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O plus E誌 2009年6月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『セブンティーン・アゲイン』 :人生の選択を誤った37歳のダメ男が,突如バスケのスター選手だった20年前の姿に戻って人生を取り戻すという夢物語だ。いわゆるタイムトラベルものではなく,現代のままで姿・形だけが若返るのがミソだ。売り出し中のイケメン男優ザック・エフロンの魅力に便乗したお軽い青春ムービーかと思いきや,いかれた娘や気弱な息子を立ち直らせる下りは結構いい話に仕上がっている。もう少しバスケの試合が続いて欲しかったが,ホーム・コメディとしてはスカッとした上出来の部類に入る。
 ■『消されたヘッドライン』 :主演は,新聞記者役のラッセル・クロウと親友の国会議員役のベン・アフレック。原点が英国BBCの人気ドラマをハリウッドがサスペンス大作として映画化するとなると,80点は外さない娯楽作品が期待できる。原題は『State of Play』。当初はなかなか洒落た邦題だと思っていたが,観た後の印象はだいぶ違った。これじゃ軽過ぎる。予想より重厚で骨太の社会派作品で,90点以上を与えていい佳作だった。監督は『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)のケヴィン・マクドナルド。いい演出だ。この監督は,近い将来,映画史に残る傑作,名作をいくつも生み出すことだろう。
 ■『ラスト・ブラッド』:和製デジタルアニメ『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(00)の国際実写映画版。主演は『猟奇的な彼女』のチョン・ジヒョン。ヴァンパイヤものには食指は動かないのだが,セーラー服姿で日本刀をかざした彼女の美形ぶりに惹かれて観に来た。30分で後悔した。ただただ暴力的で殺伐としたこんな映画に存在意義があるのだろうか。途中で席を立つこともできず我慢して観ていたが,終盤は盛り上がり,見入ってしまうから困ったものだ。彼女の颯爽とした姿に憧れ,引きこもり高校生や大学生が個室で日本刀を研ぎ始めたらどうなるのかと,想像するだけでゾッとする。
 ■『路上のソリスト』:原題は単なる『The Soloist』だが,印象的ないい邦題だ。これだけで,不遇な音楽家を描いた感動的な物語だと分かる。その想像通りの作品だ。ジュリアード音楽院で学んだ天才チェリスト(ジェイミー・フォックス)が,心を病んで挫折し,ホームレス生活を送っている。彼を救おうと奔走するLAタイムズの記者(ロバート・ダウニー Jr.)との触れ合いを描く。二大俳優の迫真の演技が光る。胸を打つ作品ではあるが,涙を誘うわけではない。路上生活者たちの生々しい描写が強烈だ。奇跡が起きる訳でなく,少し物足りない結末なのは,実話の限界だろうか。
 ■『お買い物中毒な私!』:若い女性向けの屈託のないロマンティック・コメディだ。もう少し限定して言えば,この映画は次のような人々に向いている。『プラダを着た悪魔』(06)のファッションを存分に楽しんだ人。『キューティ・ブロンド』(01)の色彩感覚を気に入った人。映画に感動や人生訓を求めず,ただ楽しければいいと思っている人。沢山若い女性が登場する映画が好きな人。週末のデートでシネコンに行ったが,何を観るか決めて来なかったカップル。そして,週末の暇つぶしにレンタルビデオ屋に行ったが,何を借りるか決めて来なかった人。おっと,この映画はまだこれから公開なので,最後の人はDVDが出るまでしばらく待っていて下さい。
 ■『サガン ─悲しみよこんにちは─』  :副題のデビュー作で知られる女流作家フランソワーズ・サガンの生涯を描いた人間ドラマだ。久々に観たフランス語でのフランス映画で,美しいセリフの響きを堪能した。彼女の絶頂期まではそれで良かったが,その後,破天荒な言動,驚くべき浪費家のお騒がせ作家が,老いて落ちぶれた姿追う場面が長々と続く。女性監督が描くサガンの女友達とのやりとりは生々しい。愛読者でない一般観客には辛い映画だが,18歳のデビュー時から69歳で生涯を閉じるまで,半世紀以上を演じるシルヴィ・テステューのメイクと演技は一見に値する。
 ■『The Harimaya Bridge はりまや橋』  :日米韓合作映画らしいが,日米混血映画といった方がピッタリくる。交通事故死した息子が描いた絵を取り戻すため,サンフランシスコから高知にやって来た父親が引き起こす騒動から物語は始まる。この巨大な黒人男性(ベン・ギロリ)の傲慢な態度は,日本人から見ればまさに異人だ。観客の誰もが嫌悪感を抱きつつ,日本人視点で物語に没入して行く。やがて高知の美しい風景をバックに,この外人の目で見た日本という視点に慣らされ,予定調和の家族愛の人間ドラマへと導かれる。英語を巧みに操る清水美沙の凛とした好演が印象的だ。余談だが,教育委員会職員役の山崎一が,前高知県知事・橋本大二郎氏に似ているのが気になってしまった。
 ■『ブッシュ』  :米国前大統領を虚仮にしたキワモノかと思ったが,『JFK』(91)『ニクソン』(95)のオリバー・ストーン監督の作だというので,少し姿勢を正して観ることにした。とはいえ,若い頃から劣等感をもった凡庸なこの人物の過去を辛辣に描き,大統領としての資質を正面から疑ってかかる。笑いを誘うほどだ。ソックリさんショーで描く国防会議の様は生々しく,滑稽ですらある。こんな人物たちに支えられたブッシュには同情の念すら湧いてくる。この映画は,逃げ場のない1人の人間の苦悩を描いたものなのか,それとも彼を大統領職に選んだ国民への痛烈な皮肉なのか? いずれにせよ,こんな人物の愚かな決断に翻弄された世界中の人々にとって喜劇以外の何ものでもない。
 ■『愛を読むひと』  :原作小説『朗読者』に対して,この邦題はなかなか粋だ。ケイト・ウィンスレットがアカデミー賞主演女優賞に輝いた文芸調の力作だ。ドイツ人女性ハンナの35歳から63歳までを演じる堂々たる演技は,メリル・ストリープやアンジェリーナ・ジョリーを押しのけてオスカーを獲るだけの熱演だった。作風も脚本も申し分ないが,欠点が3つある。相手役のレイフ・ファインズは文芸調作品には欠かせない存在だが,青年期の俳優と似ていないし,ハンナより年下にも見えない。次にウィンスレットの裸が多過ぎる。大女優として脱ぎ過ぎだし,それほど見たい裸体でもない。第3に,朗読や書籍が英語では興醒めだ。市場性を犠牲にしてでも,この映画は独語で作るべきだった。
 ■『守護天使』  :『キサラギ』(04)の佐藤祐市監督の最新作というだけで観たくなった。ポスターにある中年メタボ男のイラストも気に入った。こういう映画は抱腹絶倒に違いない。美少女に恋する純粋なデブ男の物語は『ハンサム★スーツ』(08)と同工異曲かと思いきや,途中から連続殺人犯をめぐるスリラーに変身する。ヒッチコックばりの盛り上げも,麻雀荘に集う人々の描写も見事だ。佐々木蔵之介のチンピラ,寺島しのぶの鬼嫁ぶりが絶妙だ。エンディングも決まっている。
 ■『いけちゃんとぼく』  :人気漫画家・西原理恵子の同名絵本の実写映画化作品で,9歳の少年ヨシオと不思議な生きもの「いけちゃん」の交流を描いたファンタジーである。形はオバQ風だが,未来からやって来てヨシオを励まし寄り添うのは「ドラえもん」でもあり,「E. T.」のようでもある。この少年にしか見えないというのも,よくある設定だ。色も形も変幻自在な存在は,シンプルなCGで描かれている。原作は「絶対に泣ける本 第1位」だそうだが,この映画はそう泣けなかった。ただし,少年の心の成長を描く展開は骨太で清々しい。子供向けの作品と馬鹿にするなかれ。ここには,未成熟の大人こそ観て学ぶべき人生訓が詰まっている。  
   
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  (上記のうち,『お買い物中毒な私!』はO plus E誌に非掲載です)  
   
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