O plus E VFX映画時評 2024年2月号

『ブルービートル』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[2023年11月29日よりデジタルセル配信中]

DC LOGO, BLUE BEETLE and all related characters and elements (C) & TM DC. Blue Beetle (C) 2023 Warner Bros. Entertainment Inc.


2024年1月28日&2月6日 DVDを視聴

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


日本では冷遇されたが, 娯楽作としては十分楽しめる

 紙媒体時代から,例年2月のメイン欄は該当作品の閑散期であった。VFXを多用したメジャー系の大作映画は正月興行用に年末に公開され,有力フルCGアニメは春休み公開用に待機させられてしまうからである。数年前から,GG賞やアカデミー賞にノミネートされて初めて知ったCG/VFX多用作を取り上げるようにした。劇場用映画は公開期間が限られるが,ネット上での既配信映画は,気付いてからでもゆっくり観られるからである。『クロース』(20年Web専用#1)『スワン・ソング』(22年Web専用#2)『ミッチェル家とマシンの反乱』(同)『ジェイコブと海の怪物』(23年2月号)がそれに当たる。残念ながら,いずれも受賞はしなかったが,予想記事執筆には役立ったし,ノミネートに値する力作であったので,内容的には十分楽しめた。
 今年は少し方針を変更し,賞獲りレースとは無縁だが,当初から劇場公開を前提として製作されたVFX多用作を取り上げる。それも堂々たるメジャー系のアメコミ映画である。先月の『アクアマン/失われた王国』(24年1月号)は,DCEUの第15作目で最終作であることを強調して紹介したが,本作『ブルービートル』はその1つ前の第14作目なのである。海外では70数カ国で劇場公開され,北米のBox Officeでは公開週第1位で,それなりの興行成績を収めたのに,日本だけが劇場公開しない「ビデオスルー」扱いになってしまった。何たることだ! ワーナー日本支社としては,上記『アクアマン/…』の前に,『MEG ザ・モンスターズ2』(23年8月号)『死霊館のシスター 呪いの秘密』(同10月号)『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』(同12月号)と話題作が目白押しであったので,知名度の低いヒーローの本作は隅に追いやってしまったのだろう。何やら,大作『デューン 砂の惑星 PART2』(3月号掲載予定)の前に,広告宣伝費をかけずに,滞貨を一掃してしまおうという感じに思えてしまう。
 義憤を感じる当欄としては,他のDCEUやMCU作品と同じ扱いのメイン欄記事にしようと心に決めた。ビデオスルーが決まり,11月29日からデジタル販売/配信が開始され,Amazon PrimeやU-NEXTで視聴できるようになった。12月20日にはDVD販売が始まった。いつでも入手することはできたが,当欄も11月号〜1月号はメイン記事ラッシュであったので,ゆっくり時間を割けるこの閑散期の2月号まで取っておいたという訳である。

【ブルービートルとは?】
 DCEUシリーズの正規の作品であるから,当然主人公はDCコミックスのスーパーヒーローの1人であり,その単独の主演作である。「スーパーマン」や「バットマン」ほどの知名度はないが,「ワンダーウーマン」「アクアマン」「フラッシュ」と同じように単独主演作で売り出すつもりだったのだろう。文字通り,「青い甲虫」の化身として超能力をもった男性のスーパーヒーローである(写真1)


写真1 コミック版のブルービートルは,こんな感じ

 調べてみると,このアメコミ・ヒーローの歴史は古く,初登場は1939年で,Fox Comicsに始まり,他の2社を経て,DCコミックスが版権を得たのは1983年とのことだ。ヒーロー状態でない普通人の名前は,スーパーマン=クラーク・ケント.バットマン=ブルース・ウェインだが,ブルービートルは,代替わりしていて,初代が「ダン・ギャレット」,2代目が「テッド・コード」,3代目が「ハイメ・レイエス」である。3代目になってからでも,何度か設定変更があり,実写映画化された本作はその最新シリーズを基にしているようだ。本作中では,初代,2代目の名前も登場し,しっかり3代目のハイメとの繋がりまでも描かれている。

【登場人物とキャスティング】
 主演は勿論ブルービートル=ハイメ・レイエスを演じる男優だが,ラテン系のショロ・マリデュエニャが抜擢された。柳楽優弥に似た濃い顔立ちだ(写真2)。米国LA生まれだが,先祖はメキシコ,キューバ,エクアドル出身だという。スーパーヒーローでラテン系は初めてとのことだ。コミック版ではティーンエイジャーという位置づけだが,本作では大学を出たばかりという設定なので,年齢は少しだけ上である。この男優の実年齢は22歳なのでピッタリだ。ヒロインは,2代目ブルービートルのテッド・コードの娘のジェニーで,ブラジルの女優&ファッションモデルのブルーナ・マルケジーニが配された。実年齢は28歳だが,かなりの美形である(写真3)。ハリウッド・メジャー作品での起用は初めてだが,本作の出演で一気にお声がかかることだろう。


写真2 主人公のハイメは,ラテン系の男子

写真3 ヒロインのジェニーはなかなかの美形。手にしているのが鍵を握るスカラベ。

 ハイメの家族のレイエス家は,彼の他に両親,祖母,妹,叔父の構成だが,全員ラテン系の俳優が起用され,劇中でもしばしばスペイン語を話す。徹底してラテン系で固めている訳である。本作では,家族ぐるみで敵と戦うので,最後まで全員参加の重要な役柄である。名前を知っている俳優はいなかった。過去の出演作品を見ても大作はないので,この点では『アクアマン/…』よりも低予算で済まそうとしたのだろう。
 敵役は,テッドの妹,ジェニーの叔母でコード社社長のビクトリア・コード(スーザン・サランドン)と彼女のボディガードのイグナシオ・カラパックス(ラオール・マックス・トルヒーヨ)で,後者はサイボーグ兵器としてブルービートルと闘う。唯一,名前を知っていたS・サランドンは,図らずも今月の短評欄で取り上げた『テルマ&ルイーズ 4K』のルイーズ役ブレイクした大女優である。アカデミー賞主演女優賞ノミネート5回で,『デッドマン・ウォーキング』(95)でオスカーを得ている。現在77歳だが,とてもそうは見えない若々しさだ。ハイメの祖母ナナ役のアドリアナ・バラッザは10歳年下だが,全く逆に見える。晩年にスーパーヒーロー映画の悪役を演じても,存在感抜群で,さすがオスカー女優と感じさせる貫録だった。
 監督はアンヘル・マヌエル・ソトで,プエルトリコ人の中堅監督だ。先にメキシコ人のギャレス・ダネット=アルコセルの脚本が出来上がっていて,後から監督が選ばれたようだ。ここでもラテン系で固められている。音楽もラテン系サウンドで,劇中で流れる懐メロの“Be My Baby”や“Chitty Chitty Bang Bang”もスペイン語で歌われていた。

【物語の流れ】
 冒頭は,寒冷地の採掘現場をコード社社長のビクトリアが訪れるシーンで始まった。15年かけて探り当てたという大きな球体を地下から掘り出したらしい(写真4)。この球体を割こうとすると,タイトルシーンに変わり,青い甲虫状の物体が宇宙を高速移動する様が描かれている。宇宙からの到来物で,これが物語の鍵を握ることが想像できる。
 一転して,飛行機でハイメ青年が故郷のパルメラシティに凱旋し,家族に迎えられるシーンから実質的な物語が始まる(写真5)。「ゴッサム法科大学」を卒業しての帰京で,一族で初めての大卒者とのことだ(ゴッサムシティはバットマンが住む町)。ただし,彼らの住むエッジ・キーズ地区は低所得者層の住宅地で,コード社の再開発に伴う地上げで,家を追い出されそうとしていた。「パルメラシティ」は架空の町で,初見時には,てっきりメキシコかカリブ諸島の海沿いの都市だと思って観ていたのだが,少し違っていたようだ。レイエス家はメキシコから国境を越えてやって来たというセリフがあるので,テキサス州東南部の海に面した町という設定のようだ。


写真4 向こうに見える球体を,ようやく見つけて掘り出した

写真5 一族で初めて大学を卒業し,故郷の町パルメラへ凱旋

 職を求めてハイメがコード社を訪れたところ,警備員に追われて窮したジェニーから,ハンバーガーの箱を手渡されてしまう。自宅に戻って,箱を開けると青い虫の形をした物体が入っていた(写真6)。これがハイメの背中に貼り付くと,ハイメはヒーロースーツ姿となり,屋根を突き抜けて空を飛び,宇宙にまで達してしまう。ようやく地上に戻ってくると,市中のバスを壊してしまう。毎度のことだが,新ヒーローの初登場シーンはかなり楽しい。


写真6 古代のエイリアンが開発したAI搭載の青い甲虫

 この物体は「スカラベ」なるAI機器で,古代に到来したエイリアンが高度な技術で開発した人工物なのだが,知的生命体のように思えてしまう。寄生した人物に脳波を通して言葉を語りかけ,身体的には超能力を発揮させる代物であることが徐々に分かってくる。軍需産業のコード社は,OMAC(One Man Army Corps)なるハイテク兵士を開発していたが,その戦闘力を完全なものにするため,スカラベのコードを移植させようと狙っていたのだった。
 ハイメが「ブルービートル」に変身した時のスーツは,いかにもヒーロースーツだが,背中から6本の手足(特に,長い2本の触手)が出ているのが特徴だ(写真7)。この種のスーツ姿は俳優の姿にCGで重ね描きしていることが多いが,写真8のようなメイキング画像があるところを見ると,主演男優はこのスーツを実際に身に着けて演技していたようだ。スカラベが起動して共生状態にあるハイメの目には,写真9ような光景が見える。これはアイアンマン・スーツの機能を思い出す。即ち,「ブルービートル」は寄生されて超能力を発揮するという点では「スパイダーマン」的であり,スーツの力で空を飛んだり,戦闘能力を高めている点では「アイアンマン」に近い。


写真7 濃紺に白のスーツの凛々しいデザイン。背中の長い触手が目立つ。

写真8 撮影風景。スーツを着て演技しているが,背中の触手はCGで描き加えているようだ。

写真9 スカラベから伝達されハイメにはこんな光景が見える

 一方,ビクトリアの命令に従うカラパックスは,重傷を負った際にビクトリアに機械部品を埋め込まれてサーボーグ化されてしまった戦士で,OMACの試作品という扱いである(写真10)。この試作品を完成させるため,ハイメはビクトリアたちに誘拐され,キューバ近くのパゴ島にあるコード社の要塞に幽閉されてしまう。レイエス家の面々とジェニーが彼を救出に向かうのが,終盤のクライマックスだ。普通なら,主人公が美女や家族の救出するのが定番だが,その逆であるのが本作の楽しさだ。祖母・母・妹のトリオで,それぞれが個性溢れる姿で活躍するが,とりわけ,若い頃に革命の戦士として帝国主義者を倒したという婆ちゃんが,大型機関銃を乱射するシーンは抱腹絶倒ものだった(写真11)


写真10 (上)カラパックスは背骨には機械部品は埋め込まれたサイボーグ
(下)スイッチを押すとハイテク兵士のOMACに変身する

写真11 ナナ婆ちゃんは喜々として銃火器を操る

 ■ 最大の見どころは,スーパーヒーローとしてデビュー・シーケンスで,VFX的にも洗練されていた。まず,手の上のスカラベ(これは総称であり,固有名詞はカージ・ダ-)が発光し,背中に取り憑いて,ハイメを制御し,宇宙にまで運んでしまう(写真12)。ようやく地上に戻ると,走行中のバスをよけ切れず,中を真直ぐに進んでしまい,縦方向に真っ二つにしてしまう(写真13)。すべてCG/VFXの産物に思えてしまうが,実際に2つに割ったバスの実物が用意してあった(写真14)。こういうメイキング映像を観るだけでも楽しい。

   

写真8 (上)完成映像1(カメリア発見), (中上)CGと実写の位置合わせ用
(中下)完成映像2(細長い触手を引き抜く瞬間), (下)完成映像3(排除に成功)

写真13 走行するバスの前に出てしまい,車体を2つに切り裂いてしまった

写真14 実際には, こんな車体を用意して撮影

 ■ ブルービートル・スーツの手の部分は,ハイメがイメージした通りの武器に変わり,銃にも,刀にも,シールド楯にもなる(写真15)。これはスカラベ自体の機能だが,2代目ブルービートルのテッド・コード(ジェニーの父)は,散々研究したがスカラベを起動させることはできず,自ら開発したスーツや武器でスーパーヒーローとして戦っていたという。変人で大富豪の天才というから,バットマンのブルース・ウェインのような存在である。彼が実験室に残していた発明品も数々登場する。「テッドウオッチ」は,時計型情報端末だが,勿論市販品よりは遥かに高性能だ。妹ミラグロが手にしたパワーグローブは,モードボタンで様々な武器や防具に変形する(写真16)。一同が乗り込んで叔父のルディが操縦した虫型の移動車「Bugship」もその類いだ(写真17)。空を飛べる上,崖も登るので空陸両用である。目玉はトンボ,身体は甲虫のようだが,敵に向けて尾部から凄まじい異臭を出すので,「カメ虫」なのかも知れない。このBugship中に,ハイメの居場所を突き止めるのに使われた位置検索装置も備わっていた。単なる平面型の大型タブレットでなく,ドーム形状になっているので触れやすく,斬新に感じる(写真18)

   

写真15 両手は光線獣や剣になり,手を合わせると背中から銃弾バリアが出る

写真16 テッド製のグローブもボタンを押すとシールドに

写真17 (上)虫型飛行艇のBugship, (中)間一髪爆発から逃げ出す, (下)Bugshipの操縦席

写真18 ドーム型のIT機器を操作して,ハイメの居所を検索・表示する

 ■ 科学実験室は,パルメラシティのコード本社内,前社長テッドの古く大きな邸宅内の地下,パゴ島の要塞の3箇所もあり,それぞれ美術セットとしてしっかり作られていた。一番の見どころはテッド博士のラボだ。失踪後15年も経つので,斬新すぎず,レトロな感じにデザインされていた(写真19)。かつてのブルービートル・スーツは見事なほどにダサい。パメラシティの都市景観もしっかりCG/VFXで描かれていた。既存の都市の光景に水を描き加えたか,あるいは水辺の町の画像に貧民層の住む島を描き加えたのだろう(写真20)。夜景も富裕層と貧民層の地区を描き分けている(写真21)。本作のCG/VFXの主担当はDigital Domain 3.0で,他にはRodeo VFX, Rise Visual Effects Studios, Day For NITE等が参加していた。


写真19 (上)古い屋敷の地下にあったテッドのラボ
(下)ブルービートルの古いスーツがあまりにもダサい

写真20 富裕層の高層ビル群と貧民層の低層住宅

写真21 夜景もしっかりVFX加工して作られている
DC LOGO, BLUE BEETLE and all related characters and elements (C) & TM DC. Blue Beetle
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