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O plus E誌 2007年2月号掲載
 
 
不都合な真実』
(パラマウントクラ シック/UIP配給)
      (c)2006 Paramount Pictures
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月20日よりTOHO六本木ヴァージンシネマ他にて公開中]   2006年9月12日 UIP試写室(東京)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  自分も誰かに語らざるを得ないこの衝動  
 

 本年度アカデミー賞ドキュメンタリー部門の最有力候補作である。賞獲りレース以前に,静かにこの映画のブームが始まっていた。VFXとは全く無縁だが,あえて今月号のトップにもって来た。その理由は最後に語ろう。
 原題は『An Inconvenient Truth』。邦題は直訳で,これだけで何のことか分かる観客はいないだろうが,人類にとって直視したくなくても,避けて通れない環境問題,地球温暖化に関するさまざまな客観的事実を指している。アメリカでは昨年の月末に公開され,2週目にはわずか77館での上映ながら(大作は3,000館以上)トップ10入りを果たし,大いに話題を呼んだ。
 登場するのは,元副大統領のアル・ゴアただ1人だ。長編ドキュメンタリーに分類されているが,彼の環境問題に関する講演を収録し,映画としてまとめたものだ。政治家以前に,知識人・教養人としての彼の見識の深さ,講演の巧みさにも驚くが,地球温暖化問題を訴える彼の情熱に圧倒されない者はいないだろう。
 映画の中で「一瞬だけアメリカ大統領だったアル・ゴアです」と語り,聴衆の笑いを誘って和ませているが,言うまでもなく,2000年の大統領選で僅差でブッシュに敗れたあのアル・ゴアである。総得票では勝っていながら,フロリダ州での僅かな票差で大統領職を逃した。先の中間選挙でブッシュ政権批判が続出しただけに,「あの時にフロリダの票がもう数百あれば,あんな馬鹿な戦争は始まっていなかったのに」と思い出した合衆国国民も多いことだろう。そして,彼が大統領職に就いていれば,とっくにアメリカは京都議定書を批准していて,この映画が作られることはなかっただろう。
 アル・ゴアJr.の名前は,クリントン政権の副大統領になる前から知っていた。Scientific American誌の 1991年9月号「コンピュータネットワーク特集」に"Infrastructure for the Global Village"を寄稿していた。後の「情報スーパーハイウェイ構想」の原点となる論文である。著名な計算機科学者と並んで,上院議員の名があるのに驚いた。故マーク・ワイザーが「ユビキタス・コンピューティング」を唱えた論文も載っている。「情報スーパーハイウェイ」以前に,彼は筋金入りの環境問題のスペシャリストとしても名をはせていた。
 大統領選に破れたあと,彼は環境問題を訴える講演を世界中で1,000回以上も続けているという。資産家で豊富なスタッフがいるゆえにできることだと批判する人もいる。好いではないか,大統領選に破れてこんな活動をする候補者が他にあったか? これが真の指導者の行動というものだ。それを映画にした人も偉い。
 基本はスライドショーだが,動画もある。15インチPowerBookを駆使してのマルチメディア講演だ。この映画を見るだけでその要旨は理解できる。「地球温暖化は,単なる地球のサイクル」とする説に,彼は別の科学的傍証をもって反論する。この論理が真実かどうかは数千年後しか分からないが,この情熱と誠意を信じて,環境破壊を進めない選択をしても人類にとって損はない。
 彼は,少しずつの努力の積み重ねでCO2の排出量を1970年水準に戻せると主張する。天然痘やペストの撲滅,アメリカの奴隷制廃止やロシアの農奴解放,冷戦の終結の例を上げ,人類にはやればできると熱弁を振るう。この米国の良心は,もう一度大統領選に挑戦しないのだろうか? いや,出ない方がいい。このままこの講演を続けて,世界中の政治家や民衆に訴えてくれる方が,人類にはプラスだろうと思わせてくれる。
 エンドロールでは,字幕で以下のような言葉が次々と登場する。「子供たちは地球を壊さないでと両親にいいましょう」「将来子供が住む地球を親子で救いましょう」「電力会社にクリーン電力を扱わない理由を問いましょう」「この問題に取り組む政治家に投票を」「ダメなら自ら立候補を」「木を植えましょう。沢山の木を」「地域に働きかけましょう」「ラジオや新聞に投書をしましょう」「温暖化防止の国際運動に参加しましょう」「公共交通機関を利用しましょう」「車の燃費基準を上げて排ガスの削減を」「お祈りを信じる人は,人々が変わる勇気を持つよう祈りましょう」「この映画を見るよう人々に勧めましょう」「環境危機について学びましょう」「学んだ知識を行動に移しましょう」……。
 皆で是非この映画を観ましょう。私はこの映画を3度観て,上記のメッセージをメモした。ささやかではあるが,VFXと無縁なこの映画を本号のトップにもってきて紹介することにより,彼の行動を支持したい。

 
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