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O plus E誌 2005年5月号掲載
 
 
炎のメモリアル』
(タッチストーン・ピクチャーズ /東宝東和配給 )
 
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年3月8日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]
 
  [2005年5月全国東宝洋画系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  99%本物の炎のシーンがリアリティを高める  
   まず,語るべきはこの邦題だろう。原題は『Ladder 49』で「第49梯子車隊」の意だが,単純に「ラダー49」としなかったところがエラい。この映画の雰囲気を伝え,記憶に残るいい題名だ。
9・11同時多発テロで身を挺して活躍した消防士たちに捧げる作品だというが,9・11の現場を描いてあるわけではなく,ボルティモア市の消防隊が登場する全く別の物語だ。全編消防隊の映画というと,まず『バックドラフト』(91)を思い出すが,その他でも『タワーリング・インフェルノ』(74)のスティーブ・マックィーン,『オーロラの彼方へ』(00)のデニス・クエイドも消防隊長/消防士役で印象深かった。潜水艦ものと同様に外れが少ないと言えるが,迫り来る危機の中での人間模様の描写は没入感を引き出しやすく,感動を呼ぶのだろう。ただし,刑事ものほどバリエーションを作れないので,作品数はそう多くない。
 監督は『マイ・ドッグ・スキップ』 (00)のジェイ・ラッセル。これが,彼の監督作品4作目に当たる。主人公の消防士ジャック・モリソンに『サイン』(02)『ヴィレッジ』(04)のホアキン・フェニックス,消防署長マイク・ケネディに『パルプ・フィクション』(94)『フェイス/オフ』(97)のジョン・トラボルタというキャスティングだ。父子関係を思わせる2人のやり取りは悪くない。多数の男優脇役陣の中で,ジャックとしばしばぶつかる梯子車隊のチーフは,ロバート・パトリックが演じていた。『ターミネーター2』(91)のあの印象的なT-1000型ロボット役から10余年,随分と爺さんになったものだ。
 数少ない女優陣では,ジャックの妻リンダ役が『白いカラス』 (03)に出ていたオーストラリア出身のジャシンダ・バレットで,なかなか可愛い。この男だけのドラマに,いかにも添え物役で,どうせお飾りならこういう美形がいい。それでも,結婚前はひたすら可憐で,結婚後は神経質になるな妻の感じをよく演じていた。この映画を機に,ブレイクすることだろう。
 映画は,穀物倉庫で発生した大規模火災から始まる(写真 1)。ベテラン消防士で梯子車隊の隊員であるジャック・モリソンが,12階に残された1人の男性を脱出させた後,爆発,床の崩落で数階下の炎の中に投げ出される。物語は,自力脱出の可能性はなく救援を待つ彼の回想シーンと,刻一刻迫る危機の中での救出作戦が,交互に描かれて進行する。どちらかと言えば,モリソンの消防士人生を描く回想シーンの方がメインだ。結末はハリウッドの典型的パターンではないが,十分予想される決着のつけ方だ。思わず敬礼したくなる観客も多いに違いない。
 この映画の最大のウリは, CG製でなく,99%は本物の炎を使ったという点だ。ハリウッド映画らしく,出演陣には徹底した訓練が課せられ,防毒マスクを着用し,46kgのボンベを背負って1000度の炎に向かうのだから,俳優も大変だ。それゆえの緊迫感の演出には,十分成功していると言える(写真2)。
 
     
 

写真1 これだけの巨大セットを作って燃やすとは…

 
写真2  迫真の演技を引き出すのに99%本物の炎を使用
 
 
 
     
   では,残り1%のCGはどこで使われているのだろう? 99%というのはセールス・トークで,エンドロールのVFXスタッフの数からしても,そんなに少ないはずはない。担当は,Illusion Arts , Pacific Title Digital, Pixel Magicの3社だ。今やCGでなく実物であることを強調し,実は結構ディジタル技術を使っているということが増えている。本映画時評を始めた頃からすると,時代は変わったものだ。
 かつてカメラの直前だけに雨や炎を登場させる技法は多用されたが,今はそれがディジタル合成に変わっている。カメラの前だけでなく,どこへでも自在に登場させられるのが魅力だ。迫真の演技を引き出すため本物の炎を多用するシーンでも,もう少し描いておきたいといったところに,後処理で CGファイアーを自在に付加できる。炎だけでなく,爆発や壁の崩落等も描き加えることができる。煙もかなりの部分はCG製だろう。建物内の映したくない事物を消すのにも,炎と煙を使えばいいのだから好都合だ。
 その他では,人の墜落シーンや逃げ惑う多数のネズミの表現にも VFXは使われていた。もっとも,このネズミはお粗末で,いかにも嘘っぽかったのはご愛嬌だ。
 シンプルでさほどの物語ではないのだが,緊迫感が感動を誘う。あまり知られていない消防署内の勤務形態を描いた点で情報提供映画の趣きがある。私事で恐縮だが,筆者は消防署の敷地内の官舎で育った。父親が消防署長で,転勤の度に署長官舎を移ったためである。その筆者の目から観ても,かなり正確に消防士の生活・勤務形態が描いてあるなと感心した。
 ジャンと鳴って出動指令が出て,すぐさまポールを伝って階下に降りる様,手遅れた消防士が慌てて服を着ながら消防車に飛び乗る様子は懐かしい。暇な時, 2階で卓球に興じるのは,洋の東西を問わず同じようだ。この映画ほど危険な勤務はまずないが,それでも台風時など,不安な時に家長が家にいない家族の不安感は,他人には理解できないかも知れない。
 余談が多くなったが,観て損はない。炎と轟音の迫力を感じるなら是非映画館で観るべき映画だ。
 
          
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