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O plus E誌 2008年1月号掲載
 
 
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ザ・シンプソンズ MOVIE
(20世紀フォックス映画)
      The Simpsons TM & (C)2007 Twentieth Century Fox Film Corporation  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月15日よりお台場シネマメディアージュほか全国東宝洋画系にて公開中]   2007年11月27日 20世紀フォックス試写室(東京)  
         
   
 
ビー・ムービー』
(ドリームワークス映画/
アスミック・エース&角川
エンタテインメント配給)
      BEE MOVIE TM & (C)2007 by DreamWorks Animation LLC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [1月26日より全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年11月20日 なんばパークシネマズ[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  いずれもヒットした毛色の違うアニメ2作品  
    スタイルの違うアニメ2本を比べて語ってみよう。先月も3本がCGアニメだったので,またかと思われるだろうが(自分でもそう思っているが),最新映像表現技術を語る当欄の性格上,正月休み時期の公開作はどうしてもこうなってしまう。他にもファンタジー系のファミリー映画ばかりだが,大人の映画は「その他の作品の短評」欄で味わって頂きたい。
 さて,1作目は伝統的な2Dセル調アニメで,世界で最も長く続いているTVアニメシリーズの初めての映画化作品だ。『The Simpsons』の名前は知らなくても,そのユニークな画風(写真1)は,誰もが一度は見た覚えがあるはずだ。アメリカの地方都市スプリングフィールドで暮らすシンプソン一家の日常生活を描いた他愛ないギャク・アニメだが,時々ゲスト・スターを登場させるのがセールス・ポイントらしい。これまでに,メル・ギブソン,リンゴ・スター,エルトン・ジョン,J・K・ローリングなど,約400人が登場したという。
  それを2007年の夏に劇場用映画として製作し,公開したところ,興収200億円近い大ヒットになったという。宮崎アニメは別格としても,我が国でも『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』『名探偵コナン』等がほぼ毎年公開され,安定した成績を上げていることを考えれば,不思議ではない数字だ。それでも,3D-CGアニメ全盛の米国で,この作品を作ろうという企画が通り,ここまでのヒット作になるとは,少し意外だった。
 もう一方は,『シュレック』シリーズのドリームワークス・アニメーションの最新作で,勿論フル3D-CGの作品だ。大学を出たばかりの若きミツバチのバリーは,ハチ世界の仕事のあり方に疑問を感じ,ニューヨークの街に冒険に出かける。そこで命を救ってくれた,優しく美しい人間の女性ヴァネッサと心を通わせるようになる。ニューヨークの花屋である彼女を,フラワー・フェスティバルに出場させ,ミツバチの力で成功させるという物語は,『レミーのおいしいレストラン』(07年8月号)のネズミのレミーとコックのリングイニの関係を思い出させる。いや,少し違うのは,レミーは人間の言葉は理解できても,人間には話しかけられなかったが,この映画のミツバチは皆人間の言葉を話せるという設定だ。もっと違うのは,レミーは同性のリングイニを助けるだけだが,バリーは異性のヴァネッサに本気で恋してしまう。社会風刺とラブロマンスの側面をもったこの映画は,11月中旬に公開され,北米での興収150億円を超えるヒットになっている。  
 
     
 
 
 
 
 
写真1 これがシンプソン一家。顔に見覚えはあるだろう
The Simpsons TM & (C)2007 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
 
     
  それぞれが見せてくれた映像表現力の可能性  
   映像表現力の観点から言えば,『ビー・ムービー』はCGとしての最新技術は主張せず,かなりリアリズム追求を抑えている。それでも随所に3D-CGならではの表現力が感じられる。ニューヨークの高層ビル街やセントラル・パークをハチの視点で描くシーンは,かなりハイセンスな描写だった(写真2)。写実性を抑え,簡素化やデフォルメを多用し始めたのは,擬人化したハチ社会を描く手段として,意図的に使っているようだ。その極みは,バリーをはじめとするミツバチの表情を人間的かつ漫画調にしてしまったことだ(写真3)。初めのうちは,これが違和感だらけで気味が悪かったが,次第に慣れてくる。バリーの表情は,志村けんに少し似ている。それでも最後まで嫌だという人も少なくないだろう。CGによる顔面表情表現は,どこまでリアルにするかだけでなく,どこまでデフォルメするかも難しい問題だ。
 筆者は,この映画のもつ社会風刺性に大きな可能性を感じた。冒頭から出てくるハチ社会の描き方に笑いを禁じ得ないが,自然環境保護へのメッセージ,住民エゴ,訴訟天国である米国への皮肉も込められている。この映画に関して言えば,その風刺的精神は後半どんどん薄まり,ありきたりのクライマックス演出とハリウッド的エンディングに落ち着いてしまったのが,少し残念だ。
 3D-CGを駆使すれば,どんな擬人化社会も,超能力・超常現象も描くことができる。それでいて,極めてリアルな映像表現も可能だし,デジタル技術で実写との合成も可能だ。これだけの表現力のバリエーションをもてば,小説も実写映画もなし得なかったジャンルを生み出すこともできる。かつてのSFが担ったより,もっと大きな役割を果たせるかも知れない。まだそのことに,この映画の作者たちも気付いていないかのように思う。
 さて,『ザ・シンプソンズ MOVIE』に戻れば,この映画は期待した以上に面白かった。スボラでお馬鹿で,嫌みな人間のダメ親父ホリーとその家族が,何の変哲もない架空の町スプリングフィールドの住民たちと織りなす物語が,実に味わい深い。これはTVアニメの単純な延長線上ではなく,完全に映画館の観客を意識して書き下ろされた脚本だ。映画の本質が脚本であることは言うまでもないが,大変心地よいテンポの映画だ。
 この映画の家族主義は,くどくもなく,クサくもなかった。素直にこの親子の絆を受け止めることができる。実写映画だとこうは行かなかっただろう。デフォルメし,単純化した2Dアニメゆえに,純粋な心を表現しやすく,かつ受け容れやすいのだろう。何でもかんでも3D-CGではない。演出上適切であれば,2Dアニメもコマ撮りアニメも大いに存在感を発揮する表現手段だと思う。この映画が,それを改めて証明してくれた。
 ところで,筆者は字幕版で観たが,日本語吹替え版は所ジョージと和田アキ子がシンプソン夫妻を演じるという。これも是非観てみたい。 
 
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写真2 セントラル・パークの描写は見事だった
 
 
 
 
写真3 この表情を好まない人もいるだろう
BEE MOVIE TM & (C)2007 by DreamWorks Animation LLC.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
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