O plus E VFX映画時評 2025年2月号

第97回アカデミー賞の予想(+結果分析)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


昨年とは違う意味で, 気乗りがしなかった今年の予想

(2025年2月26日記,2月28日修正)

 昨年は大本命の『オッペンハイマー』(24年3月号)のマスコミ試写を観る機会が得られなかったので,不戦敗印の▲を導入するというみっともない予想となってしまった。結果は▲印の受賞が最多であったから,思わず愚痴が出た訳である。『オッペンハイマー』以外でも,当映画評の「2024年度ベスト5&10」で高順位を与えた『関心領域』(24年5月号)『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』(同6月号)も,昨年のこの時期には未見で▲をつけるしかなかった。それに対して,今年は本稿執筆時までに大半のノミネート作を観終えているし,授賞式前の2月末までに確実に視聴できる作品も数本ある。そうでありながら,なぜか予想記事を書くことに気乗りがしなかったのである。
 昨年秋口に「今年は混戦で,本命なし」との声が多かった。昨年が別格で,この数年は激戦,接戦のことが多い。じゃんけん後出しが有利なのを計算して,年末近くに映画賞狙いの力作(?)を投入する製作責任者が多いためである。それでも,前哨戦のGG賞の結果が出る頃には,有力作品の評価が落ち着いていることが多い。思えば,この予想記事を書くことにワクワクしていた頃が懐かしい。混戦なら混戦で予想が的中すると快感であるし,大本命がある場合は,それを外した推しの映画が受賞した時の快感は格別である。そう思いつつも,やはり気乗りがしないままに時間切れになったので,止むなく無理に予想印をつけることにした。
 ノミネート数の最多は『エミリア・ペレス』の12部門,13ノミネートで,昨年の『オッペンハイマー』と同ノミネート数である。続くのは『ブルータリスト』『ウィキッド ふたりの魔女』の10部門,これが数字の上での3強だ。その下は『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』と『教皇選挙』の8部門が続く。作品賞,監督賞の受賞作は,この中から出ることが多いが,6部門ノミネートの『ANORA アノーラ』を本命視する予想も少なくない。
 予想印をつけ始めて気がついたことがある。作品賞候補10本の中では,余り好きでない作品が有力視されていて,お気に入り映画がそこから外れている。また,撮影賞/衣装デザイン賞/編集賞/音響賞等の技術部門では,頭一つ抜けた有力作がなく,決め手もないため,予想印がつけにくい。その一方で,「当欄にとっての主要2部門」である長編アニメ賞&視覚効果賞部門は,甲乙つけ難い力作揃いとなっている。即ち,予想記事を書く愉しみよりも,的中を目指した予想を立てることが苦痛に感じて,気乗りがしなかったのだと気づいた。
 そうとなると,的中での勝敗は気にせず,例年以上に単に好きか嫌いかの好みをはっきりさせた予想に徹することにした。ここで言う「好き/嫌い」は個人的な嗜好であり,作品の総合的評価とは別ものである。筆者は嫌いでも,一般観客が楽しめそうな映画には高評価を与えている。
 昨年は例外的に▲(不戦敗)を設けたが,今年は従来に戻し,予想印は下記の4種類である。◎と★が重ならないようにしているのは,これまでと同様である。

 ◎:世評を考慮した比較的素直な予想での「本命」
 ○:同上の意味での「対抗」となる作品
 ★:好きな映画ではないが,アカデミー会員ならこれを選ぶと想像する変則の「予想」
 ☆:個人的な好みで,これが選ばれれば嬉しいという「願望」

[2/27(木)と2/28(金)の両日に『ノスフェラトゥ』『ANORA アノーラ』を含む計4本のノミネート作品を視聴したので,以下はその結果を反映した最終的な予想である]


部門毎の予想と個人的願望

 ●作品賞部門:ノミネート作10本の内,7本は視聴済みで,『ニッケル・ボーイズ』『ANORA アノーラ』は2月中に観るので,授賞式前の未視聴は『アイム・スティル・ヒア』(8月公開予定)だけになるはずだ。候補作の中で,文句なく好きなのは3本で,『名もなき…』>『ウィキッド…』>『教皇選挙』の順である。一方,好きになれない映画は,『ブルータリスト』>>『エミリア・ペレス』≒『サブスタンス』の順となる。『ブルータリスト』は圧倒的に大嫌いだが,『エミリア・ペレス』は何となく好きになれない程度だ。『サブスタンス』は映画は楽しめたが,ここまでやるか,こんな悪趣味なゲテモノ映画を作品賞の候補にするのは選考委員会の見識を疑う,といった感じである。個々の嫌悪感の理由は,各作品の紹介記事に譲る。映画全体が好きになれないだけであって,監督の手腕,演出能力や俳優の演技力を低く評価している訳ではないことも断っておきたい。
 以上を総合して,2/26の第1次予想では,☆★を1つずつ選んだのだが,その後に観た『ANORA アノーラ』のコメディタッチを気に入ったので☆に加えた。
 ●監督賞部門:ノミネート5本が作品賞のサブセットであるのは例年通りで,当然と言える。ここは好悪の感情は別として,監督の力量を素直に評価して,『エミリア・ペレス』を本命◎,『ANORA…』を対抗○とする。『ウィキッド…』が受賞すると嬉しいが,同時に撮影されたPart 2が今年の公開を控えているので,次年度の授賞となる可能性も高い。
 ●主演男優賞部門:役柄は嫌いだが,演技力で選ばれる可能性大と解釈して,『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディを★とする。『教皇選挙』のレイフ・ファインズの渋い演技も好きなのだが,歌唱力も含めて『名もなき…』のティモシー・シャラメを☆に入れざるを得ない。『シンシン SING SING』のコールマン・ドミンゴがこの部門の候補に入ったのは,1人は有色人種と入れておこうという卑しい政治的配慮としか思えない。
 ●主演女優賞部門:本来なら『エミリア・ペレス』のカルラ・ソフィア・ガスコンが大本命のはずだが,過去の差別発言がSNSで大炎上した。過去にはネガティブ報道を跳ね除けた例もあるが,さすがに今回は投票者側が避けるだろう。ここは素直に『ウィキッド…』のシンシア・エリボを本命◎にする。対抗は現時点ではなしだが,『ANORA…』のマイキー・マディソンのためにここは枠を空けておこう。[付記]その予告通りに『ANORA…』を○とした。
 ●助演男優賞部門:筆者は全く評価しないのだが,『リアル・ペイン~心の旅~』のキーラン・カルキンの世評の高さに驚く。その事実を信じ,皮肉を込めて★を投じる。一方,入って欲しいのは,『ブルータリスト』のガイ・ピアースと『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』のジェレミー・ストロングである。この部門は☆に2人を残す。
 ●助演女優賞部門:個人的には『ウィキッド…』のアリアナ・グランデにぞっこんだった。『エミリア・ペレス』のゾーイ・サルダナを観て,彼女には勝てないと観念した。K・S・ガスコンの不祥事の分の同情が,監督賞とこの助演女優賞に集まると思う。
 ●脚本賞/脚色賞部門:筆者が好きになれない『ブルータリスト』と『エミリア・ペレス』が別部門の扱いになったので,各々を★にする。脚本賞を獲らせたいのは『セプテンバー5』である。脚色賞の☆には一応『教皇選挙』を挙げておく。[付記]『ANORA…』の脚本を気に入ったので,◎○方式に変更し,脚本賞の本命◎とし,『ブルータリスト』は○と格下げした
 ●撮影賞部門:当欄の年間Best 1にした以上,何か獲らせたいので,ここで『デューン 砂の惑星 PART2』を本命に推す。対抗は,陰影や色調を巧みに使い分けていた『ノスフェラトゥ』とした。
 ●美術賞/衣装デザイン賞部門:いずれもかつてほど抜けた映画がない。相対的に両部門とも『ウィキッド…』を本命◎にする。美術賞の対抗○は『デューン…』とし,衣装デザイン賞の対抗○は赤い法衣と黒と赤の外套の対比が美しかった『教皇選挙』にしておく。
 ●編集賞部門:この部門にノミネートされてしかるべきだと思ったのは『セプテンバー5』なのだが,候補にならないなら仕方がない。かなり消極的な予想で,前半と後半を丁度100分ずつに分けた『ブルータリスト』を◎,Part 1の範囲内で終盤を見事に盛り上げた『ウィキッド…』を対抗としておく。
 ●メイキャップ&ヘアスタイリング賞部門: この部門は『サブスタンス』が断トツの◎だ。かなり差はあるが,ラストシーンでの健闘を評価して『ノスフェラトゥ』を○とした。
 ●音響賞部門:技術的にどの映画が優れているのか,全く分からない。IMAXで視聴すればどれもサウンドは素晴らしいし,オンライン試写なら差を感じない。何か予想するなら,アフレコや口パクでなく,各俳優に生録で歌わせて,見事な歌唱に仕上げた『名もなき者…』が本命◎とする。IMAXの先行上映を観て,砂の惑星の壮大な映像にフィットした音響だと感じた『デューン…』を対抗○としておく。
 ●作曲賞部門:当該記事でも書いたように,劇伴音楽に多彩な楽器を使い,全く違う曲調を配して物語を盛り上げた『ブルータリスト』を本命◎に,その逆にミュージカル仕立ての歌唱部とその他の劇伴音楽を違和感なく繋げた『エミリア・ペレス』を対抗○にする。
 ●主題歌賞部門:珍しいことに,映画音楽として好きな曲,これぞと思う曲がない。『エミリア・ペレス』からノミネートの2曲の内,曲としては「Mi Camino」の方が良いが,オスカー受賞の主題歌というほどの出来ではない。もう一方の「El Mal」は名曲と思えないのだが,この曲が流れるシーン,歌詞に対しての評価なのかと思う。まともな映画音楽の主題歌は『エルトン・ジョン:Never Too Late』のエンドソング「Never Too Late」だけだった。これを入れるなら,『モアナと伝説の海2』や『BETTER MAN/ベター・マン』のエンドソングも映画音楽らしい名曲だったので,ノミネートされてもしかるべきだと感じた。
 ●国際長編映画賞部門:公平に評価すれば,12部門にノミネートされた『エミリア・ペレス』がこの部門でも受賞しないとおかしい。一方,対抗に『Flow』を残したのは,次項の長編アニメ賞には選ばれず,この部門に投票しておこうというアカデミー会員が多いことを願っているからである。


当欄にとっての主要2部門の予想

 ●長編アニメ賞部門:過去14年間で当部門の成績は,12勝2敗である。昨年は,前哨戦の結果から、大嫌いな邦画アニメが本命視されていることは分かっていた。★にして題名を予想一覧の欄に書くのも嫌だったので,意図的に無視した。その意味では,真っ当な予想での戦績は12勝1敗なのである。予想の名人という訳ではなく,例年頭1つ抜けている作品があったゆえの好成績である。
 ところが,今年は全く的中の自信がない。他の年であれば,悠々オスカー戴冠できる秀作が3本もあるからである。『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない』『野性の島のロズ』『Flow』の3本だ。どれを本命,対抗にすべきかの悩みは,『Flow』紹介記事の「総合評価」欄に書いたので,それを参照されたい。迷いに迷った挙句,幅広い観客にとっての完成度が高い『野生の島…』を本命◎とした。
 ●視覚効果賞部門:過去14年間の成績は,10勝3敗,1不戦敗である。昨年は楽だった。願望と確信をもって,一推しの『ゴジラ−1.0』を本命にしておけば済んだからである。今年は混戦模様で,抜けた作品が見当たらない。CG/VFXのレベルはどんどん上がっているので,映画中での貢献度,完成度も上がり,5本の内の1本を的中させるのは簡単ではない。
 『デューン…』は前述したtように当映画評の総合ベスト1にしたのだが,PART1の前作が受賞したので,今回は票が集まらないと思われる。逆に『ウィキッド…』は今回がPART1なので,PART2まで評価がお預けにある恐れがある。それでもクライマックスでのVFX利用の演出が見事だったので対抗○とした。
 映画全体に占めるCG/VFXの重要度,多彩さでは『猿の惑星/キングダム』が最良だと思う。ところが,過去の3部作『猿の惑星:創世記』(11年10月号)『同:新世紀』(14年10月号)『同:聖戦記』(17年10月号)は,いずれもノミネートは果たしながらも,最終的なオスカーには手が届かなかった。その意味では,印象が同じ本作も同じ結果になる可能性が高い。ただし,ここまでWeta FX社が磨き抜いて来た猿のCG描写は,形を変えて『BETTER MAN…』で活かされている。今回のユニークな使われ方は全く斬新であり,当欄の一推しの本命◎としたい。

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以上をまとめると,以下のようになる。(2月28日修正&追記,3月3日結果記入)
太字が受賞作]
・作品賞:★『エミリア・ペレス』
     ☆『ウィキッド ふたりの魔女』
     ☆『ANORA アノーラ』
・監督賞:◎ジャック・オーディアール ~『エミリア・ペレス』
     ○ショーン・ベイカー ~『ANORA アノーラ』
・主演男優賞:★エイドリアン・ブロディ ~『ブルータリスト』
       ☆ティモシー・シャラメ 〜『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
・主演女優賞:◎シンシア・エリヴォ ~『ウィキッド ふたりの魔女』
       ○マイキー・マディソン ~『ANORA アノーラ』
・助演男優賞:★キーラン・カルキン ~『リアル・ペイン~心の旅~』
       ☆ガイ・ピアース〜『ブルータリスト』
       ☆ジェレミー・ストロング〜『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』
・助演女優賞:◎ゾーイ・サルダナ ~『エミリア・ペレス』
       ○アリアナ・グランデ ~『ウィキッド ふたりの魔女』
・脚本賞:◎『ANORA アノーラ』
     ○『ブルータリスト』
     ☆『セプテンバー5』
・脚色賞:★『エミリア・ペレス』
     ☆『教皇選挙』
・撮影賞:◎『デューン 砂の惑星 PART2』
     ○『ノスフェラトゥ』
    (受賞作:『ブルータリスト』)
・美術賞:◎『ウィキッド ふたりの魔女』
     ○『デューン 砂の惑星 PART2』
・編集賞:◎『ブルータリスト』
     ○『ウィキッド ふたりの魔女』
    (受賞作:『ANORA アノーラ』)
・衣装デザイン賞:
     ◎『ウィキッド ふたりの魔女』
     ○『教皇選挙』
・メイキャップ&ヘアスタイリング賞:
     ◎『サブスタンス』
     ○『ノスフェラトゥ』
・音響賞:◎『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
     ○『デューン 砂の惑星 PART2』
・作曲賞:◎『ブルータリスト』
     ○『エミリア・ペレス』
・主題歌賞:★El Mal 〜『エミリア・ペレス』
      ☆Never Too Late 〜『エルトン・ジョン:Never Too Late』
・国際長編映画賞:◎『エミリア・ペレス』
         ○『Flow』
        (受賞作:『アイム・スティル・ヒア』)
・長編アニメ賞:◎『野生の島のロズ』
        ○『Flow』
        ☆『ウォレスとグルミット 仕返しなんてコワくない!』
・視覚効果賞:◎『BETTER MAN/ベター・マン』
       ○『ウィキッド ふたりの魔女』
       ☆『猿の惑星/キングダム』
      (受賞作:『デューン 砂の惑星 PART2』)


付記:受賞結果を振り返って

(2025年3月4日記)

■結果はまずまずだが,つまらなかった今年の予想合戦。当欄主要2部門は確信犯での完敗。
 終ってみれば,『ANORA アノーラ』が5部門受賞で,『ブルータリスト』の3部門受賞がこれに次ぐ。他は2部門以下だ。最多5部門は,昨年の『オッペンハイマー』,一昨年の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23年3月号)の7部門には負けるが,6部門ノミネートで5部門受賞は効率が良い。ノミネート作発表時には,13ノミネートの『エミリア・ペレス』が本命視されていて,過去最多の11部門受賞を更新するかとまで噂されていたのが,主演女優の舌禍騒動で大失速した。確実視されていた助演女優賞と主題歌賞の2部門だけ確保できたのはお情けと言うべきか。GG賞で無冠であった『ANORA アノーラ』が浮上したのだから,単なる繰り上げ,棚ボタと言わざるを得ない。主要部門以外でも順当と思われる受賞が多かった。要するに,繰り上げ以外は番狂わせのない,つまらないアカデミー賞予想合戦であった。ChatGPTの予想が最も的中率が高かったという報道があったが,単にネット上の予想記事の上位を集計すれば的中率が高かったこと意味しているに過ぎない。
 当欄の予想は◎と★を的中と考えているので,受賞作が[◎+★]:9,○:4,☆:2,無印:4の分布となったのは,まずまずの結果である。無印の内,国際長編映画賞受賞の『アイム・スティル・ヒア』は未見であるので,これを不戦敗と考えれば,9勝8敗,1不戦敗である。馬券なら単勝1点買いにせず,複勝,馬連,ワイド等も購入するだろうから,プラス収支になったに違いない。余り乗り気でなく,しぶしぶ適当に予想印をつけたにしては上々の結果であり,満足感も中くらいである。
 当欄の主要2部門の結果を語ろう。○と無印が受賞したのだから,両部門とも外れの完敗である。このアカデミー賞予想は15回目だが,両方とも外したのはこれが2度目だ。2012年以来の13年ぶりということになる。最初から稀に見る混戦だと断ったくらいだから,十分有り得た完敗である。よって余り悔しくはなく,心残りもない。
 長編アニメ部門は,前哨戦での受賞作『Flow』をフライングしてまで紹介を早めたのであるから,的中に限りなく近い。「あー,やっぱりな」の感じだが,外れは外れである。昨年に続き2連敗で,通算戦績は「12勝3敗」になった。今の大相撲なら優勝決定戦で横綱になれる成績である(笑)。
 一方の視覚効果賞の受賞作の『デューン 砂の惑星 PART2』は,当欄の昨年の年間総合評価Best 1である。その紹介記事(24年3月号)の最後に「来たるPART3にも視覚効果賞のオスカーを得て欲しいので…」と結んでいるから,この時点ではPART2が受賞すると思っていたことになる。それをアカデミー賞が近づき,最終予想で無印にしたのは確信犯である。その後公開された映画の方が上と判断した。ほぼ誰も本命にしなかった『BETTER MAN/ベター・マン』を一推しにしたが,それが的中した場合は「さすが,VFX映画時評!」と褒めて貰えると思ったのだろうと言われれば,その通りだ(笑)。大穴狙いでゴミ馬券になり,これで通算戦績は「10勝4敗,1不戦敗」であるから,大関にもなれない成績である(笑)。
 実は受賞作発表日の午後,再度この映画の試写を観た。細部を再点検して,改めてこの映画の斬新さ,主人公を猿で描いたVFX技術の使い方は凄いと感じ入った。作品全体の風格は『デューン…』が上だが,VFX技術はPART1の再利用に過ぎない。『BETTER MAN…』の革新性を見抜けないようでは,アカデミー会員も眼力のない素人同然の集団である。何をそこまで惚れ込んだかは,今月号の作品紹介でじっくり語ることにする。乞う,ご期待!である。

■ 予想印毎の結果
(a) ◎が受賞(7):助演女優賞,脚本賞,美術賞,衣装デザイン賞,メイキャップ&ヘアスタイリング賞,作曲賞,主題歌賞
 19部門中の14部門に◎予想を入れた。7部門的中の勝率5割は高いのか,低いのか,よく分からない。『サブスタンス』が断トツだった「メイキャップ…賞」以外は渾沌とした技術賞であったので,五択を結構的中させたと言えようか。

(b) ★が受賞(2):主演男優賞,助演男優賞
 穿った見方の本命の★は5部門につけ,3部門が的中である。評価急降下の『エミリア・ペレス』に見切りをつけ,『ANORA アノーラ』に乗り換えていれば「作品賞」も的中したことになるが,さすがにそこまで無節操に態度豹変はできなかった。

(c) ○が受賞(4):監督賞,主演女優賞,音響賞,長編アニメ賞
 保険的な意味合いの○は14部門につけた。保険のかけ過ぎと言える数だから,4部門で受賞は威張れる数ではない。遅れて○にした『ANORA アノーラ』を◎か★に引き上げていれば主要部門制覇になったのだが,それは狙わなかった。監督としての力量は『エミリア・ペレス』のジャック・オディアールの方が断然上であり,『ANORA アノーラ』のマイキー・マディソンも主演女優賞に値するほどの演技力ではないと考えている。ただし,主演女優賞部門で本命視されていたデミ・ムーアを無印にしたのは,自分でも正解だったと思う。

(d) ☆が受賞(2):作品賞,脚色賞
 6部門に☆印を入れ,2部門で受賞。作品賞は『エミリア・ペレス』の★を入れ換えたくなく,他に印がなかったので『ANORA アノーラ』を☆にしたに過ぎない。他は,受賞は無理だろうと思いながらつけた願望印であるから,全くこの印での受賞作がない年も多い。『教皇選挙』の脚色賞受賞は,その願望通りである。

(e) 無印が受賞(3+1):撮影賞,編集賞,国際長編映画賞,視覚効果賞
 既に書いたように『アイム・スティル・ヒア』は未見であるからら,これが受賞したのは仕方がない。本来なら,様々な映画祭で実績のある『エミリア・ペレス』か『Flow』が受賞してしかるべきだが,何かは獲るだろうと思った会員がこの映画に投票したのだろう。
 視覚効果賞の結果分析は上述の通りである。撮影賞,編集賞は抜けた作品がない年だった。特に編集賞は全く差をつけにくく,印をつけずに対象外にすべきだった。
 残念だったのは,8部門ノミネートながら『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』が無冠に終ったことである。最もお気に入りでありながら,冷静に考えると受賞確実と思える部門がなかった。どの部門でも2番手か3番手止まりだったのだろう。
 この予想の対象外であるが,長編ドキュメンタリー部門で,最近紹介したばかりの『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』(25年2月号)が受賞したことは少し嬉しかった。


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