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O plus E誌 2001年10月号掲載
 
 
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『陰陽師』
(東宝)
 
(c)2001 「陰陽師」製作委員会
       
      (2001年8月29日 東宝本社試写室)  
         
     
  視覚効果満載が逆効果  
   SFX/VFXが頻出するジャンルとしては,「恐竜・エイリアン」「宇宙・SF」「オカルト」がベスト3だろう。言い換えれば,低予算の邦画ではこのジャンルが一番手を出しにくいと言える。そこにあえて特殊効果満載の和製時代劇オカルト映画が登場した。
 時代は,闇夜に鬼,魔物,物の怪が登場したした平安時代の初期。その暗黒の夜を鎮める「陰陽師」(おんみょうじ)の活躍を描いた夢枕獏の同名小説は,これまでに4作品が出版されている。主人公の安倍晴明(あべのせいめい)は,実在の人物らしいが,この人気シリーズとともに今ちょっとしたブームになっている。
 監督は『お受験』(99)『秘密』(99)の滝田洋二郎。時代劇は始めてである。原作者の希望で安倍晴明を演じるのは,狂言界のプリンス野村萬斎。TVドラマやCMでは見かけるが,こちらも映画主演は初めてだ。コンビを組む近衛中将・源博雅(みなもとのひろまさ)に若手の伊藤英明,敵役の陰陽頭・導尊に真田広之,女優陣では小泉今日子と元SPEEDの今井絵里子が登場する。
 物語は,安倍晴明と源博雅の出会いから始まり,朝廷内での権力争い,親王にかけられた「呪」を解き,さらに平安遷都に絡んだ「大いなる謎」の解明に超能力者の晴明が挑むというもの。京都での大規模なロケ,豪華な時代衣装からも,エンターテインメント大作としての意欲が感じられる。
 予想した以上に,特撮,視覚効果を施したシーンは多かった。全編これSFX/VFXといっても過言ではない(写真)。蝶や木の葉が舞ったり,妖怪が浮遊したり,口から物の怪が飛びだしたり,乳児の顔が化け物と化したりの怪奇現象から天変地異まで,邦画では過去最大級と言えよう。
 
     
 
写真 主演は野村萬斎,VFXも満載
(c)2001「陰陽師」製作委員会
 
     
   ところがその大半が,いかにもCG,いかにも合成,ここは特殊視覚効果でござい,と断っているかのような出来栄えだった。10年前ならいざ知らず,目の肥えた観客には安っぽく見えてしまう。例えば,雲の形や動き1つとってみても,パーティクルの処理が雑で,『ハムナプトラ2』とはだいぶレベルが違う。たまには邦画のVFXも褒めようと思っていたのに,これは残念だった。
 担当は「オムニバスジャパン」。CFで鍛えたこのスタジオの実力はこんなものじゃないはずだ。彼らにしてみれば,時間と予算の制約で割り切らざるを得なかったのだろう。監督からしてみれば,止むを得ず妥協したと言いたいかもしれない。これほど多くのカットを扱わなければ,もう少し質は上げられたと思う。昨年夏公開の『ジュブナイル』が,少人数であれだけ上質のイフェクトを見せることができたのは,自分のVFXチームを率いる山崎貴監督がメガホンを取っていたからだろう。
 学芸会レベルのVFXに引き摺られてか,脚本も演技も今一つ盛り上がりに欠けた。アクション映画らしいテンポの良さはなく,華麗なる平安絵巻の重厚さでもなく,中途半端でこの物語に入って行けない。邦画としてはかなりの予算をかけておきながら,日本映画界は娯楽映画の作り方を忘れてしまったかのようだ。
 そんな中で,主演の野村萬斎だけが光っていた。ある意味では,彼だけが異次元の空間で演技していたかのように見えた。にしたいところだったが,彼ののびのびとした好演に惚れ込んで評価を☆にした。人気シリーズの映画化だけに,続編での巻き返しに期待したい。
 
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