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O plus E誌 2006年2月号掲載
 
 
ジャーヘッド』
(ユニバーサル映画
/UIP配給)
 
      (C)2005 Universal Studios  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月11日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2005年12月14日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ILMが描いた油田の炎上シーンは臨場感抜群  
 

 VFX超大作は正月映画として公開されることが多いので,正月第2弾にはどうしても小粒な作品か異色作しか残っていない。例年この2月号は少し地味になりがちだ。この映画は,どちらかと言えば「異色作」「問題作」の部類に入り,それでいてILMが100人以上のスタッフでVFXを担当したという代物だ。
 この作品の舞台となっているのは,1990年から1991年にかけてのサウジアラビアだ。イラクのクウェート侵攻で起こった湾岸戦争で米国から派遣された若き海兵隊員の軍隊生活,内面の葛藤が描かれている。「ジャーヘッド」とは魔法瓶(ジャー)の頭部のことで,海兵隊員のヘアースタイルがそれに似ていることから,海兵隊員の別称・蔑称として使われているそうだ。
 我々日本人には既に風化しつつある湾岸戦争だが,イラク戦争開戦の2003年に出版された告白記はタイムリーで,たちまちベストセラーになったという。そりゃそうだろう,自国の大統領が戦争をおっぱじめてしまった以上,徴兵でなく志願兵であっても,先輩の生々しい日常記録が気になるのは当然だ。問題は,その内面の記録をいかに映画として描けるかだ。
 生なかな監督では撮れないと判断して選ばれたのは,監督デビュー作の『アメリカン・ビューティ』 (99) でオスカーを得た鬼才のサム・メンデス。なるほど,妥当な人選だ。彼には軍隊経験はないが,脚本家のウィリアム・ブロイルズ Jr. は元海兵隊員でベトナム戦争の体験があるという。主役(告白者)の20歳の海兵隊員アンソニー・スオフォードを演じるのは,『遠い空の向こうに』 (99) 『デイ・アフター・トゥモロー』 (04年7月号)のジェイク・ギレンホール。自ら志願したというだけあって,なかなかの熱演・好演だ。そして,『アダプテーション』 (02) のクリス・クーパー,『コラテラル』 (04) 『Ray/レイ』 (04) のジェイミー・フォックスというオスカー男優たちで脇を固めた。このキャスティングも悪くない。
 これだけの監督・俳優を揃えた話題作で,「ある青年海兵隊員の見たまま,体験したままの記録」「かつてない戦争映画,観たこともない人間ドラマ」というが,筆者はもう1つ乗り切れなかった。焼けた死体,燃える油田等々,映像の生々しさに感嘆することはあっても,感動はしない。原作には情報本としての価値はあっても,映画となると,他国の軍隊の退屈な日常生活など「ふーん,そういうものか」としか感じられない。
 映像はといえば,クレーンの利用もヘリでの撮影もせず,ただただ主人公の目線での映像に限ったという。これは結構印象的だった。なるほど,ドキュメンタリー的な感覚を与えてくれる。そして,ILMの出番はと言えば,全編通じてVFXらしさを売り物にせず,素人目にはCG/デジタル処理だと全く気づかない「インビジブル」ショットが大半を占めていた。 砂漠の上空を飛ぶ飛行機,砂塵,ガラスに映った空爆の光景,銃口からの火焔などは,デジタル技術の産物だろうと思われる。
 最も印象的でかつCGが多用されていたのは, 燃え盛るクウェート油田の光景で,炎や煙はデジタル技術の産物だ(写真 1)。いかにリアリティ重視のハリウッドとはいえ,まさか映画のために油田に火をつける訳にいかない。カリフォルニアやメキシコで撮影し,サウジアラビアには行っていないというから,ここはVFXで対処せざるを得なかった。いや,ILMの視覚効果で臨場感を演出できると分かっているから,こういう映画を作る気になるのだろう。この炎の表現は見事だった。そのCG製の炎の照り返しもデジタル処理でうまく表現されている。

 
     
 
 
 
写真1 炎と煙はILMの手なる視覚効果
(C)2005 Universal Studios
 
     
 

 とはいえ,この炎見たさに映画館に足を運ぶ日本人観客はいないだろう。米国内では問題提起の書であり,その映画化であっても,それを他国にまでさらけ出す必要があるのだろうか。戦争を通して数々の人間ドラマを描き,名作を生み出してきたのが映画だとしても,この映画は大作として作られ,全世界に公開するほどの題材だったのかと,疑問が残る。

 
          
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