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O plus E誌 2007年3月号掲載
 
 
デジャヴ
(タッチストーン・ピクチャーズ
/ブエナビスタ配給)
 
      (C)2006 TOUCHSTONE PICTURES and JERRY BRUCKHEIMER INC.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [3月17日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年1月31日 東宝試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  表題通りの既視感とビジュアルセンスが楽しめる  
 

 辣腕プロデューサ,ジェリー・ブラッカイマーの名前は,過去に何度となく本欄でも紹介した。80年代に『フラッシュ・ダンス』『ビバリーヒルズ・コップ』等をヒットさせ,90年代には『ザ・ロック』『アルマゲドン』で,数年前に『パール・ハーバー』(01年7月号) で少し躓いたものの,最近は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『ナショナル・トレジャー』(05年3月号)等のヒットを飛ばしている。監督よりも製作者の名前の方が宣伝文句に使われるのは,ハリウッド・メジャーでは彼,邦画界ではフジテレビの亀山千広氏くらいのものだろうか。大衆の嗜好の変遷を先読みし,流行を作り出すのが上手いのだ。
 そこにもう1点,話題好きな観客が望むニュースが加わった。球界を引退したあの新庄剛志が,ブラッカイマー作品3本の日本国内プロモーションを担当し,その第1作目が本作品であるというのだ。なるほど,新庄人気も今がピークで,その初仕事という話題性で彼を選んだブラッカイマーの眼力はすごい!
 本作品は,敏腕の火薬取締捜査官が爆破事件の解明に臨むサスペンス・アクションだが,監督はブラッカイマー作品『トップガン』(86)や『クリムゾン・タイド』(95)を手がけたトニー・スコットが,6度目のタッグを組む。この種の映画を撮らせたら,彼は兄リドリー・スコットよりも数段上手い。主演は,2度のオスカー受賞で押しも押されぬ大スターになったデンゼル・ワシントン。相手役のヒロインに抜擢されたのは『最後の恋のはじめ方』(05年5月号) のポーラ・パットン,冷徹な爆破犯人を『パッション』(04年5月号) でキリストを演じたジム・カヴィーゼル,FBI捜査官を『トップガン』のヴァル・キルマーが演じている。
 この作品は,新庄の印象ほどには軽くなく,引き締まって緊迫感を堪能できるサスペンス映画だ。「デジャヴ(既視感)」は何重の意味にも使われ,物語の推移を楽しませてくれる。単なる犯人追いでなく,変形タイムトラベルものとしても面白い。その性質上詳しくは書けないが,以下,多少のネタバレを許してもらおう。
 その鍵となっているのは,ターゲットエリア内ならどこでも「4日と6時間前」の映像を任意の視点から眺められるという「タイムウィンドウ」の機能だ。7基の軌道衛星からの観測画像を処理し,熱線情報を利用して壁をすり抜けた映像を再現できるという。いくら衛星画像が高精細になったといえここまでは無理で非現実的だが,映画だから許そう。マルチカメラで得た多視点情報から「自由視点映像」を再構成するというのは,最近話題のVideo-based Renderingである。この着想は妥当だ。
 ダグ捜査官がHMDを装着してクルマを運転し,過去の映像を重ねて道路上を追うシーンは,「時間差拡張現実感」だと言える。重ねる映像さえ生成できているなら,これも可能だ。いずれも正に筆者の専門分野である。かなりの専門家を配したゆえのアイデアだ。
 画像再構成に計算時間がかかるので「4日と6時間後」にしか観られないという説明は理解できるが,それが1回限りというのは変だ。一旦デジタル再構成できる記憶容量があるなら,何度でもできるはずだ。当初そう思ったのだが,実はこの映画の前提となっている秘密事項が本当なら,一度限りというのは理解できる。少し強引な設定のSFではあるが……。
 VFXの主担当はAsylum Visual Effects社。大半がCGインビジブルショットである。物語の発端となる爆発(写真1)の後のシーンなどはデジタル処理あっての産物だ。感心したのは,タイムウィンドウ研究所でのマルチウィンドウ・ディスプレイのデザインだ(写真2)。このビジュアルセンスは素晴らしい。個々のモニタには相当凝った画像が表示されていて,何となく辻褄もあっている。メイン・モニターは実際に存在したのではなく,後でデジタル合成したものだろうが,圧巻である。
 この映画でもまたビーチ・ボーイズの「Don't Worry Baby」がカーラジオから流れる。ベビーブーマー好みなのか,アメリカ人は本当にE・プレスリーとビーチ・ボーイズが好きだ。版権問題もあるのだろうが,こういう時にビートルズはまず流れない。クライマックス近くで,もう一度この曲が大きな音で聞こえて来る。その時に,なぜこの題の曲を選んだかが理解できる。リードヴォーカルが能天気なマイク・ラブでなく,繊細で病的なブライアン・ウィルソンであることも計算ずくなのだろう。
 この映画には☆☆☆を付けたいところだが,ぐっと我慢して☆☆に留めておこう。1つには,私が大好きなジャンルなので,過大評価を自重してのことだ。もう1つは,ダグ捜査官が命を賭してまで,彼女のもとへ向かうという設定が解せないからだ。この部分にリアリティがない。その両方で評価を下げたが,面白さは抜群だ。   

 
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写真1 この爆発後の光景がVFXの活躍の場   写真2 マルチモニタのビジュアルが実にカッコいい
 
 
(C)2006 TOUCHSTONE PICTURES and JERRY BRUCKHEIMER INC. ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
   
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