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O plus E誌 2009年9月号掲載
 
    
 
フルCGアニメの3D上映体験記
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『モンスターVSエイリアン 3D』 
 ■『アイス・エイジ3/ティラノのおとしもの 3D』 
 ■『ボルト 3D』
 いま米国の映画界は3D上映の真っ盛りである。何度かあった以前のブームとは様相が異なる。この勢いが少し下火になっても,一部ではしっかり根づきそうな状況だ。CG技術の祭典SIGGRAPHでは,昨年も今年も3D技術解説と3D上映専門のセッションが設けられ,連日長蛇の列ができていた。実際,目に負担をかけない視差の与え方,ストーリーを損なわずに立体感を効果的に演出する方法などが真剣に研究されている。手前への飛び出し感覚ばかりを強調した演出は避け,結像面を一番手前の物体に合わせ,交差法で奥行きを感じさせる方法が既に一般化している。2D版と3D版を同時進行で制作するプロダクション・パイプラインを整備し,トータル製作コストを抑える業務管理が実際に行われている。
 実写3D映画としては,昨年の11月号で『センター・オブ・ジ・アース 3D』を紹介したが,何と言っても3D版を作りやすく,演出効果も与えやすいのはフルCGアニメである。その最新作3本は7月号,8月号で紹介したが,(大阪では)3D上映の試写会がなかった。やむなく1作ずつ公開を待ち,映画館で観た次第である。
 日本でも3D上映館は既に200弱に達している。主要なシネコンには,3D上映対応のシアターが最低1つはある感じだ。入場料は,2D版と比べて500円も高い。米国では$5アップだから,これが相場か。なるほど,これは良いビジネスだ。親子連れのファミリー映画に3D版が多いから,まとめてかなりの収入増になる計算だ。実際,筆者が足を運んだ3本とも,子供連れ,子供同士の観客が圧倒的に多かった。以下,3本個々の評価と3D上映全体に関する感想である。
 ■ まず『モンスターVSエイリアン』,DreamWorks Animationが初めて本格3D版アニメに取り組んだというだけのことはある。3D化の演出効果を前面に打ち出していることがよく分かる。大きな建物の奥行き感,谷底を見下ろす感じが実にいい。それでいて,手前に跳び出して浮遊するモンガー将軍などは,3D上映の効果満点である。こりゃ,子供には楽しいだろう。立体メガネもツルの部分が柔らかいゴム状になっていて,かけやすく疲れにくい。同じサイズで子供にもぴったりフィットする。2D版と3D版の両方があれば,3Dで観たいと親にねだること必至だ。ただし,3D版製作を意識し過ぎたのか,物語の面白さが今イチだったのは残念だ。
 ■ 次なる『アイス・エイジ3』も力作だが,上記に比べてそう大きな3D演出効果を感じなかった。それでも,珍獣スクラットの登場場面は,ギャグに合わせてしっかり3D効果を強調してある。ということは,残るメインのストーリー部分は少し立体感を抑えてあるということだ。CGアニメでは,わざと実写映画に近いカメラの揺れやノイズを乗せる技法が流行したが,3D版では使われていない。映像中のオブジェクトを前後方向に移動させるパターンを多用し,どの作品も派手なカメラワークは抑え気味である。そのためか,古いマンガ映画の趣きが復活し,筆者にとっては好ましく感じた。
 ■ 今回は3本ともTOHOシネマズ傘下のシネコンで観た。すべて左右の映像を時間的に切り替えるXpanD方式なのだが,『アイス・エイジ3』を観たシネコンのメガネだけが古いタイプで,ツルが固くてかけにくく,すぐに頭が痛くなった。スクリーンも小さく,プロジェクタの光量も少なく暗かった。ただですら光量が半分となるこの方式では致命的である。他作品の同じ3D予告編を観ても,まるで印象が違った。作品の差以上に,映画館の差の方が大きいかも知れない。単に3Dだからと飛びつかず,映画館もしっかり選ぶ必要がある。
 ■ 3本目の『ボルト』は,元々この3作の中では一番面白かったのだが,3D上映ではその演出もさらに冴え渡っていた。時々「おー,3Dだ」と感じさせる構図が登場し,そのタイミングも絶妙なのである。シーンの変わり目や落ち着いた場面では,左下や右下に立体感のある物体を配したり,広大な眺望で奥行き感を感じさせる構図が多用されている。極め付きは,透明球に入ったハムスターのライノだ。3D上映を最大限に意識した演出と言っていいだろう。一見に値する。
 ■ 併映の短編『メーターの東京レース』はピクサー作品だが,これも3D上映で一層楽しかった。3Dで観る東京タワーは乙なものである。ところが,SIGGRAPH 2009で観た同社の『Partly Cloudy』はもっと素晴らしかった。正月映画として公開予定の『カールじいさんの空飛ぶ家』(原題は『Up』)と併映される短編である。
 ■ 少し評価に優劣はつけたが,テーマパーク・アトラクションと比べれば,上記3作品のコンテンツとしての完成度は高い。500円高くても,一家でテーマパークに行くことを考えれば安いものだ。未見の読者には,一度現在の3D上映を体験してみることを勧めたい。この号の出る頃には,先の2作品の3D上映は既に終わっているだろうか。次には,9月19日公開の『くもりときどきミートボール』が控えている。そのSelected CutもSIGGRAPHで観たが,かなり期待できる作品だ。
   
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