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O plus E誌 5月号掲載
 
 
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『アンドリューNDR114』
(コロンビア映画
&タッチストーン映画
/SPE配給)
 
       
      (2000/3/9 SPE試写室)  
         
     
  SFらしい雰囲気の視覚効果  
   早くからSF界の重鎮アイザック・アシモフの名作短編『バイセンテニアル・マン』が映画化され,特撮シーンも多用されているとの話が聞こえてきていた。さらに,ロボットのアンドリューを演じる主演のロビン・ウィリアムスがしばらく映画界から退くとの噂や,アカデミー賞のメイクアップ部門へのノミネートのニュースが伝わってきた。
 製作・監督は『グレムリン』『ホーム・アローン』のクリス・コロンバス。ヒロインのリトル・ミスとその孫娘のポーシャの2役は『シンドラーのリスト』のエンデス・デイビッツ,リトル・ミスの父親のサーは『ジュラシック・パーク』のサム・ニールが演じている。
 アシモフのロボット3原則(付表1)を守った家庭用ロボットのアンドリューが,次第に自我に目覚め,人間を愛し,自分も人間になろうとする物語である。名作と言われているが,この短編を収録した作品集『聖者の行進』(創元SF文庫)は大型書店を何軒も探したが見つからなかった。仕方なく全く予備知識なく見ることにしたが,ストーリーの予想は見事に外れ続けた。
 
 
表1 ロボット工学3原則
ロボット工学ハンドブック第56版,西暦2058年

第1条 ロボットは人間に危害を加えてはならない.また,その危険を看過することによって,人間に危害を及ぼしてはならない.
第2条 ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない.ただし与えられた命令が第1条に反する場合はこの限りではない.
第3条 ロボットは第1条および第2条に反するおそれのない限り自己を守らなければならない.

 
 まず初めは,ディズニー系のタッチストーン映画作品で『ホーム・アローン』の監督なら,心優しいロボットをめぐるコメディで,改造を目論む製造会社とのコミカル・アクションかと思わせたが,いつの間にかラブ・ロマンス風になってきた。なるほど,ジェームス・ホーナーの音楽,セリーヌ・ディオンの主題歌というなら,『タイタニック』の2匹目のドジョウを狙って,SFXとラブストーリーの合わせ技なのか。それなら,ポーシャの結婚式を阻止して『卒業』のようなエンディングだろうと予想したが,これも外れた。段々シリアスになってきて,人間になることを求めて法廷に立つアンドリューの姿は,「人間とは?生命とは何か?」を問いかける重いテーマを突きつける。
 もともと原題の『Bicentennial Man』(200年の男)の意味がよく分からなかったが,映画の最後になってようやく理解できた。アメリカ独立200周年の1976年に書かれたということとも関連しているのだろう。
 SFXシーンは満載で,担当はディズニー・グループのDream Quest Images社。SF映画らしい雰囲気を出すことに成功している。早くから映画化が計画されていたらしいが,5年前だとこういう風には作れなかった。SF小説に活気があった頃の作品を最新のSFXで描くのは,悪くない組み合わせだと思う。
     
 
(a)未来のゴールデンゲート・ブリッジ (b)アンドリューが投影するCGホログラム (実写の水面への写り込みに注目)
写真1 『アンドリューNDR114』の視覚効果
 
     
   合成のパターンやバリエーションも豊富でレベルも低くない(写真1)。SFらしい小道具にもCGの威力が発揮されている。技術的な先進性よりも,美的感覚に優れているといえるだろう。フルCGの『トイ・ストーリー2』を別にすれば,本SFX映画時評としては,『マトリックス』以後でもっとも論じるに足る視覚効果であった。  
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  老け顔のメイクアップが凄い  
 
『イグジステンズ』のグロテスクSFXに比べて,こちらは爽やかで気持ちのいいSFXでした。原作の違いですね。
まだ21世紀以降の未来社会は夢だと考えていた時代の作品だからでしょう。手塚治虫やアシモフは,そうした時代のシンボルです。
でも,未来の街をクルマが空中浮揚するシーンは,いかにもという感じでステレオタイプでした。『フィフス・エレメント』や『SWエピソード1』でも見かけたシーンです。マット画で描いた背景の高層ビルもしかりです。他のSFXは良く出来てましたが…。
こうした定番表現の方が安心して見ていられるからかな。でも,暗い未来社会を描いた代表作『ブレードランナー』(1982)でもクルマが空中走行をしているんですよ。まだCGは使っていませんでしたが。
SFXも良質でしたが,あの老け顔のメイクアップは凄かったですね(写真2)。アカデミー賞メイクアップ部門ノミネートというのは,てっきりロボットのコスチュームのことかと思っていました。
   
 
写真2 見事な老け顔のメイクアップ(とても同一人物とは…)
   
あれはあれなりに見事ですよ。ロビン・ウィリアム自身が,16kgもあるロボット・スーツを常時来て演技していたそうです。
スーツの外からでも彼だとわかりましたね。脱いでからの歩き方もそっくりでした。でも,E・デイビッツやサム・ニールのメイクアップの方が凄い!
確かに「サム・ニールは本当はこんな歳だったのか。さっきのは若く作っていたのか」と思いました。
顔のシミや髪の毛の生え際,手やアゴのたるみなど見事の一言です。これだけでも一見の価値はあります。ただ,「爽やか」と「凄い」の中で,この映画は長すぎると感じました。
200年の重みを感じさせるため,わざと長く感じるように作ってあったのかも知れません。
同じ日に観た『ボーン・コレクター』の1時間57分と14分しか違わないのに,1.5倍くらいに感じました。
予想よりも面白く,いい映画でしたが,欧米では少し物議を醸し出したようです。
どうしてですか?
宗教上の理由だそうです。ロボットが人間になったのでは,神の存在は否定されると考える人がいるのでしょう。
大半の日本人はそんなこと気にしないでしょうから,若い女性にはオススメの心温まる映画です。
 
   
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