head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2003年9月号掲載
 
 
starstarstar
『アダプテーション』
(コロンビア映画/アスミック・エース配給)
 
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年7月16日 松竹試写室  
  [8月23日よりシネマライズ他にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
     
  とんでもない脚本をニコラス・ケイジが二役で好演  
   200ドル払えば個性派俳優のジョン・マルコヴィッチの頭の中に15分入れるという奇想天外な映画『マルコヴィッチの穴』(2000年9月号)の監督(スパイク・ジョーンズ)と脚本家(チャーリー・カウフマン)が再び組んだ作品というから,通好みのひねった映画だろうとは想像できた。今回は,脚本チャーリー&ドナルド・カウフマンとある。名前からして夫婦ではないから,兄弟脚本家かと思ったが,実はこれが曲者だった。
 前作の脚本で一躍注目を集めたチャーリー・カウフマン(ニコラス・ケイジ)は,スーザン・オーリアン(メリル・ストリープ)の著書「蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界」の脚色を依頼される。フロリダで蘭を不法採集した栽培家ジョン・ラロシュ(クリス・クーパー)を追った実話である。脚色のアイデアが湧かないチャーリーは,同じく脚本家を目指している双子の兄弟ドナルド(ニコラス・ケイジの二役)が高い評価を得始めたことに焦り,遂に自分を脚本中に登場させるアイデアを思いつく。そして,原作者のスーザンに会いに行こうとしたところから,現実と虚構が交錯し,事態が思わぬ方向に展開する……。
 この本も作家も栽培家も実在し,実際にカウフマンに脚色の依頼があり,その回答がこの映画の脚本であり,その中に自分が登場するというから,観ている方も頭が混乱してくる。よほどこの人は自己回帰という概念が好きなようだ。
 勿論,ニコラス・ケイジはじめ主要人物は俳優が演じている。ところが,映画は『マルコヴィッチの穴』の撮影風景から始まったり,実在の人物本人が登場する役柄もあるからややこしい。加えて,ご丁寧にも全く性格の違う双子を出してくる。手の込んだ話だ。
 冒頭は,40億年前からのハリウッドの地の変化だ。そんな太古の描写は,何もハリウッドでなくても良さそうなのに,そうしたいらしい。大半はCG映像だが,それほどハイレベルCGではなく,おふざけ半分で諧謔的笑いを誘う。意図としてはここで進化論を表現しておきたいそうだ。
 隠れた主役の蘭の花が綺麗だ。それに魅せられた男を登場させるのに説得力ある映像だ。採集家役のクリス・クーパーは,『遠い空の向こうに』(99)の硬派の父親役が印象的だったが,まるでイメージが違う崩れた役を好演している。なるほど,この作品でアカデミー賞助演男優賞を得ただけのことはある。助演女優賞にノミネートされたメリル・ストリープも『めぐりあう時間たち』(02)よりも,この映画の方がずっと存在感がある。
 それよりも印象的なのは,ハゲでデブの双子兄弟を演じるニコラス・ケイジの一人二役だ。性格の違いを,表情と声色の違いで表現している。アクション系はヒットするのに,顔に似合わず,シリアスなドラマだと興行成績が振るわなかったが,この映画は文句なしの好演だ。
 二役の合成処理は,最近のVFXからすれば何でもない作業だ。古典的なスプリット・スクリーン方式(と言っても,今ではディジタル合成だが)で2人を合成しているのが大半だが,一部では代役の顔だけを差し換えていると思われる(写真)。前半は,1画面に2人入っているというだけだったが,クライマックスのシーンは2人のかけあいが上手い。目線も息遣いも,思わず別人の2人が居るのかと感じてしまった。上手い。
 映画そのものも,全編ギャグとエスプリの利いたタッチで終わるのかと思ったら,後半緊迫感溢れる見せ場が続く。2度あるクルマの衝突シーンも,アクション大作のいかにも作り物といった場面より,シンプルだがずっと迫力があった。この監督の腕は脚本に負けていない。
 エンドロールで流れる「Happy Together」がとても印象的だった。いい曲だ。
 
写真 性格が正反対の双子をニコラス・ケイジが演じ分ける。左はスプリット・スクリーンによる合成,右は代役の顔だけのすげ替えか?     
  ()  
     
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br