ケビン・コスナー久々の主演作である。沿岸警備隊を描いた映画というから,さしずめアメリカ版『海猿』だ。ただし,主人公は「潜水士」ではなく,「救難士」というレスキュー専門のスイマーの活躍を描いている。心に傷をもつ伝説の救難士ベン・ランドール(K・コスナー)が,天才スイマーでありながら若さゆえ暴走する訓練生ジェイク・フィッシャー(アシュトン・カッチャー)を育て上げ,共に人命救助に命をかける物語である。
監督は,『逃亡者』(93)『コラテラル・ダメージ』(02年4月号)のアンドリュー・デイヴィス。一流ではないが,男性派アクション映画には無難な人選だ。ベンの妻ヘレン役にセラ・ウォード,ジェイクの恋人エミリーにメリッサ・サージミラーを配しているが,「男の美学」がテーマだから女優陣は添えものの域を出ていない。
「自らの魂をすり減らしながらも,数々の奇跡を起こした彼を,人は《守護神》と呼んだ」がキャッチコピーだが,この邦題はあまりにも野暮だ。原題の「The
Guardian」は「警備隊員」と「守護神」の掛け詞なのだが,もう少し気の利いた邦題にできなかったのか。この映画が失敗するとすれば,この題のせいだろう。
命を懸けた業務遂行といえば,消防士が主役の『バックドラフト』(91)『炎のメモリアル』(05年5月号),潜水兵養成所の教官と訓練兵を描いた『ザ・ダイバー』(01年5月号)を思い出す。刑事ものに比べると馴染みが薄い分,業務紹介の部分が多くなる。命懸けの業務遂行を賛美するあまり,優等生過ぎて話がクサくなり,広報映像かと感じる。映画らしい硬派の映画ゆえに,サプライズはない。それでも,過酷なトレーニング風景は見応えがあり,さすがハリウッド映画だ。徹底取材で,本物以上にリアルに描いたのだろう。
荒れる海での人命救助は,特設プールでの特撮とCGの併用だ(写真1)。ただし,洞窟への出動の場面は実写中心で,ハリウッドならではのスケールを見せてくれる。ヘリもライトも人間も,今じゃ簡単にCGで描けるので,実写の海と合成することもさして難しくない。
VFXの主担当は,水の表現に実績のあるFlash Film Worksだ。Pixel Magic,Furious FX,Digital Dream等が,ボートやヘリや水しぶき等の表現を受け持っている。嵐の海や大波の描写には,既に『パーフェクト ストーム』(00年8月号)や『ポセイドン』(06年6&7月号)で,流体力学シミュレーションによる可視化が威力を見せつけたが,この映画では,大小様々なレベルの荒海で,物理シミュレーション,手付けアニメーション,既存ソフトによる表現法を巧みに使い分け,数多くのシーンを生み出している。実写の海とCGを合成し,加工する方法も効果的に使っているようだ。少しリアリティが低い部分もあったが,SFX/VFXがあったゆえにこれだけの海難救助映画が作れたと言えるだろう。
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