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O plus E誌 2000年10月号掲載
 
 
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『スペース カウボーイ』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
(c)2000 Warner Bros. All Rights Reserved.
       
      (ワーナー試写室00/8/30)  
         
     
  リストラ,年金世代に贈る応援歌  
   題名からは,宇宙人が開拓時代の西部に紛れ込んで引き起こす騒動か,それとも本物のカウボーイがタイムスリップして未来の宇宙空間に登場するのかと想像してしまった。実際は,1958年実験飛行の訓練を受けながら,宇宙へ飛び立つ機会を逃した米空軍の4人のトップパイロット達が,約40年後にロシアの通信衛星の故障を修理するためスペース・シャトルで宇宙に向う物語である。
 製作・監督・主演のクリント・イーストウッドにとって,42本目の主演作,22本目の監督作品である。先頃ベネチア映画祭金獅子賞を贈られたこの大スターも今年で70歳。最近の作品では,年齢相応の役柄を渋く演じている。『目撃』(97)『トゥルー・クライム』(99)などなかなかの秀作だが,興行的には芳しい成績を上げていないのが残念だ。ILMのSFXを駆使したこの意欲作でも,再結成した老年飛行士チームのリーダーとして好演している。
(c)2000 Warner Bros. All Rights Reserved.

 共演は『メン・イン・ブラック』『英雄の条件』等で日本のファンも増えたトミー・リー・ジョーンズ。他の2飛行士には,『バックドラフト』『評決のとき』のドナルド・サザーランド,『大脱走』『マーヴェリック』のジェームス・ガーナーのベテラン陣を配して,まさに今も頑張るロートル・チームができ上がった。
 監督&主演作ではひたすら主役がカッコよく描かれるが,『許されざる者』(92)『パーフェクト・ワールド』(94)のように共演者を立て気味の方が,イーストウッド映画はいい味が出る。この映画も,少し若めのトミー・リー・ジョーンズに女性とのロマンスなどを譲り,頑固なリーダーに徹したところが正解だろう。
 老骨にむち打ち宇宙飛行士訓練を受け,スペース・シャトルに乗り込むまでが長めで,テンポも洋画にしてはゆったりしていた。意図的に老人ペースで描いたのだろうか,イーストウッド監督の感性ではこのテンポでしか撮れないからだろうか。宇宙に行ってみれば,通信衛星が実は冷戦の遺物の巨大な軍事衛星で,その故障は地球の一大危機。決死の苦闘でこの危機を乗り越えたと思えば,今度は地球への帰還がおぼつかない……といった展開は予想通りである。『アルマゲドン』+『アポロ13』の味つけなのだが,そこまでのコクと緊迫感もない。しかし,ベテランの演技を生かした淡泊めの味付けは好感が持てた。
 老舗ILMのSFXは,CGを駆使したVFXよりも,模型制作とモーション・コントロール・カメラでの撮影が主だった。特に,ロシアの巨大衛星の出来栄えは素晴らしかった。CGでは何とかモデリングできても,ここまでの質感を出すのは苦しい。1958年当時のX2戦闘機もミニチュアらしいが,とてもそうは見えない。現物が残っていたとしても,飛ばすことなどできないから,この芸術的伝統技術に頼ったのだろう。
 衛星爆発後の浮遊物やスペース・シャトルの大気圏再突入はCGだろう。ミニチュアとCGの合成シーンも違和感はなく,ライティングも文句なしだ。やはり,『スター・ウォーズ』以来の伝統を誇る特撮スタジオならでの実力だ。古い衛星内の部品や現在のフライトシミュレータの描写なども丁寧で,宇宙ファンには楽しめる。
 ベテランVFXスーパバイザのマイケル・オーウェンは,「観客はIMAXで地球や宇宙の高精細映像を見ているので,35mm映画では太刀打ちできず苦労した」と語っているが,なかなかどうして結構な仕上がりになっている。さらに見ものだったのは,エンディング直前に登場する月の外観と月表面の描写である。「Fly Me to the Moon」の歌に乗せたエンディングとクレジットロールも粋な演出だ。
 リストラされセミリタイアした世代も,既にリタイアした年金生活者も,この映画を見れば元気づくに違いない。老後が気になりだした団塊の世代やその下の世代の刺激にもなるだろう。スティーブ・マックィーン亡きいま,クリント・イーストウッドはいつまでもカウボーイ魂を見せてくれる最後の英雄だ。
 
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