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O plus E誌 2009年1月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ティンカー・ベル』 :『ピーター・パン』に登場する可愛い妖精ティンカー・ベルの誕生を描くサイドストーリーで,ディズニー製のフルCGアニメだ。米国ではDVD販売だけだが,日本では冬休みに劇場公開される。子供たちへのプレゼント用らしく,健全そのもののお伽噺だが,その種の作品と思って観れば当たり外れはない。ビデオ作品でも,数百人以上のアニメーターやCGアーティスト達が参加していて,数年前なら驚くほどのCG技術のオンパレードだ。同じような妖精のコスチュームなのに,髪形と表情で若い妖精たちの性格を描き分けていることに感心する。
 ■『アンダーカヴァー』 :舞台は1980年代のニューヨーク。エリート警察官の兄(マーク・ウォールバーグ)と裏社会に生きる弟(ホアキン・フェニックス)を巻き込む麻薬捜査事件と家族の絆を描いた重厚な警察官物語である。先月号で消防士・レスキュー隊ものはご清潔過ぎて面白みに欠けると書いたが,この映画はそれ以上に真面目な登場人物ばかりだ。真面目ではあるが,描写も演技もリアルで退屈はしない。やっぱり警察ものの方がずっと深みがあって,人間らしさを描くことができる。原題はまるで違うが,このカタカナの邦題は「潜入捜査」の意味だそうだ。
 ■『禅 ZEN』:曹洞宗の開祖・道元禅師の生涯を描いた宗教映画。中国ロケやCG/VFXも取り入れた大作ながら,生真面目な説法ばかりで肩が凝る。劇場公開映画なら物語性を高め,見終わったら自然と感激する体裁をとればいいのに,そんな妥協は一切ない。硬派一辺倒の直截的な語り口が,禅宗らしい。唯一の見どころは,映画初主演となる歌舞伎役者・中村勘太郎の堂々たる演技だ。この貫録と威厳は,さすが勘三郎の長男だ。
 ■『きつねと私の12か月』: 『皇帝ペンギン』(05年7月号)のリュック・ジャケ監督初の長編フィクション作品で,野生のきつねのテトゥと少女リラの物語だ。動物ものドキュメンタリーは,しばしばどこまでが本当なのかを疑ってしまう。その点,最初からフィクションと名乗るなら,ずっと自由に描けるだろうと期待した。ところが,これは飼育された動物の演技だろうか,どうやってこんな高地で撮影したのかと,裏事情を想像してしまう。そんな興醒めな観方をしていても,四季の美しさ,雄大な自然を描く映像には素直に感動できる。
 ■『チェ 28歳の革命』  :筆者が学生運動に興じている頃,キューバ革命の闘士チェ・ゲバラは既に英雄だった。時計台に掲げられた彼の肖像は,感動ものだった。その半生を描く歴史ドラマ2部作の前編である。監督と主演は『トラフィック』(00)で数々の映画賞に輝いたスティーヴン・ソダーバーグとベニチオ・デル・トロだが,その真面目過ぎる演出と熱演ぶりに,むしろ退屈する。至近距離にあるアメリカの観客には身近な存在かも知れないが,もはや筆者は青年期の想い出の人物に感情移入できなかった。いわんや,平和ぼけした日本の若い世代の共感など得られるのだろうか?
 ■『ザ・ムーン』  :若者にも是非観て欲しい作品だ。人類が初めて月に降り立ってから40年,かつてこういう偉業があったことを知って欲しい。宇宙飛行士たちの証言とNASAの記録映像で綴るドキュメンタリーは,いわば立花隆著「宇宙からの帰還」(中央公論社刊)の映画版である。ただし,構成が平板であり,少し退屈で眠気を覚える。CMのないNHKスペシャルで寝てしまうのと同じだ。記録としては貴重だが,感動という点では,NASA宇宙センターで観たIMAX映像の方がずっと上だった。映画館観賞でなく,DVDまで待っては駄目かと問われたら,肯定的な返事をしてしまいそうだ。
 ■『大阪ハムレット』  :大阪の下町に住む家族の日常生活を描いた人間讃歌で,期待以上の佳作だった。原作は森下裕美作のオムニバス短編コミックだが,別に大阪が舞台でなくても,東京の下町でも通用するストーリーだと思った。監督は光石富士朗。主演のオカンを演じる松坂慶子の明るさもいいが,茫洋とした岸部一徳はもっといい。家族それぞれの喜怒哀楽の描写は,黒沢清監督の『トウキョウソナタ』(08年10月号)と比べてみたくなる。両作品を対で考えた時,改めてこの映画の舞台が大阪である必然性を再認識した。  
   
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