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O plus E誌 2004年8月号掲載
 
 
『シュレック2』
(ドリームワークス映画
/UIP配給)
 
      TM & (c)2004 Dreamworks LLC  
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2004年6月22日 ナビオTOHOプレックス[完成披露試写会(大阪)]
2004年7月2日 UIP試写室(大阪)
 
  [7月24日より日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系他にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ギャグもパロディも,余裕でこなす大ヒット作  
   こちらは3年前に製作され,アカデミー賞の第1回長編アニメーション部門の最優秀賞に輝いたフルCGアニメ(2001年12月号参照)の続編だ。製作総指揮を務めるジェフリー・カッツェンバーグとディズニーとの確執は既に何度も書いた。5月21日に公開されるやこちらも息の長い大ヒットとなり,昨年ディズニー&ピクサーの『ファインディング・ニモ』(2003年12月号)が更新したばかりのアニメ作品No.1の記録を塗り替えた。この映画も,ディズニーランドのライバルであるユニバーサル・スタジオ内にアトラクションが設置されている。
 第2作目は,前作で結ばれた緑の怪人シュレックとフィオナ姫の蜜月新婚生活から幕を開ける。そこにフィオナ姫の母国「遠い遠い国」の両親から「結婚を祝う舞踏会」への招待状が届く。白馬にまたがった王子との結婚を想像している国王・王妃が,娘婿が怪物と知れば只事では済まない。さぁ大変……というわけである。
 舅と婿の対立もあれば,息子を溺愛する余り,シュレックとフィオナ姫の仲を引き割こうとする「妖精のゴッドマザー」が登場するなど,物語に幅が出て来た。それでいてギャグ満載の語り口は軽妙で,余裕すら感じさせる演出だ。実に楽しい。隣席の女性たちは笑い転げていた。今回第1作目を見直したのだが,何かかったるさを感じた。本作品の方が数段テンポがいい。
 新しい登場人物は多彩だが,そのキャラクタ設定や声優の選択も実に見事だ。ハロルド国王にジョン・クリース,リリアン王妃にジュリー・アンドリュースというキャスティングにはしびれた。表情も素晴らしい。「妖精のゴッドマザー」のモデルは誰だろう? フェイ・ダナウェイにもメリル・ストリープにも似ているし,漫才の宮川大助・花子の「花子」をも彷彿とさせる。
 実を言えば,完成披露試写会は「字幕スーパー版」ではなく「日本語吹替え版」だった。珍しいことだ。日頃本欄では「日本語吹替え版」はオススメなのだが,このシリーズに限っては「吹替え版」は勧められない。前作でも物議を醸し出したように,「シュレック」にダウンタウンの「浜ちゃん」(濱田雅功)というのは,どうしても違和感を覚えてしまう。関西弁が悪いのではない。声質も口調も軽過ぎて,シュレックの体型には合わないのだ。関西のお笑いタレントでも,もっと体重のある低音の人物を使えば良かったのにと感じる。
 改めて,字幕スーパー版の試写を見に行った。オリジナル版のマイク・マイヤーズも大柄とは言えないが,リップシンクが施されているせいか,浜ちゃんよりは格段にそれらしい。ただし,相手役のドンキーは,山寺宏一の吹替えが素晴らしく,エディ・マーフィのマシンガン・トークを一部の隙もなく再現してくれる。これは絶品だ。
 もう一匹忘れてならないのが,新登場の「長ぐつをはいたネコ」だ。ドンキーにも勝るとも劣らぬ個性派脇役の誕生である。その声に,字幕版のアントニオ・バンデラスもいい選択だが,これは竹中直人の日本語吹替えの方がずっと上手い。このネコのキャラそのものが,竹中直人のために存在しているかのようだ。
 その他,フルCGアニメとしての出来栄え等は,以下の通りである。
 ■ 前作以来3年間でビジュアル面の表現力は格段にアップしている。あっと驚いたのは,「遠い遠い国」のシーンだ(写真1)。ご当地ではもっと驚いたに違いない。「遠い遠い国」とはキツーイ冗談で,お膝元のビバリーヒルズがそのモデルだ。よく見ると,高級店が並ぶ「ロデオ・ドライブ」のパロディとして,「ロメオ・ドライブ」沿いに著名店舗をもじった店名が並んでいる。
 ■ 衣装やカーペットの質感,山々や森の中の背景(写真2),お城内での晩餐での部屋や料理にはかなりの描き込みがなされていて,進歩の跡が如実に表われている。雪の中の足跡や森の泉の水面の美しさは芸術的とさえ言えるレベルだ。
   
写真1 あっと驚いたこの「遠い遠い国」のデザイン
(c)2004 Dreamworks LLC. All Rights Reserved.
 
写真2 背景の描き込みも一段と精密に
 
     
   ■ それでいて,やればできるが,あえてリアリティは追及しないと決めた箇所の割り切りにも驚く。例えば,「遠い遠い国」の群衆の表現(写真3)は表情も動きも乏しい。ここはこれでいいやと割り切ったらしく,前作から進歩していないかのように思える。一方,ネコの長靴の皴など,うっかりすると見逃しがちな箇所まで精細に表現し,分かる者にだけ分かればいいという態度だ。
 ■ 各シーンでのライティングの設定が実に良くなったし,頭髪,動物の毛,顔の表情などの表現もかなり向上した。前作でのフィオナ姫の髪の毛は,光沢はリアルだったが,髪は束ねたままで動きがなかった。本作では,それはかなり改善された。風に吹かれて,ゆらゆら揺らし過ぎと感じるくらいだ。ネコの毛の質感表現なども,大した出来栄えだ(写真4)。
   
写真3 群衆の描写はちょっと手抜き
(c)2004 Dreamworks LLC. All Rights Reserved.
 
写真4 このつぶらな瞳には抱腹絶倒
 
     
   ■ 屋外シーンでは映画的な構図が目立ったが,さりとてカメラワークがうるさいと感じるほどではない。笑い転げたのは,他の映画の名場面のパロディ・シーンだ。前作では『マトリックス』のカンフー・シーンだったが,今回は『ロード・オブ・ザ・リング』の指輪,『スパイダーマン』のMJとの逆さキス・シーンなどが登場する。極め付けは『ミッション・インポッシブル』の宙吊り侵入シーンで,抱腹絶倒すること間違いない。
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