O plus E VFX映画時評 2024年12月号

『モアナと伝説の海2』

(ウォルト・ディズニー映画)



オフィシャルサイト[日本語]
[12月6日より全国ロードショー公開中]

(C)2024 Disney


2024年11月21日 大手広告試写室(大阪)


『クリスマスはすぐそこに』

(ウォルト・ディズニー映画)




オフィシャルサイト[日本語]
[11月15日よりDisney+にて独占配信中]

(C)2024 Disney and its related entities


2024年11月30日 Disney+の映像配信を視聴

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


今回のCGアニメのカップリングは, 長短編の組み合わせ

 恒例のフルCGアニメの2本立て解説だが,今年は『FLY!/フライ!』&『ニモーナ』(24年3月号)以来の2度目である。かつては,ライバル関係にある2本が同時期に公開されることが多かったためだが,フルCGは表現の自由度が高いので,画調や動き表現,キャラのデザイン,背景のリアリティ等々を,見比べて論じることも目的としていた。
 今回の主役は,長い伝統を誇るWDA (Walt Disney Animation)の最新作『モアナと伝説の海2』で,そのカップリング相手を探した。ところが,今や堂々たるライバルの地位を確立したかイルミネーションや,ピクサーのライバルであったDWA (DreamWorks Animation)作品の国内公開がこの時期にない。相変わらず,後者の『カンフー・パンダ4』はDVDスルー扱いである。止むなく,Netflix配信の『エリアンと魔法の絆』『あの年のクリスマス』を候補とし,実際に観たのだが,見比べて論じるだけの特長がなかった。そこで,短編であるが,Disney+から配信中の『クリスマスはすぐそこに』を選んだ。ディズニー繋がりだからではなく,画調やテーマの掘り下げ,フルCGで描く意味を考えるのに,恰好の比較相手であったからである。


ヒット作の続編は, CG画質とミュージカルの強化

 WDAの63作目であり,題名通り7年半前のヒット作『モアナと伝説の海』(17年3月号)の正統な続編である。「またディズニーお得意の安直な続編か」と言う勿れ。実は,ヒット作の続編を効果的に配してきたのは傘下のピクサーであり,今年は『インサイド・ヘッド2』(24年8月号)が世界中で大ヒットした。本家WDAの場合は,続編は基本的にパッケージ販売であり,劇場公開作で「2」が付いたのは『アナと雪の女王2』(19年11・12月号)だけである。『シュガー・ラッシュ:オンライン』(18年Web専用#6)の場合は,ゲーム世界がオンライン仕様であることを強調した題名になっていた。。ただし,この2年間のWDA作品はもたつき気味であった。第61作『ストレンジ・ワールド/もうひとつの世界』(22年Web専用#7)は,地下世界のビジュアルは秀逸であったものの,ストーリーがお粗末で,興行的には惨敗だった。第62作『ウィッシュ』(23年12月号)はディズニー創立100周年記念作として大々的な宣伝を打っていたが,批評家の評価は低く,興行的にも成功したとは言えない。
 では,この2作の不評から,急に続編投入に踏み切ったのだろうか? 実情は不明だが,当初はDisney+配信のドラマシリーズ(複数話の順次配信)で進めていた企画を劇場公開作に再構成したとされている。一方,実写リメイク作品も同時進行していたが,本作の登場により,そちらは公開延期されることになったようだ。来年秋公開のWDA第64作は『ズートピア2(仮題)』と発表されているので,やはり続編重視路線に転じたのは間違いないようだ。
 この路線変更を,筆者はそう悪いこととは思わない。ディズニーアニメは家族連れで観るファミリー映画であることが定着していて,ディズニーブランドが最大のセールスポイントである。ところが,ツールの充実により,フルCGアニメがどの国でも比較的簡単に作れるようになったので,作品ラッシュ気味である。そんな状況下で,オリジナルタイトルの新作をディズニー作品と意識させるのは容易ではない。ヒット作の続編であることは,観客側の選択肢としても好都合なのである。問題は,それに見合うだけのクオリティであるか,観客満足度が高いかどうかである。幸い,CGモデルは再利用できるので,宣伝費を削減できるだけでなく,制作費を品質向上に充当し易いという御利益がある
 この視点からの当欄の本作の評価は,最高点のである。画質も音楽シーンのクオリティも確実に向上し,物語としても安定していて,完成度が高い。ところが,1週間以上前に公開された米国での批評家の評価はさほど高くなく,一部の辛辣なファンの声は「前作と代わり映えがしない。新味に乏しい」であった。一方,公開週の興行成績は上々で,WDA作品の過去最高額だという(インフレのせいもあるが)。2週目も好調のようで,観客満足度が高いことの証しとなっている。
 そこで,意気揚々と本作の記事執筆に入ろうとしたのだが,ハタと困った。本作で褒めようとしたことが,既に前作の稿で語ってしまっている。即ち,『ズートピア』(16年5月号)に続いての良作でWDAの伝統を生かしていること,南洋の島が舞台で所謂プリンセスものにはないユニークな設定であること,海のCG描写が美しく,画質も音楽も極めて高水準であること等々を書いていた。それを繰り返すだけでは記事にならないので,細部の改善点も含めて,本作の完成度の高さを語ることにする。

【前作のおさらい】
 まずは,前作のおさらいから入る。舞台は南太平洋のポリネシア諸島の中のモトゥヌイ島(これは,架空の島)で,主人公は村長トゥイの娘モアナである。ある時,島の近くから魚が消え,作物も獲れなくなった。周辺の島々は全て約1000年前に女神テ・フィティが生み出し,命を与えたものであった。その女神の心を盗んだ者がいて,その悪影響が出始めたと考えられた。祖母タラは,それを救えるのは「海に選ばれし者」だけであり,孫のモアナこそがそれであると告げて他界する。祖母の遺言は,半神マウイを探し出し,女神の心を取り戻すことであった。モアナは単身で禁断の地である珊瑚礁を向こうまで出かけ,獲えられていたマウイを救出し,2人で悪魔テ・カァと戦って女神テ・フィティの心を取り戻す……。
 ちなみに,「マウイ」はハワイ諸島の島の名前として知られているが,元はポリネシア神話の神の名前である。一方の「モアナ」は「広い海」の意であり,ハワイの王家や南オーストラリアやニュージーランドの地名にもなっている。この前作の着手前に,製作陣はフィジー,サモア,タヒチ,ハワイ等を訪問してポリネシアの歴史と文化を調査した上で,神話に基づく物語設定を行っている。それゆえ,西洋の王家のプリンスと結ばれる「プリンセスもの」とは一味違ったWDA作品となっていた。巨漢の半身マウイは,モアナに船の操縦法は教えてくれたが,全く恋の対象ではなかった。

【本作の概要】
 時代的には,前作から3年後となっている。そもそも前作の時代設定は現代ではなく,約2千年前の西暦1世紀であったようだ。考古学の研究から,ポリネシア諸島の民族は3千年以上前に東アジアから移り住んでいたが,外界との交流を約千年間も停止し,再開したのが今から約2千年前だったとされている。本作中でマウイが,「インターネットを使ったら簡単に情報が得られる。2千年後には実用化している」と軽口を叩くシーンがある。その意味では,モアナが他のプリンセスとクロスオーバーする作品は作れない。上記『シュガー・ラッシュ:オンライン』や昨年暮の短編『ワンス・アポン・ア・スタジオ ―100年の思い出―』(23年12月号)で「ディズニープリンセス」が勢揃いし,モアナの姿もあったが,これは余興的な使われ方であり,ストーリー上で共演していた訳ではない。
 さて,本作でのモアナは既に船を見事に操り,珊瑚礁の外にも自由に出かけていたが,他の民族との交流がないことを不思議に思っていた。島の式典でタウタイ(腕利の船乗り)の称号を与えられるが,突如空が曇り,落雷に打たれて意識を失う。その意識不明中に先祖の霊から語りかけられ,嵐の神ナロが沈めたモトゥフェトゥ島へ行って呪いを解き,他の部族と交流できるようにしなければ,モトゥヌイ島はいずれ滅びると告げられる。そこで,今回の島を救うための冒険は単身ではなく,「船大工の少女ロト」「料理番の老人ケレ」「伝説オタクのモニ」の3人を従え,モアナはその船旅のリーダーとなる(写真1)。お馴染みのペットの鶏のヘイヘイ,豚のプアのコンビもこの船に同乗する。予告編中で半神マウイの姿があったので,今回も彼とタッグを組んで目的達成することは容易に想像できた。


写真1 モアナと新登場の航海クルー3人(左:ケレ, 後:モニ, 右:ロト)

 彗星の導く方向に船を進めたが,早速,海賊カカモラに襲われる。彼らも姿を消したモトゥフェトゥ島の呪いを消して故郷の島に戻りたがっていることが判明する。そのため,戦士の1人コトゥがモアナ達のミッションに参加し,モトゥフェトゥ島の場所を探すことになる。行く手を阻む巨大な二枚貝(写真2)が現われたので,麻酔をかけてその中に侵入し,貝の中に捕えられていたマウイ(写真3)とナロの手下であったマタンギを救出する。


写真2 行く手を阻む巨大な二枚貝。左手前はカカモラの海賊船。

写真3 捕えられていたマウイが再登場。まさに千両役者。

 かくして,ここからは半神マウイが相棒として復活するが,ナロの雷に打たれて半神の力をなくしたり,モアナも再び意識不明になるが,結局はマウイが「神の釣り針」でモトゥフェトゥ島を海底から釣り上げる。この島から発する光に導かれた方向に他の民族が住む居場所があり,人々がモアナ達の島にやって来て大団円となる(写真4)


写真4 (上)マウイが引き揚げたモトゥフェトゥ島が他の島々の方向を指し示す
(下)他の島の住人たちを引き連れて, モアナ達がモトゥヌイ島に凱旋する

 なるほど,全体の物語は前作に酷似していて,新味に乏しいとも言える。ネット配信ドラマの予定だったので,その前半では「南の島のプリンセス」の立ち位置を反復しようとしたのかも知れない。ただし,映像的にも音楽的にも前作よりスケールアップしているので,安心してそのクオリティを堪能できた。特に目立ったのは,女性リーダーとしてのモアナの存在感である。その意味では最近の女性映画の潮流に乗った映画であり,かつての「ディズニープリンセス」の枠組みを拡げようとしていると感じられた。

【新旧の登場キャラクターたち】
 お馴染みのキャラクターの再登場を喜ぶのもシリーズものの楽しみであるから,継続登場と新規登場を列挙しておこう。
 まず主人公のモアナは,一見しただけで少し大人になったなと感じる。年齢は明かされていないが,前作では間違いなく素朴な少女であったのが,本作では背も少し高くなり,3歳年齢を重ねたと感じるルックスになっている。リーダーの責任感からか,やや険しい表情も多く見られた(写真5)。表情表現が少し豊かになり,肌や衣服の精細度が上がっているのは,IMAX上映を意識してのことかも知れない。声の出演は,前作と同様,英語版はハワイ先住民の血を引くアウリイ・クラヴァーリョ,日本語吹替版は沖縄出身の屋比久知奈であり,歌も彼女ら自身が歌っている。


写真5 リーダーらしく緊張した顔や困り果てた顔

 マウイは基本的には余り代わりがないが,モアナに合わせて顔面の質感が向上し,皺も深くなったと感じた(写真6)。マウイだけでなく,モアナも他も幾何モデルを少し複雑になり,髪の毛の本数を増やしたり,表情変化させやすいように顔面筋肉の制御方法を改善しているのかと思われる。声の演技には,それぞれドウェイン・ジョンソンと尾上松也が継続出演だが,前作時に述べたように,声の重量感からして英語版の方が圧倒的に優れている。D・ジョンソンは完全にノリノリであり,他のどの出演作よりもこの役が似合っている。実写版リメイクでも彼自身が演じるというのは,当然だと思える。ただし,ザ・ロック様の巨体をもってしても,モアナとの身長差はCG版ほどつけられないので,VFX加工でさらに巨大に見せるのだと想像する。今から楽しみだ。


写真6 マウイも表情も豊かになり, 質感も増した

 モアナの家族は父母とも変わりはなく,前作で死亡した祖母タラは他の先祖に混じって,亡霊として再登場する(写真7)。豚と鶏のコンビ(写真8)は元より,海賊カカモラ(写真9)も再登場させているのが嬉しい。カカモラは一体ずつ少し異なる可愛いキャラなので,グッズ市場で人気することだろう。


写真7 祖母タラや先祖たちの亡霊が, モアナに語りかけてきた

写真8 豚のプアと鶏のヘイヘイが再出演

写真9 ココナッツの海賊カカモラたちも多数再出演

 新登場では,航海クルーの3人は上記の通りだ。家族では,新登場の妹シメアが頗る可愛い(写真10)。海が割れ,指のように曲がった波が彼女に触れるシーンは,前作の幼児期のモアナのシーンを踏襲している(写真11)。ということは,妹シメアも「海に選ばれし者」だということになる。


写真10 小さな妹のシアラが新登場。ということは, まだ3歳以下。

写真11 海が割れ, 波に触れるのは, 前作のモアナと同じ

 本作の敵の「嵐の神」のナロは,本編では姿は見せず,嵐を引き起こすだけの存在だ。ナロの手下のマタンギはコウモリを操る魔女である(写真12)。てっきり悪役かと思ったのだが,貝に閉じ込めたナロを恨んでか,むしろモアナ達に協力し,モトゥフェトゥ島を探す方法を示唆してくれる。当初は複数回配信のドラマシリーズの予定であったので,航海クルーやマタンギの出番はもっと多かったのだが,劇場版に再構成した際に出番が減ったのかと思われる。ミッドクレジットでは,ナロの復讐が示唆されていたので,それは『モアナと伝説の海3』として描かれるのかも知れない。


写真12 これがコウモリ使いの怪女マタンギ

【その他の見どころと総合評価】
 何しろ海が綺麗だった。これまでにそう感じた他作品は,フルCGでは『ファインディング・ドリー』(16年7月号),実写+CGでは『リトル・マーメイド』(23年6月号)と『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22年Web専用#7)である。前2者は海の中が複雑かつ美しかったのに対して,本作は海上から見た海の表面やカメラを引いた視点での景観が美しい。『アバター2』はその両方が見事だった。『アバター2』の海の景観は基本的に本物の海の光景のはずだが,CG/VFX加工している可能性もある。CG描写の本作と比較するのは変なのだが,両方とも美しいことに変わりはない。前作で既に海の描写は秀逸だったが,その後の8年間でさらに表現力が増したのだろう。海面だけでなく,大滝の描画も上出来だった(写真13)。空も海も美しいのだが,その境界部の表現力が格段に増していると感じた(写真14)


写真13 海と空の境界が美しく, うっとりするシーン

写真14 大滝もその手前の水中も, 惚れ惚れする出来映え

 ■ 前作でモアナがマウイから船の操縦の手ほどきを受けていたのは,ポリネシア地方で伝統的に使われて来たアウトリガー式カヌー(安定性を増すため主船体の側部に細長い小船体を付した船)に帆をつけた木造帆船であった。タウタイの称号を得ただけあって,本作のモアナはこの船を見事に乗りこなしていて,猛スピード疾走する躍動感もそれに伴う海の表現も秀逸であった(写真15)。一方,モトゥフェトゥ島を探しに4人組+2匹が乗る船は双銅式のやや大きな帆船である。海賊カカモラとの戦いの中で,大きな櫓を使ったモアナの操船ぶりも見事だった(写真16)。終盤,この船はナロが引き起こした嵐の中に巻き込まれ,クライマックスの海上戦となる(写真17)。この嵐の迫力も水準以上であった。


写真15 躍動感溢れるモアナの操船と見事な海の描写

写真16 海賊カカモラとの戦いでも, 見事な操船ぶり

写真17 終盤は「嵐の神」ナロが引き起こした竜巻と大嵐に苦戦する

 ■ 海の生物や怪物も色々登場する。小生物では浜辺のヤドカリが可愛く,これも絶品と言える(写真18)。大きい方では,夜の海に出没するジンベエザメが圧巻だった(写真19)。怪物では,前述の巨大二枚貝はアップで見ると醜悪そのものだが,ユニークで良いデザインだ。その他にも滑稽な海の怪物が登場する(写真20)。いずれも特に物語には影響しないのだが,遊び心も含め,高い美意識でこの種のCGオブジェクトを描いているのは,さすが老舗WDAの底力だと感じる。


写真18 浜辺のヤドカリが可愛い。これは絶品。

写真19 夜の海のジンベエザメも圧巻

写真20 (上)アップで見るとかなり醜悪な二枚貝
(中)&(下)その他, 剽軽な海の怪物も登場する

 ■ 別途,特筆すべきことがある。前作でも挿入歌は充実していて,サントラ盤ガイドのページでも紹介した。本作の音楽も同等かそれ以上と思える出来映えだが,それを歌うシーンが全くのミュージカル風となっている。即ち,歌詞内容が物語展開に大いに関わりがあり,セリフで伝えてもおかしくない事柄を登場人物が歌で心情を表現したり,相手に伝えようとしている。(フルコーラスではないが)内4曲の挿入歌の本編映像が予告編扱いで公開されている。「帰ってきた,本当のわたしに (We're Back)」「ビヨンド ~越えてゆこう~ (Beyond)」「迷え!(Get Lost)」「できるさ!チーフー!(Can I Get A Chee Hoo?)」の4編である。中でも出色なのが,マタンギがモアナに向かって歌う「迷え!(Get Lost)」だ。曲も歌唱も良い出来だが,この部分の映像が素晴らしい。テンポの良いミュージックビデオそのものであり,かつモアナに対して示唆に富んだ助言を与える歌詞であり,カラフルな映像が本作のCG映像のレベルの高さを象徴している(写真21)


写真21 マタンギが歌うミュージカルシーンの一部
(C)2024 Disney. All Rights Reserved.

 ■ 以上のように,本作のCG映像の見どころを列挙したが,総合的には文句なしに最高水準のフルCG映画の1つである。物語的には前作からの大きな飛躍はないが,ファミリー映画として堪能できる内容となっている。ただし,本作のCG担当は,ディズニー発祥の地であるLA郊外のバーバンクにあるWDAの部隊ではなく,カナダのバンクーバーにある支社とのことである。前作でデザインしたCGモデルは当然引き渡されているだろうし,ソフトウェアツールも共通化しているであろうから,技術的には問題はない。気になるのは,ミッドクレジットで流れる映像であった。詳しくは書けないが,ここで初めてナロが姿が出現し,マタンギを責める。普通に考えれば,『モアナ3』への伏線であり,更なる続編でナロが猛威を振るうことを示唆している。となると,この3作目はいつ公開されるのであろうか? 延期した実写版『モアナ』との前後関係が気になるところだ。


心温まる小粋な短編, これぞクリスマス

 もう1本の『クリスマスはすぐそこに』は短編と書いたが,WDAやピクサーが劇場用長編映画の前に同時上映する前座の短編映画ではない。それらは通常6〜8分程度,短いと3〜4分程度の小編である。一方,本作の上映時間は24分,エンドクレジットを除いた本体だけで21.5分もある。中編と呼ぶには短いが,民放のTV番組なら,CMを含めて30分番組にできる長さであり,起承転結のある物語を描けるだけの時間である。
 Disney+配信であるが,WDA作品ではなく,Disney Television Animationが製作会社となっている。この映画が生まれた経緯は知らないが,製作陣の陣容がすごい。原案・製作は『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)『ROMA/ローマ』(19年Web専用#1)で2度オスカー監督となった名匠アルフォンソ・キュアロンだ。監督・共同脚本・製作が『グリーン・ナイト』(22年11・12月号)『ピーター・パン&ウェンディ』(23年4月号)のジャック・ローリー監督で,さらに『ワンダー 君は太陽』(18年5・6月号)『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』(22年9・10月号)の脚本家ジャック・ソーンが共同脚本という一線級の豪華メンバーなのである。

【物語の概要】
 時代は2020年,主人公はニューヨーク市郊外の森で父と弟と暮す子供フクロウのリトル・ムーンである。父フクロウが新しい巣を作っている間に,ムーンは鷹に襲われて左の翼を骨折してしまう。父親から木の穴で隠れているように指示されたが,その木が伐採され,トラックでマンハッタンまで運ばれてしまった。ムーンが目を覚ますと,この木が毎年ロックフェラー・プラザを飾るクリスマスツリーに使われてしまっていた(写真22)
 ムーンは急いで飛び出したが,うまく飛べず,屋外アイススケートリンクに落ちてしまい,除けようとした少女が転倒する(写真23)。その後,通りを歩いていると,意地悪な鳩が3羽やって来て(写真24),このプラザは自分たちの縄張りだから出入りするなと追われてしまった。多数のクルマが行き交う大都会に戸惑うムーンは,地下鉄構内に迷い込み,飛び込んだ車両内で先ほど出会った少女と再会する(写真25)


写真22 ムーンが隠れていた木が, NY名物のクリスマスツリーになっていた。
冬は寒く, 眼下は屋外アイススケートリンクに。

写真23 ムーンを除け損ねた少女が転んでしまう(他の人間は薄板に描かれた絵のよう)

写真24 ここは俺たちの縄張りだと威張る鳩たち

写真25 地下鉄の中で少女と再会する

 少女の名前はルナ,優しい少女で空腹のムーンのために食べ物を買って来てくれた。ルナの左の下肢は義足で(写真26),上手くスケートが滑れずに転倒したのだった。彼女も迷子であり,身体が不自由な者同士で心を通わせる(「ムーン」も「ルナ」も,「月」の別言語表現である)。Xmasで賑わう街を一緒に歩いて,ムーンは癒される(写真27)。やがて,家に帰りたいと悲しむムーンに対して,鳩たちは飛び方を教えてくれ,親切な人々が森の入口まで運んでくれた。ルナに見送られ,右の翼だけで飛び上がったムーンは,父と弟が待つ新しい巣に帰り着いた。


写真26 少女ルナの左の下肢は義足だった

写真27 雪のマンハッタンを一緒に歩く

 Xmasとは,一筋の光が心を温め,人々が優しい気持ちで触れ合い,助け合うものと教えてくれる素晴らしい童話であった。ラストシーンは,暖かな家で家族と過ごすことが一番の幸せであることも暗示していた。さすがTomatometer 100%だけのことはある出来映えだった。同じテーマで2時間弱の長編にしていたら,多数の登場人物や動物を入れざるを得ず,派手で冗長なアクションシーンも盛り込んでいたことだろう。少年少女が読む薄い絵本レベルに留めたゆえに,この短編映画は成功している。

【人形劇の質感を描き出したCG映像】
 前半の『モアナと伝説の海2』は,劇場用フルCG長編アニメとしては極めて完成度の高い作品で,過去約30年の技術革新と試行錯誤の結果が集約されていた。山や森や海のような背景は,実写と区別できない写実性で描くことはできるが,その一歩手前で留め,CG映像と分かる範囲内美しく描いている。一方,人物や動物はかなりデフォルメし,絵本や漫画のような顔立ちや体形で描くのが最近の主流となっている。「怪盗グルー」「ボス・ベイビー」はいかにも漫画的であり,「マウイ」の巨漢もそれと同様だ。
 それに対して,この『クリスマスはすぐそこに』の画調は。明らかに現在の主流とはかなり異なる。以下,その要点をCG/VFXの観点から整理した。
 ■ この映画の冒頭,中盤,そしてラストシーンで,ギターを弾き語りする初老の男性(浮浪者?)が登場する(写真28)。英語では「The Folk Singer」と書かれていた。個性派助演男優のジョン・C・ライリーが演じていて,彼の声で4曲歌っている。そう言えば,オスカー受賞のミュージカル『シカゴ』(03年4月号)の中で,彼も歌っていて,助演男優賞にノミネートされていた。この人物の顔も体形も漫画的ではなく,実物の人間に近い。最近のフルCGアニメでは珍しい描き方だ。かつて,『ベオウルフ/呪われし勇者』(07年12月号)『Disney's クリスマス・キャロル』(09年12月号)では,極めて写実的に登場人物を描いていたが,それに近い描画である。


写真28 ジョン・C・ライリー演じるFolk Singerがギターの弾き語りで歌う

 ■ それに対して,少女ルナの顔はかなりデフォルメされていて,目はかなり大きく,口はぐっと小さい(写真29)。その一方で,彼女のマフラーやセーターはかなりリアルだ。鳩とムーンでは,フクロウのムーンの方が漫画的に描いている。即ち,主人公に近いほど,リアルでなく,デフォルメ度を高めている。ただし,衣服や動物の体毛は質感が高い。これらはすべて,人形劇で使う手作りの人形だと解釈すれば納得が行く。この他に犬も登場するが,これなどは本当に人形ではないかと思ってしまう(写真30)。いずれも,実物の人形を作成した上で,CGモデリングしたのではと思われる。


写真29 ルナの目は大きく, 口は極端に小さく描かれている

写真30 犬の人形のように見えるが, これもCG製

 ■ 単なる人形劇ではなく,コマ撮り(Stop Motion)アニメーションを模倣していると思われる。ムーンもルナも歩き方がぎこちない(写真31)。それぞれ身体的障害があることを言い訳にできるが,まさにコマ撮りアニメ風の動きなのである。実際に人形をコマ撮りしたり,アニマトロニクスでも動きは与えられるが,むしろコストがかかる。本作では,コマ撮りの動きをCGで模倣しただけでなく,建物,クルマ,電車も実物模型っぽく見せている。写真32の遠景はCGらしく見えるが,手前のビルや写真22のビルや木もミニチュア模型に見える。もっと極端なのは,写真22のロックフェラー・ツリー前の人物や写真23のルナ以外の人物は,厚紙で作って立て掛けた人物絵のように見せていることだ。コマ撮りアニメでよく使う技法だが,本作では全てCG製である。本物のコマ撮りアニメの中では,複雑で激しい動きはCG,背景にはデジタルマット画を使うことが常態化されつつあるが,本作は全くその逆で,アナログ時代の技法をCGで模倣している。物語を絵本並みの短編にしたのと同様,映像的には人形劇のほのぼの感を出したことで本作は成功している。本作のCG/VFX全般はMaere Studiosが統括し,その内のアニメーション部分は88 Picturesが担当した。


写真31 ムーンの歩様は, まるでコマ撮りアニメ

写真32 手前のビル群はミニチュア模型のように描いている
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