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O plus E誌 2008年12月号掲載
 
 
 
ハッピーフライト』
(東宝配給)
 
  (c)2008 フジテレビジョン・アルタミラピクチャーズ・東宝・電通
  オフィシャルサイト [日本語]  
 
  [11月15日より日劇2ほか全国東宝系にて公開中]   2008年10月7日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  スローカーブの後の直球勝負で効果満点  
 

 ゆるい映画だ。題名通り,航空業界を描いたハッピーな内容で,これならTVドラマでも十分じゃないかと思わせる。ほんわかとした仲良しクラブで,緊迫感は限りなくゼロに近い。ところが,このゆるさが案外心地いい。CG/VFXは300カットもあるが,ハイジャックも撃墜もない平和な映画だと聞いていた。このままノンビリとしたコメディで終わるのかと思ったら,後半は異常事態発生で,結構はらはらドキドキの物語展開となる。
 機体もスッチーのユニフォームも,ANA一色である。JALの宣伝臭ぷんぷんだった『フライング☆ラビッツ』(08)(Web版のみで本誌非掲載)への対抗作品かと思ったが,ANAは特別協力というだけで,スポンサでもないようだ。それでも,B747-400一機を15日間無料で貸出して,羽田の格納庫で撮影したり,実機での機内撮影も行なっているから,相当な撮影協力だと言える。
 中身は,航空業界の情報が満載で,パイロットの訓練,CA(キャビンアテンダント)の教育,GS(グランドスタッフ)や整備士の働きぶりまで,まるで求人の職種紹介のようだ。空港の仕組み,オーバーブッキング時の対処から,機内ギャレーの様子,整備士の点検作業(写真1)までが克明に描かれていて,裏方事情がよく分かる。情報小説ならぬ,情報映画とでもいうのだろうか。
 監督・脚本は,『ウォーターボーイズ』(01)『スウィングガールズ』(04)の矢口史靖。なるほど,この映画も徹底取材の矢口ワールドだ。主演の副操縦士・鈴木(田辺誠一)が,訓練教官である機長・原田(時任三郎)の同乗のもと,機長昇格試験を兼ねたホノルル行きフライトに臨む話が基軸となっている。新米CAに綾瀬はるか,中堅CAに吹石一恵,彼女らを仕切る鬼チーフパーサーに寺島しのぶ,人懐っこいGSに田畑智子,腕に自信の若手整備士に森岡龍,窓際族管制官に岸部一徳(写真2),といった助演陣の構成である。

 
   
 
写真1 整備士の登場場面も結構多い   写真2 日頃は窓際でも,非常時に存在感を発揮
 
 

(c)2008 フジテレビジョン・アルタミラピクチャーズ・東宝・電通

 
 

 
 

 管制室の様子もしっかり描かれているが,鳥の衝突事故を予防する「バードパトロール」なる職業があるとは知らなかった。その鳥が原因で不慮のエンジントラブルがおき,平穏なはずのフライトは一変する。急遽日本に引き返すことになるが,生憎,成田や羽田の上空には台風が……。という展開で,後半はしっかり飛行機パニックものに転じる。よく考えると,さほどのトラブルではないのだが,前半がゆるいだけに,結構しっかり緊張して楽しめる。時速100kmのスローカーブを見せた後に,130kmのストレートで勝負している感じだ。
 さて,噂に聞いていた300カットのCG/VFXである。担当は,特撮監督・佛田洋,VFXスーパーバイザー・野口光一というから,『男たちの大和/YAMATO』(06年1月号)のコンビである。東映系列の彼らが東宝配給作品も手がけるのは意外だったが,『俺は,君のためにこそ死にいく』(07年5月号)での飛行機描写力を買われてのことだろうか。ジャンボ機を無償レンタルとはいえ,雲の上や嵐の中を飛行させ,それを追いかけて撮影する訳には行かないから,勿論,実機とミニチュア・CGを適宜使い分けての描写である。
 実際は筆者の想像した以上に,ミニチュアを使っての撮影が多かったようだ(写真3)。その映像にCGで雷やジェット雲などを描き加えている(写真4)。最近は,戦闘機やヘリなどもCGで描くのが普通なので,ジャンボ機程度なら大抵の表現はできるはずである。ミニチュアを好んで用いたのは,微妙な照明に関する矢口監督の拘りのようだ。CGで描く場合にも,客席の窓や点滅する翼灯まで丁寧に描かれている(写真5)。雲海の中に突入して行く姿などは,特に秀逸だ。離陸や着陸時の描写なども,かなりの出来映えである(写真6)。TVと映画の差は,CG/VFXやカラーコレクションの差だとも言えよう。脚本は130kmのストレートでも,打者の胸元でホップしてくる切れの良いプロの球である。
 演技では,岸部一徳,寺島しのぶが貫録だったが,エンドロールに流れるフランク・シナトラの「Come Fly With Me」にもシビれた。粋な選曲だ。

 
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写真3 想像以上にミニチュア撮影が多用されている。模型を3DスキャンしてCGの形状モデルに(右下)。

 
   
 
 
 

写真4 模型の映像にCGのジェット雲や雷を合成

 
 

 
 
 
 
 
 

写真5 こちらはCG製のジャンボ機を雲海の上に合成(右下が完成版)

 
   
 
 
 
 
 

写真6 離着陸のシーンは飛行場の実写映像にデジタル合成。これが模型かCGか,区別はつきますか?
(c)2008 フジテレビジョン・アルタミラピクチャーズ・東宝・電通

 
   
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
 
 
   
   
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