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O plus E誌 2009年5月号掲載
 
 
 
GOEMON』
(松竹&ワーナー・ ブラザース映画配給)
 
  (C) 2009「GOEMON」パートナーズ
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [5月1日より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2009年3月31日 角川試写室  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  誰もが知っている時代背景と国籍不明の圧倒的映像美  
 

 今月のメインは邦画2本だけという当欄始まって以来の出来事だ。この作品にも松竹が絡んでいる。もっとも,ローマ字表記の本作は,ワーナー・ブラザースも出資し,一瀬隆重プロデューサーがしっかりと世界市場を見据えた企画作品である。監督は,デビュー作『CASSHERN』(04)が話題を呼んだ紀里谷和明。原案も彼自身であり,製作・脚本・編集にも名を連ね,自ら撮影監督も務めている。NYで写真家としてデビューし,ミュージック・ビデオで脚光を浴びた人物だが,その名を知らない人にも,宇多田ヒカルの元夫と言えば分かるだろうか。
 主人公は盗賊・石川五右衛門で,江口洋介が演じている。織田信長=中村橋之助,豊臣秀吉=奥田瑛二,徳川家康=伊武雅刀,茶々(淀君)=広末涼子,石田三成=要潤,千利休=平幹二朗といった歴史上の人物を豪華キャストが演じるのも見ものだが,服部半蔵=寺島進,霧隠才蔵=大沢たかお,猿飛佐助=ゴリといった講談で名高い忍者たちを新解釈の役どころで重い役を与えている。誰もがよく知っている時代と人物たちだが,かなり斬新で意欲的な解釈の脚本だ。NHK大河ドラマとて,お馴染みの「太閤記」や「忠臣蔵」に色々新解釈を施すから,この程度のアレンジはエンターテインメント大作として当然許されるレベルだ。
 お得意のビジュアルはと言えば,これはもう豪華絢爛, 外連(けれん)の限りを尽くしたと言っても過言ではない。ある映画紹介サイトは「デジタル技術を極限まで駆使した圧倒的な映像美」と書いていたが,まさにその通りだ。時代設定は明らかに秀吉の安土桃山時代だが,国籍は不明,誰もチョンマゲ頭ではないし,衣装もどこの国のものかと思う(写真1)。その点では『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』(07年10月号)を思い出させる無国籍ぶりだ。

 
   
 
 

写真1 左:織田信長,右:服部半蔵と石田光成。

   
   デジタル技術の利用では,冒頭の夜の大坂の町と花火のシーン(写真2)の豪華さで度肝を抜かれる。大坂城内のシーンの派手さも負けてはいない(写真3)。秀吉の衣装以上に奇妙奇天烈なのは,大坂城の外観だ(写真4)。それが,見慣れてくる内に「素晴らしいデザインだ。太閤秀吉の威光を表現するには,これでなくちゃ」と感じるようになるから不思議だ。その一方で,多数の滝の場面に蛍が舞うシーン(写真5)などは,癒し系のVFXであり,この監督の美術センスの好さを感じる。    
 
 
 
写真2 いきなりのこの夜景と花火に度肝を抜かれる
 
   
 
写真3 城内の豪華絢爛ぶりも負けてはいない  
 
   
 
写真4 何とこれが国籍不明の大坂城の威容
 
   
 
写真5 滝とホタルのシーンは味のあるVFX利用例  
 
   
   こうしたシーンを含めて,全編2,000カット以上でデジタル加工が施されている(写真6)。実写とCGの合成というより,デジタル映像の中にグリーンバックで演技する俳優を配すといった感じである(写真7)。その点では,前作『CASSHERN』の延長線上にあるのだが,遥かに出来がいいと感じるのは,この5年間の日本のVFX業界のレベルアップのお蔭だろう。CGの利用度で『スピードレーサー』(08年7月号) に負けていないし,完成度では『300 <スリーハンドレッド>』(07年6月号) に匹敵する面白さだ。そして,クライマックスの関ヶ原の戦いは,『スター・ウォーズ』新シリーズのバトル・ドロイド達の戦いを彷彿とさせる迫力だ。筆者の好みで言えば,この豪華さや派手な演出は,前半を少し抑え気味にして,後半一気に爆発させた方がより効果的だったと感じた。それが満点☆☆☆からの若干の減点である。
 という風に,あちこちで常軌を逸した新人類映像なのだが,それでいて安心して観ていられるのは,観客の誰もが信長・秀吉・家康を始め,明智光秀や石田三成の役割を知っているからだろう。脚本も映像もその基本パターンを公知のものとして,意図的にそこから外すことができる訳である。広末涼子の茶々は平凡だが,霧隠才蔵の人物造形が秀逸で,大沢たかおの好演も光る。
 では,この映画をその常識が通じない海外にもって行った場合に,どの程度の理解をもって受け容れられるのであろうか? その答えは筆者も知りたい。案外,我々が『300』や『ベオウルフ/呪われし勇者』(07年12月号) を観た時と同様,歴史的意味は考えず,映像美だけが観賞対象となるのかなと思う。
 
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写真6 窓の外も軍議の背景も勿論デジタル合成  
 
   
 
 
 
写真7 全編で約2000カットがグリーンバック撮影だという
(C) 2009「GOEMON」パートナーズ
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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