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O plus E誌 2008年8月号掲載
 
 
ゲゲゲの鬼太郎
千年呪い歌
(松竹配給)
 
      (C) 2008「ゲゲゲの鬼太郎」フィルムパートナーズ  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [7月12日より丸の内ピカデリー2ほか全国松竹系にて公開中]   2008年7月3日 松竹試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  このままシリーズ化して欲しい鬼太郎ワールド  
   今月はコミックが原作の映画化作品3本を取り上げる。まずは,日本の偉大なコミック&アニメのキャラ「ゲゲゲの鬼太郎」の実写映画の第2作目である。本来,先月号(6/25日発売)で紹介するはずだったのだが,一向に試写案内が来なかった。3月上旬のクランクアップ後もCGシーンの仕上げに手間取り,関係者内での初号上映が6月下旬,マスコミ用試写はようやく6月末に解禁という有り様だった。それはそれで大量にCG映像が使われているということだから,我慢するしかない。かくして本欄は,洋画のCG大作を押しのけ,本号発売時に既に公開されているこの作品にトップスペースを空けて待った次第である。
 前作は昨年のGW期の公開作品だった。2007年5月号では,「事前予想に反して,この映画は面白かった。思わぬ拾いものとは,こういう作品のことだ」と書いている。同じ想いの鬼太郎ファンが沢山いたようで,興収23億円のヒット作となった。松竹にとっては,嬉しい大きな誤算である。熱気が冷めない内に,2匹目の泥鰌を狙っての続編製作は当然のことである。ハリウッドのように数年かけて続編を作る訳ではないから,きっと急作りの安易な企画だろうという予想と,それくらいではビクともしない「水木しげるの妖怪世界」が支えているはずだとの想いが,筆者の中で錯綜していた。
 メガホンをとるのは,前作に引き続いての本木克英。この間に『犬と私の10の約束』(08)を手がけている。鬼太郎(ウエンツ瑛士),猫娘(田中麗奈),ねずみ男(大泉洋),子なき爺(間寛平),砂かけ婆(室井滋)の主要キャストも変わりなく盤石だ(写真1)。「目玉おやじ」の声は,勿論,TVアニメ版以来ずっと一貫して田の中勇だ。もう40年間もこの声を演じていることになる。本作のヒロインは,『幸福な食卓』(07)の北乃きい。ちょっと主演女優としては弱い感じだが,助演陣に緒形拳,寺島しのぶといった演技派を配し,異国の妖怪・夜叉役に韓国の男優ソ・ジソブを起用して脇を固めている(写真2)
 
     
 
写真1 すっかり打ち解けたレギュラー陣とゲスト(左)   写真2 夜叉はなかなか手ごわい敵役
 
     
   さて,映画が始まった。この主題歌は,つくづく覚えやすい名曲だなと思う。この曲が流れるだけで,老若男女,誰もが自分の子供時代に漫画やアニメで親しんだ「鬼太郎ワールド」を思い出すはずだ。この種の映画の企画は,徹底してお馴染のキャラの魅力に頼り,それが続々と登場する定番のスタイルを造り上げるか,映画ならではのスケールで大アクション活劇を見せつけるかのいずれかにならざるを得ない。劇場公開用実写映画第1作の前作は,前者のスタイルを重視し,『バットマン』『スパイダーマン』といったハリウッド系大作は後者の道を選んでいる。
 結論を先に言えば,第2作目の本作品は,そこの割り切りが中途半端で,完成度がやや低いレベルで終わっている。テーマは妖怪と人間の許されざる恋で,千年の時を経て甦った悪霊の引き起こす事件に,鬼太郎たちが巻き込まれる。この映画は,レギュラー陣を固定化し,お馴染の妖怪世界の魅力に頼りつつも,後半はスケールの大きい妖怪アクションをウリにする企画にしてしまった。それでは,洋画のエンターテインメント大作に負ける。なまじっか,劇場公開映画だから深みのあるドラマ,TVでは実現できないスケールにしたぞと訴えようとすると,却って日本映画の底の浅さを感じさせてしまうのである。ズバリ言えば,キャラはいいのに脚本が弱い。
 さて,本題の特撮やCGだが,「目玉おやじ」や「一反木綿」がCG製であることは言うまでもなく,これはしっかり前作からの遺産を受け継いでいる(写真3)。それぞれに重要な役柄で,品質的にも演出的にも悪くない。その他では,口が悪い偏屈な妖怪の「琵琶牧々」がデジタル合成だが(写真4),他の妖怪の大半は特殊メイクや着ぐるみである。それはそれで,この映画の大きなセールスポイントだ。CG製では「ぬり壁」が,特殊メイクでは笹野高史演じる「井戸仙人」が存在感のある演技を見せてくれる(写真5)
 
     
 
写真3 「目玉おやじ」(左)と「一旦木綿」(右)は引き続き重要な役柄
 
     
 
 
 

写真4 巨木に棲む妖怪「琵琶牧々」

 
   
 
 
 

写真5 存在感を発揮したのは「ぬり壁」(左)と「井戸仙人」〔右〕

 
     
   鬼太郎の髪から放たれる千人針,砂かけ婆の必殺技,鬼太郎と夜叉の戦い等にもCG/VFXシーンは多々登場するが,まだまだこんなものじゃないはずだと思って観ていたら,終盤に大きな見せ場があった。全長20mの骸骨の巨大妖怪の登場である(写真6)。なるほど,邦画にしてはこのCG映像は力作である。ただし,この骸骨妖怪の動きは,まるで恐竜のT-レックスだ。おいおい,誰も本当の動きは知らないとはいえ,もうちょっとオリジナリティを出せよ。
 苦言は呈したが,時代を超えて愛される「鬼太郎ワールド」への愛の鞭である。この勢いで第3作目も作り,長期シリーズ化して欲しいものだ。『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』を挙げるまでもなく,松竹は長寿シリーズは得意なはずだ。ウエンツ瑛二や田中麗奈はいつまでも演じ続けられないだろうが,その時は,水戸黄門やジェームズ・ボンドのように後継者を探せば良い。妖怪はキャラクタ・ビジネスとタイアップしやすいので,映画以外での収入も見込めるだろう。松竹だけならヘタる可能性も大だが,後にしたたかなフジテレビがついているなら大丈夫だろう。アクション系のCG映像作りの腕に磨きをかける場となって欲しいものだ。   
 
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写真6 クライマックスは巨大な骸骨との戦い
(C) 2008「ゲゲゲの鬼太郎」フィルムパートナーズ

 
 
 
     
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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