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O plus E誌 2008年12月号掲載
 
 
252  生存者あり』
(ワーナー・ブラザース映画 )
 
      (C) 2008「252」製作委員会  
  オフィシャルサイト[日本語]  
 
  [12月6日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2008年10月30日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  こちらは直球一本の勝負で緊迫感を演出する  
 

 これもパニック映画だ。もっと大掛かりで,全編ゆるみなく緊迫感一杯だ。ずっと140km台後半の直球一本で押し通している感じである。こちらは東京消防庁と気象庁の全面バックアップで,災害時のレスキュー隊の活躍を描いている。洋画系資本とはいえ,原作者,監督,キャスト&スタッフはすべて日本人ばかりだから,純粋な日本映画だ。それでいて,邦画特有の安っぽさはなく,洋画の大作と同じリズムで観ていられる。
 舞台は首都・東京。震度5の直下型地震があった数日後,海水温度の急激な上昇で発生した史上最大規模の巨大台風が上陸して来る。巨大な雹の急襲に続いて,東京湾に押し寄せた高潮がビルや橋を押し流し,陥没した地下街に流れ込む……。どこかの阿呆な県知事が言ったように,これがチャンスと関西が沸き立つ物語ではなく,素直に東京・新橋駅地下鉄構内で生き埋めになった人々の救出劇を描いている。「252」とは,東京消防庁の無線通信用のコードで,2回,5回,2回の打音が「生存者あり」を意味するそうだ。
 漫画や映画の 『海猿』の原作者として知られる小森陽一の作品で,監督は『舞妓Haaaan!!!』(07)の水田伸生だ。初監督作品『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』(06年9月号)の時から,なかなか演出力のある監督だと思っていたが,本作品でも達者なところを見せている。主演は,訳あってハイパーレスキュー隊を辞めた篠原祐司役に『海猿 ウミザル』(04)で売り出した伊藤英明,その兄で現役隊長の静馬役に『あかね空』(07年4月号) の内野聖陽の2人だ。内野は,2007年のNHK大河ドラマ『風林火山』で主役の山本勘助を演じた役者,といった方が分かりやすいだろうか。助演陣には,山田孝之,香椎由宇,木村祐一,西村雅彦,桜井幸子の布陣に,韓国人モデルのMINJIが加わっている。大作の割には,少し地味めのキャスティングだ。
 多数の人々が激流に飲み込まれた後,生き残ったのは5人だけだった。1組の父娘以外は,全くの他人である。この種の映画では,ここから各人の人生模様が描かれる。苦難を乗り越えて全員救出されるか,1人ずつ命を落して行き,主人公とヒロインだけが生き残るのが定番だ。いずれであるかは語らないでおこう。その中で,大阪の中小企業経営者を演じる木村祐一と,屈折した研修医を演じる山田孝之の掛け合いが素晴らしかった。特に,山田のふてくされた若者ぶりは出色だ。思わずぶん殴ってやりたくなるほど見事な役作りである。
 ハイパーレスキュー隊とやらの紹介や活躍を描くのはいいが,消防士や救命部隊の映画となると,なぜどれもこう生真面目なのだろう。『バックドラフト』(91)『炎のメモリアル』(05年5月号)『ワールド・トレード・センター』(06年10月号)など,皆そうだった。警察ものなら,破滅型の刑事や悪徳警官を平気で登場させるのに,消防吏員の皆さまはご清潔な方々ばかりだ(写真1)。消防庁に協力を仰ぐ際に遠慮が働くのだろうか。

 
   
 
写真1 真面目でご清潔で,ちょっと参る  
 
   
 

 本格パニックものだけに,CG/VFXは随所で使われている。主担当はNICE+DAYで,VFXスーパーバイザーは『カンフーくん』(08年4月号)の監督を務めた小田一生である。空を覆う暗雲,巨大な雹や逃げ惑うネズミはそう難しくないだろうが,高潮や激流の表現は見事だった。『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)には及ばなくても,日本のVFXもここまで来たかと嬉しくなる。ただし,お台場の風景(ミニチュア?)やレインボーブリッジはややチープな感じがした。新橋架橋付近(写真2)を再現したオープンセットの出来映えも素晴らしいし,そこにデジタル合成されているバックも良い仕上げだ(写真3)。全体としてVFXは大健闘だろう。
 という風に,大いに満足しながらエンディングに差しかかったのだが,最後がくどかった。この終わり方はないだろう。画竜点睛を欠くとはこのことだ。折角の直球一本勝負が,最後にフォークを投げてワンバウンド,という感じだ。主題歌もつまらない。
 そう感じ始めると,振り返って,設定の強引さも気になって来た。直下型地震の後とはいえ,高潮で何で地下街があそこまで陥没するのか? なんで新橋付近だけが被害に遭う? それなら,りんかい線の各駅や豊洲,門前仲町辺りも大災害のはずだぞ!      

 
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写真2 新橋駅前ガード下の実際の光景
(C) 2008「252」製作委員会
  写真3 オープンセットとデジタルマット画の遠景
 
 
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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