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O plus E誌 2005年3月号掲載
 
 
ロング・エンゲージメント
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2004 Warner Bros. Ent.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2005年1月18日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]
 
  [3月中旬より丸の内ピカデリー1ほか全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  冴え渡るジェネ節と全編こだわりの絵作り  
 

 何とも形容しがたい,評価に困る映画だ。もう一度試写を観たかったが,その時間はなかった。監督ジャン =ピエール・ジュネ,主演オドレイ・トトゥというコンビは,あの大ヒットした『アメリ』(01)の再現である。この監督が10年来暖めていた企画は,『アメリ』の成功でようやく大きな製作費を得て実現の運びとなり,『アメリ』のスタッフを再結集して作り上げたこの映画は,フランスでの興行記録を塗り返るヒットとなった。
 原作は,フランス・ミステリー界の巨匠セバスチャン・シャプリゾが 1991年に発表したベストセラー小説『長い日曜日』(創元推理文庫)だ。『シンデレラの罠』のシャブリゾが語る複雑なプロットを,ジュネは「愛のミステリー」として映画化している。結論を先に言うならば,一度観ただけではこのプロットがよく分からない。人名一覧を何度も見返し,目次を眺めてストーリーを再三再四整理して読み進む類いのミステリーを,映画にして観客に没入させようというのは少々無理がある。ビデオやDVDなら戻って確認できるのにと思いつつ,消化不良気味で先に進まざるを得ない映画だが,最後にオドレイ・トトゥが見せる笑顔がその不快感を一掃してくれる。もう一度観たくなること必定で,この監督なら最初からそれを意識して作ったのではないかとさえ思われる。
 第一次大戦下のフランス,戦場に旅立った恋人マネク(ギャスパー・ウリエル)を待つマチルド(オドレイ・トトゥ)のもとに,彼が軍法会議で死罪を宣告され,武器もなく戦場に置き去りにされたという悲報が届く。しかし,マネクの最期を見届けた者は誰もいない。「彼に何かあれば,私には分かるはず」という直感に導かれながら,マネクの行方をたどる…,という物語だ。奇跡が起こるかどうかは想像に任せるが,この監督なら,ハリウッド流の万万歳の大団円でもなさそうだと予想できるだろう。営業政策上,最近はセリフは英語というケースが多いフランス映画だが,この映画はしっかりフランス語で語られているのが嬉しい。
 視覚効果はというと,『アメリ』以上にしっかり入っている。担当は『ジャンヌ・ダルク』 (99)も手がけたデュボア社ゆえに腕は確かだ。VFXは,主として1910-20年代のパリを再現するのに使われている。トロカデロ宮殿前の散歩道,エッフェル塔の向こうに見える町並み,レ・アール地区の食品市場など,20世紀前半のパリを堪能させてくれる。大洪水や熱気球の爆発シーンももちろんVFXのなせる技だ。
 もう 1つの主たる用途は過酷な戦場の描写だ。実際に塹壕を作って撮影しているが,顔の半分なくなった兵士,銃口からの炎,遠景や飛来する敵機などはVFXの出番だ。戦闘機から投下されるの砲弾,地上から投げ上げられる手榴弾のアングルなども斬新だった。
 『アメリ』を赤と緑のポインセチア・カラーで描いたこの監督は,この映画でもディジタル処理による色調表現を好んで多用している。塹壕シーンを中心とした戦場を寒々とした寒色系のトーンで描き(写真1),マチルドが待つ村の様子は暖色系で描く(写真2)。意図的なセピアカラー調のモノトーン場面もしばしば登場する。

 
     
 

写真1  本映画の鍵となる戦闘機の飛来シーン

  写真2 デジタルならではの微妙な色調表現  
 
 
Bruno Calvo/(c)2003 Productions - Warner Bros. France 2004
 
     
   全編にこの監督のこだわりが感じられる。博物館の骨だらけの陳列,墓地の膨大な十字架の数に圧倒させられるかと思えば,レストランや普通の家庭で使われている小物にも,きめ細かな配慮がなされ,完全主義が貫かれていることが分かる。ジュネ節としか言いようのない語り口調が冴え渡る。さぞかし監督もスタッフも,この映画の絵作りを楽しんだことだろう。いくら映画の文法を勉強しても,自分では絶対に作れない映画。そんな思いがする味のある映画だ。  
          
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