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O plus E誌 2003年4月号掲載
 
 
『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』
(ニューライン・シネマ/松竹&日本ヘラルド共同配給)
 
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]   2003年2月15日 相鉄ムービル(先行ショー)  
  [2月22日より全国松竹・東急系にて公開中]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  物語もVFXもただただ圧倒させられる  
   とにかく凄い。面白い。3部作の2作目だからダレるかと思ったが,予想は見事に外れた。既に登場人物はほとんど分かっているので,素直に物語に入り込め,見事な語り口調と壮大なスケールの映像にぐいぐい引きずり込まれる。この監督は映画の申し子,天才だ!
 既に公開後1ヶ月余,先月号で取り上げることを期待されていただろうが,SWやハリポタ同様マスコミ用試写会はなく,当初入れてくれる約束の1回限りの完成披露試写会も門前払いだった。スポンサ約10社の招待者ばかりで,O plus E誌のライターごときは相手にしてくれなかった。10数通ハガキを出した一般試写会もすべて落選した。それだけの事前人気だったということだ。
 こうなるとシャクで取り上げたくなくなるのが人情だが,VFXが一段とパワーアップしたことが分かっているので,本映画時評として書かないわけには行かない。
先行ショーで吹替え版,一般公開後に字幕版を観たが,噂にたがわず映画としても,VFXの面でも素晴らしかった。SWシリーズやハリポタ・シリーズは比べるに値しない。何度も観るだけの価値はある。感激だ。脱帽だ。
 前作で離れ離れになった旅の仲間たちは,この映画でも三手に分かれたままで物語は進行する。悪鬼バルログと戦って地の底に落ちたはずの灰色のガンダルフ(イアン・マッケラン)が白の魔法使いとなって復活し,大河ドラマらしく新たな登場人物も続々と現れる。そんな解説は他誌に任せ,以下VFXの見どころのみを論じる。
 ■前作で少し姿を見せた奇妙な生物ゴラムが本格的に登場するが,これが逸品だ(写真1)。予め2倍サイズの全身や各種表情のクレイモデルを作ってこれをスキャンし,幾何データを得ている。表情はキーフレーム・アニメーション中心で,身体の動きはモーション・キャプチャーもあれば,他の俳優とのからみの部分はモノトーンの衣装をまとったアンディ・サーキスに演技をさせ,それにCGを重ねている。この皮膚のリアル感が凄い。目の輝きや唇の濡れ具合も特筆に値する。キャラクタは気味悪いが,クオリティは現在VFX技術の最高峰だ。
 ■指輪で心が歪んだゴラムと良心をもった元の人格スメアゴルが,自分の中で戦う様の,表情や声の使い分けも素晴らしい。落語で上下(かみしも)を切るさまを思い出した。これはオリジナルよりも日本語吹替え版の方が数段上だ。『SW』のジャージャー・ビンクス,『ハリポタ』のドビーとは比べものにならない傑作と言える。
 ■木の精が宿ったエント族の描き方も見ものだ(写真2)。最長老の「木の髭」の造形も表情も素晴らしい。アニマトロニクスやCGを縦横に駆使して,もはやVFXは多様な技術の複合だということを実感させてくれる。森の中の木々とCGで描いたエント族の照明や画質の併せ方も芸術的と思うまでにマッチさせている。すごい!
 ■サウロンの毒で廃人同様だったセデオン王から取りついた魂が追い出され,生気が甦って元の高貴な王に戻るシーンも語るに値する。数段階のメークアップをモーフィングで繋いだだけなのだが,使い方が上手い。久々に演出効果満点のモーフィングを観た。
 ■アップで入り,カメラを引いて俯瞰視点に移り,そこでカメラをぐるっと回してスケール感を出す。この手法は,前作と同じで何度も出てくるのだが,飽きずに毎度圧倒させられる。ロケシーンも,模型中心のシーンも,CG中心のシーンも統一した同じカメラワークで,それがニュージーランドの大自然と溶け込んでいるから,観客は視覚効果を不自然と感じず,ピーター・ジャクソンの描く世界に陶酔してしまう。名人芸だ。
 ■壮大なスケールを感じさせるもう1つの技は,圧倒的な数の兵士とその動きだ(写真3)。約30人の実演俳優の演技を何重にもコピーして大群衆に見せるかと思えば,Massiveなる群集シミュレーション・ソフトも縦横に駆使している。CGだけでなく,模型制作の腕も良ければ,使い方もうまい。ただし,ウルク=ハイの兵士は1万人というがとてもそうは見えない。10万人以上に見えてしまうのだが…。
 ■若い女性に人気のエルフのレゴラス(オーランド・ブルーム)のスケボー・シーンには驚き,笑ってしまった。荘厳で雄大な物語の中,こうした遊びをみせてくれるのも嬉しい。この監督の余裕だ。
 ■オリファントなる巨大な象と実写の人間を合成したシーン,沼に落ちたフロドの周りに登場する亡者たち,エント族が引き起こす洪水なども,普通の映画なら特筆すべき場面だが,この映画では一々論じていられない。VFXシーンは約1,100にも上り,映画に使われたのは約750シーンだという。数の上では『SWエピソード2』の3分の1だが,満足感,満腹感はずっと上だ。
 
 
写真1 最大の見どころはゴラムの素晴らしい出来栄え。 表情も動きも俳優アンディ・サーキスをキャプチャして CGに合成(上3枚)。実写の背景や俳優の演技にも見事に溶込んでいる(下)
(c)2002 New Line Cinema. All Rights Reserved.
写真2 アニマトロニクス製の「木の髭」にボビット2人を乗せて撮影し,「木の髭」にはCGで表情を与える(上3枚)。燃えながら歩き回るのはフルCG版(下)。  
   
     
写真3 圧倒的な迫力のウルク=ハイ兵士軍。ミニチュアの城壁に立て掛けたハシゴを3Dモデル化し,そこに兵士を合成する(左)コンピュータ生成のサウロンの兵士はとても1万人には見えない(右上)。駆けつけた人間の援軍ももちろんCG(右下)。
(c)2002 New Line Cinema. All Rights Reserved.
 
 
   
  オスカー・レースの予想  
   本号が出るころには判明しているはずのアカデミー賞には,作品賞以下5部門のノミネートで昨年より少ないが,もちろん視覚効果部門の3作品には選ばれている。ライバルは『SWエピソード2』と『スパイダーマン』だ。筆者は『マイノリティ・リポート』が入るべきだと思うが,同じILMだから代表は『SWエピソード2』に譲り,『スパイダーマン』はVFXにムラが多かったが大ヒットのご褒美として入れてもらったのだろう。
 人情としてはヨーダが大活躍する『SWエピソード2』にオスカーを獲らせてやりたいが,印象はこの『二つの塔』の方が上だ。作品賞や監督賞は3部作が完成する来年まとめて与えられるだろう。視覚効果賞は昨年獲ったから今年は1年お休みで『SW』に譲り,完結編で再度受賞という政治的配慮が働くかも知れない。いやいや,来年は今年公開の『ターミネーター3』や『マトリックス2 & 3』がからんで来るだろうから,そんな悠長なことは言っていられない。いずれにせよ,今年も来年も本映画時評としてはこの賞獲りレースを大いに楽しみたい。
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