バンド)の名で知られる地域は,今も往時の建物を残していて,上海随一の観光名所になっている。フランス租界が継続し,英国・米国等の共同租界が存在したところに,日本が進出し,事実上の覇権を振り回そうとしていた時代を背景に,本作は,1人の女性を巡る愛憎物語を殺人事件捜査と絡めたサスペンス映画として描いている。
 映画の国籍としては,アメリカ映画となっているが,事実上,中国との合作で,日本も資本参加している。監督はミカエル・ハフストローム,主役の米国人諜報員役に『2012』(09年12月号) のジョン・キューザックというコンビは,『1408号室』(07)と同じである。2人とも余りメジャーな存在ではないのに対して,中国人は『男たちの挽歌』(86)『グリーン・デスティニー』(00)のチョウ・ユンファ,『紅いコーリャン』(87)『王妃の紋章』(06)のコン・リーと,とびきりの人気俳優を揃えた。事実上の主演は,コン・リーだとも言える。日本人役には,渡辺謙,菊地凛子とオスカー・ノミネート経験がある国際俳優を配しているところに意欲を感じる。あまりハリウッド色のないタッチで,中国人と日本人の役割を正確に描くには,絶妙なキャスティングだと言える。何よりも,きちんと英語・中国語・日本語でセリフが語られているのが嬉しい。
 まだ数十年しか経っていない過去を扱うこの種の映画の役割の1つは,まだ存命者がいる内に,その時代を忠実に再現し,歴史教科書だけでは学べない出来事や市井の様子を物語の中で描いてくれることである。街の光景から,衣装・言葉・風俗等々が対象だが,その点ではこの映画には十分合格点を与えられる。短評欄に挙げた『レイン・オブ・アサシン』とは格段の差がある。
 映画の冒頭から,その差を如実に表わしていたのがVFXの効果である。海から上海港の様子を描いて,やがて市街地へと入る。よくあるパターンだが,おーこれが1941年の上海かと思わせる見事な出来映えだ。終盤には,カメラを引いた視点で豪華な夜景(写真1)を見せてくれる。その間のドラマの舞台となる租界の様子は,大掛かりなセットを組んで往時の様子を再現している(写真2)。何と,これが中国でなく,タイでの撮影らしい。なるほど,70年前の上海を描くのには,現在のタイの方が近い環境なのだろう。その大規模セットを補うのにも,CG/VFXが随所に関与していると見てとれた。中国やタイにここまでのVFXを駆使できるスタジオがあるのかと思ったら,これには英国のMPCが担当していた。
 
   
 
写真1 こちらは,終盤に登場する夜の上海の光景
 
   
 
 
 
 
 
写真2 タイに作られた大型セットと多数のエキストラ。コストが安いのだろうが,忠実に再現されると迫力が違う。
(C) 2009 TWC Asian Film Fund, LLC. All rights reserved.
 
   
   この映画は,随所で名作『カサブランカ』(42)を彷彿とさせる。こちらはカラーだし,名曲が流れる訳でもなく,イングリット・バーグマンとコン・リーでは,かなり美女としてのタイプが違うのだが,映画としての雰囲気が似ている。激動の時代に,1人の女性に翻弄される男の悲しい性を描いている点が共通しているのだろうか。スチル画像では,さすがに往年の美貌は感じられなかったコン・リーだが,銀幕中では妖艶な魅力を発揮する。これなら,大抵の男は彼女の魔力に屈し,支援の手を差し伸べてしまうのも理解できる。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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