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O plus E誌 2000年9月号掲載
 
 
『メイキング・オブ・パーフェクト ストーム〜SIGGRAPH 2000速報』
 
 
 
 
     
  元大学教授が生成した波  
   先月号で予告した通り,SIGGRAPH 2000の特別セッションをもとに『パーフェクト ストーム』の視覚効果について補足しておこう。
 『パーフェクト ストーム』のメイキングに関しては,Cinefex誌(No.82)は勿論,Computer Graphics WorldもAmerican Cinematogpapherもかなり紙数を割いている(いずれも2000年7月号)が,それでもこの特別セッションには及ばなかった。一方,今年のSIGGRAPHはというと,本欄を担当する筆者も驚くくらい映画とゲームの話題に終止していた。その中でも極め付きのセッションであった 。
 開催2日目の月曜日の夕,「Industrial Light+Magic: The Making of "The Perfect Storm"」と題した特別講演があった。5人の講師が入れ代わり立ち替わり,たっぷりとメイキング・リールを見せてくれる1時間半のセッションである。火曜日から始まる商業展示,水曜日から始まる論文発表の前だから,まだ参加者は多くないはずなのに,約3,000人を収容できるHall E1-3は超満員だった。立ち見は勿論,最前列より前にも,通路にも座り込む聴衆で溢れていた。この会場はエアコンが効きすぎで,いつもジャケットを羽織っていたのだが,このセッションだけはあまりの熱気にそれも不要だった。
 映画の後半,暴風で白波が立つCGの海面は何やら嘘臭く感じていたのだが,まずその考えを改めさせられた。大嵐の海を観察した映像を何本も取り寄せて分析しているだけでなく,実際に嵐の中へ船を出させて,それをヘリから撮影しているのである。その海面の映像は,映画で見た白波とそっくりだった。筆者が嵐の海を知らなかっただけで,その程度のことに抜かりはなかった。お恥ずかしい。
 5人の講師のうち4人は,ILMのベテランVFXスーパバイザで『T2』『ジュラシック・パーク』『ツィスター』『スター・ウォーズ エピソード1』などの経験者である。残る1人,ジョン・アンダーソン博士の経歴に驚いた。しっかりした科学技術計算に基づき,流体力学の手法を取り入れているとは思ったが,彼はプロ中のプロだった。MITで気象学を学んで修士号,コロラド州立大学から大気科学で博士号を取得し,ウィスコンシン・マディソン大学の大気海洋科学の教授を務め,同大学科学計算プロジェクトの立案・推進者だったという。
 そんな人物が,大学教授を辞してILMに入社しているのである。このプロをして,「2〜3年前ならこの映像は作れなかった。5年前に科学者が,マルチスケールの3Dシミュレーションを始めたばかりの分野だ」と言わしめる最先端技術を基に,予めシミュレーション・ツールをがっちり固めてから,膨大なコンピューティング・パワーを駆使して映像を作っているのだ。
 まず,波や水飛沫の種類が「Bottom Water」「Top Water」「Splash Water」に大別されている。「ボトム」は,独自の流体力学シミューレーションにより,移動速度と高さが異なる12のベース・ウェーブからなる。「トップ」は,その上に乗るさざ波や白波の表現で,これも風速や風向を与えて計算する。一方,「スプラッシュ」は波と波のぶつかり合いや船にぶつかってできる飛沫で,スプレー状,泡状の表現も含まれる。これはCGのパーティクル法により作られている。この3つが基本で,その他に霧,靄もあれば,嵐を呼ぶ雲も自作のボリューム・レンダリングで作ったという。
 この波に浮かぶ12種類の船もすべてCGモデルが作られた。主役の72ftのアンドリア・ゲイル号は勿論,32ftのミストラル号から1,020ftのコンテナ船まで,重量配分を考えて船のローリングやピッチングがシミューレーションされている。これだけのツールがあれば,大抵の海難事故の模擬実験ができるくらいだ。
 構造と形状が決まったあとのレンダリングも凄まじい。Ocean Shaderには298,Wet Shaderには133のパラメータがあるという。一体これだけの数をどうやって調整するのだ? 計算を実行するコンピュータの数は,SGI O2マシンが115台,Origin 2000が320台というから,他人事ながら置き場所はどう確保したのかも気になる。
 総データ量は1.4テラバイト以上,総計算時間は130万時間,ピークは一晩で6,762時間というが,一晩とは何時間のことだろう? 24時間で計算しても,同時に280台のマシンが稼働していたことになる。いやはや恐れ入りました!
 
 
CGとしてはパーフェクト
 
映画には感動しなかったのに,メイキングには感激して帰ってこられましたね(笑)。
スタジオ内の水飛沫とディジタル・ウォーターの合成は見事
感激というより,感心したというか,ヤッパリというか…。ある程度は予想していましたが,物量作戦の徹底ぶりは,予想を遥かに超えていました。
130万時間というのは,恐ろしい時間ですね。
色々な人に当てさせてみたけど,皆さん1万時間とか5万時間としか言えませんでした。ここまでくると,執念というか意地というか…。この映画のCGだけで博士論文が4,5本書けてしまうくらいです。
実写との合成はどうなっているんですか?スタジオ内で大量の水をかけて撮影もしているんですよね。
ワーナーの第16ステージに大きなブルースクリーンと水槽を置き,そこに実物大のアンドリア・ゲイル号を配置して撮影しています。船はコンピュータ制御のジンバルに乗っているから,自在に傾けられるのです。この写真(写真)が典型例ですが,スタジオ内の水とCGの水の合成も実に丁寧です。
単純な合成じゃないみたいですね。
大抵5〜6層に分けて重ねてますね。CGの波に当てる仮想の照明も映画的な配置になっています。折れるマストや船から転げ落ちるドラム缶の一部もCGなんですが,そこにかかるスプラッシュの処理も時間をかけて,実に丁寧に処理していますよ。
それだけやって,どうしてあの映画は面白くないんでしょう! やっぱり結末がつまらないんですね。
原作が,セバスチャン・ユンガーという人の書いた『パーフェクト・ストーム 史上最悪の暴風に消えた漁船の運命』(集英社刊)というドキュメンタリーなんです。このベストセラーには,他の漁船のエピソードも乗っているし,沿岸警備隊のヘリの救援活動もじっくり描いてあります。
原作を思い切り変えてしまう映画もありますよ。
ま,原作者の名づけた『パーフェクト ストーム』を名乗る以上,そんなに逸脱できなかったんでしょう。
映画はパーフェクトでなくても,CGはパーフェクトですか?
現時点では,ほぼパーフェクトと言えるでしょう。
では,やっぱり来年のアカデミー賞の本命に復活ですね。
いやいや,それがそれが…。この映画以外にも『ダイナソー』『インビジブル』など,負けず劣らず恐ろしいばかりのCGを駆使した作品がいくつもあるのが最近の傾向です。今年のSIGGRAPHは,もうほとほと感心し恐れ入るばかりでした。その話は,来月まとめてすることにしましょう。
 
   
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