O plus E VFX映画時評 2023年8月号

『MEG ザ・モンスターズ2』

(ワーナー・ブラザース映画)




オフィシャルサイト[日本語][英語]
[8月25日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]

(C)2023 Warner Bros. Ent.


2023年8月9日 大手広告試写室(大阪)

(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)


スケールアップした続編は, VFX的には文句なく超A級

 サメ映画史上最も巨大な(体長23m)の「メガロドン」(以下,Meg)の恐怖を描いた『MEG ザ・モンスター』(18年Web専用#4)の続編である。当初,短評欄の『シャーク・ド・フランス』とまとめて語ろうかと思ったのだが,サメの大きさもCGのクオリティも比較にならないと思われたので,本作だけをメイン欄扱いすることにした。まだその時点では本作を観ていなかったのだが,結果的にCG/VFXは前作を上回る出来映えだった。続編らしく,あらゆる面で豪華に見せようという方針のようで,ビジュアル面では大満足だ。その反面,ストーリー的には盛り沢山だが緊迫感がなく,お粗末と言わざるを得ない。当欄として評価に困ったのだが,素直な感想を述べることにする。

【前作との関係とキャスティング】
 本シリーズの原作は,米国のSF作家スティーヴ・オルテンが1997年から発表しているMegシリーズで,既に7作までが出版されている。この続編は,シリーズ2作目「The Trench」(海溝の意)を基にしていて,本作の原題『Meg 2: The Trench』はそれを踏襲している。実質的には,あまり原作に忠実ではなく,スペクタクル映画に都合の良いよう,かなり改編されている。監督は,ジョン・タートルトーブからベン・ウィートリーに交替している。英国人監督だが,当欄で彼の作品を扱うので初めてで,知名度は前任者ほどではない。ジョン・ホーバーを中心とした脚本家チームは続投なので,物語としては繋がっている。
 前作から5年後の設定で,看板である主演のジェイソン・ステイサムは,引き続き潜水レスキューのプロ,ジョナス・テイラーを演じている。前作と同様,マナ・ワン海洋研究所が深海調査の基点となるが,チームのメンバーだったマック(クリフ・カーティス)とDJ(ペイジ・ケネディ)が本作でも登場し,今回もMEGと戦う。もう1人,前回のヒロインのスーイン(リー・ビンビン)の娘メイイン(ソフィア・ツァイ)も引き続き登場する。前作からの間に,スーインは死亡してしまい,マナ・ワンを引き継いだ叔父のジウミン(ウー・ジン)に育てられているという設定である。
 本シリーズは,ハリウッド映画であるが,かなり中国資本が入っていて,米中合作の扱いである。このため,前作では人気女優のリー・ビンビンを起用し,本作ではトップ男優のウー・ジンをその弟役で登場させ,中国市場も念頭においているようだ。実際,前作の興行収入は米国よりも中国の方が多い。その他の助演陣では,悪役で違法採掘を行うモンテスにセルヒオ・ペリス=メンチェータ,マナ・ワンのスポンサーのヒラリー・ドリスコルにシエンナ・ギロリーが配されているが,あまり著名な俳優はいない。真の敵は,MEGやその他の深海生物である。

【物語の概要】
 オープニングシーケンスは,6500万年前の白亜紀末期から始まる。トンボを食べたトカゲのような爬虫類を小型肉食恐竜が捕食し,それをお馴染みのT-レックスが襲う。そこで食物連鎖は終わりかと思ったところに,海からMEGが登場してT-レックスを丸呑みにし,最強であることを誇示する(写真1)。続いて,大型コンテナ船上の1つのコンテナの壁を破ってジョナスが登場し,海に放射性廃棄物を不法投棄する集団相手に大立ち回りを演じる。こちらは,J・ステイサムがアクションスターであることをアピールする冒頭シーケンスだ。


写真1 最強と思われたT-RexをMEGが海から襲う

 本格的な物語の始まりは,マナ・ワンの10周年記念パーティだ。起業家で富豪のジウミンが,父ミンウェイ・ジャン博士の遺志を継いで深海調査を続けること,姉スーインの海洋研究所も自らの企業が運営することを宣言する。海南省の海沿いに新たに建設した彼の「中国海南海洋研究所」をたっぷりと見せてくれた後,ジョナスとジウミンらは,上海沖にある「マナ・ワン海洋研究所」へと移り,そこからマリワナ海溝でも未踏の深海への潜水が始まる。7600mの深海で多数の巨大MEGの群れと遭遇しただけでなく,レアメタルを海底から違法採掘している犯罪集団を見つける。彼らに潜水艇を爆破されたため,ジョナスらは海底を3km歩き,マナ・ワンの海底ステーションへと辿りつき,九死に一生を得る。ここまでが前半だ。
 ようやく海底の敵を倒して,海上へと浮上したものの,犯罪集団と内通した裏切り者によってマナ・ワンの海上施設は占拠されていた。彼らはボートでリゾート地の「ファン・アイランド」へと向かう。後半はこの島が舞台で,犯罪集団を倒すだけでなく,深海から追ってきた3匹のMEG,多数の深海捕食生物とも戦う。陸上,海上の両方で延々とアクション満載のサバイバル・バトルが続く……。
 前半で,海底を歩いてステーションに辿り着く展開は,無重力の宇宙空間内を移動して国際宇宙ステーションに至る『ゼロ・グラビティ』(13年12月号)を彷彿とさせた。一方,リゾート地がMEGに襲われてパニックになる様は,まるで『ジュラシック・ワールド』シリーズの巨大サメ版である。その意味では,単なるサメ映画でなく,大作パニック映画の基本形式を踏襲している。

【施設や装備の美術デザイン】
 ■ まず,ジウミンの新しい海洋研究所は,設備もデザインも素晴らしい。ロンドンの「アクアティクス・センター」(ロンドン五輪の水泳競技場)を参考にしたというが,遥かに洗練されている上に,内部の研究設備も斬新だ。子供のMEGをハイチと名付けて飼っていて,まるでシーワールドである。いくら中国人の富豪とはいえ,ここまで投資できるのかと呆れるほどだ。
 ■ 前作の舞台であった「マナ・ワン海洋研究所」は,前作ほど登場しない。海上部分の外観はほぼ同じだが,内部の設備は刷新されていた。深海の海底ステーションの設備もきちんとデザインされていて,美術班の力の入れようが分かる。2台の深海潜水艇も豪華で,新しくデザインしたようだ。強力なパワースーツ機能のある深海潜水服も驚くべきデザインだった(写真2)。ヘルメット部分も加えると200以上のパーツから成り,実際に25着も制作したそうだ。これを装着しての海底歩行は,大型水槽内での撮影か,スタジオ内撮影にVFX加工して水中に見せているのだろう。


写真2 パワースーツを改良して深海作業用潜水服に

 ■ 高級リゾート地のファン・アイランドの撮影には,タイのプーケットにオープンセットを組んでいる。疾走するジョナスをMEGが追う約200mの桟橋もこの撮影のために建設したという。ハリウッド・メジャー大作に中国資本が加わったゆえに実現できた豪華版サメ映画だ。サーファーであるウィートリー監督の拘りもあるようだが,美術班も楽しかったことだろう。

【CG/VFXとアクションデザイン】
 ■ 冒頭のT-レックスをMEGが襲うシーンのCGの出来映えは完璧で,本家『ジュラシック・ワールド』シリーズにひけを取らない。残る部分でも,高度なCG/VFXシーンを堪能できそうだと思わせてくれる。ここでT-レックスに捕獲される小型肉食恐竜は,おそらく後半に深海から陸にまで上がってくる「スナッパーズ」なのだろうが,きちんと確認した訳ではない。
 ■ 深海やファン・アイランドに登場するMEGは,既に前作でモデリングが終わっているので,何度も登場し,実写とのVFX合成もぬかりない(写真3)。ただし,本作の深海で遭遇するMEGは前作よりもさらに巨大とのことだが,その大きさの違いは識別できなかった。海上近くでの海との合成も完璧で,写真4などは惚れ惚れするシーンだ。


写真3 続編ともなるとMEGのCG表現も自由自在に

写真4 実写の海とのCG合成も惚れ惚れする出来映え

 ■ 基本は実写とCGとの合成だが,フルCGもかなりあると見てとれた。公開されているメイキング映像からも分かるように,J・ステイサムの全身や顔面をCG化して合成する方がアクションシーンの自由度も増す(写真5)。今や,かなりアップで見ても本人との区別はつかないレベルなので写真6,動きの速い格闘シーンはフルCGの方が効率的かつ表現も豊かになる。海上でのMEGの動きも多彩で迫力があった。


写真5 上:プレビズはこのレベルで, 中:レンダリングの途中段階, 下:完成映像

写真6 主人公のDigital Doubleも今やこのレベルで作れる

 ■ 終盤,ジョナスが黄色い水上バイクで海上を疾走するシーンは見どころの1つで,クライマックスに相応しい出来映えだ(写真7)。スタント俳優は使わず,ほぼすべて本人が水上で演技したという。ただし,写真8のようなシーンは,さすがにジョナスも水上バイクもCGだろう。こんな海面や大波もCGで描く方が易しい。CG/VFXの担当は,Scanline VFX,DNEG,Milk VFXの3社が担当している。


写真7 水上バイクでのアクションシーンは本作の見どころ

写真8 波も水上バイクもCGで描いた方が遥かに容易

盛り沢山だが荒唐無稽で, 緊迫感がないのが残念

 以上,美術デザインもCG/VFXも大満足だった。前作は「テーマもテイストもB級だが,CG製の巨大鮫はA級」と書いた以上,本作のCG/VFXは超A級と言わざるを得ない。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(22年Web専用#7)や『リトル・マーメイド』(23年6月号)ほどではないが,深海の描写も美しかった。
 その一方,ストーリーはサービス精神が過ぎるのか,盛り沢山でまとまりがなく,しかも荒唐無稽の極みだった。サメ映画はB級テイストでいいと書いたが,これはC級,D級以下だ。ウィートリー監督のリアリティ重視はビジュアル面だけで,物語設定が酷過ぎる。

【突っ込みどころ:看過できないシーンの数々】
 ■ MEGは実在した巨大鮫で,200万年前に絶滅したという。それが深海で生き延びていたというのはSF小説や映画だから許せるが,登場したのは約2300万年前かららしい。即ち,時計を6500万年前に戻しても実在していないし,T-レックスとは同じ時代に生きてはいない。なぜこんなシーンを挿入したかと言えば,原作の1作目の冒頭でこの種の場面が登場するからで,それを前作では描かなかったので,続編の冒頭に入れたようだ。即ち,原作の設定自体が根本的に間違っている。
 ■ レアメタル/レアアースが海底にも存在することは最近明らかになったが,もっと浅い海であっても,まだ採掘は実現していない。可能になったとしても,マリアナ海溝の水深7600mの地点まで潜って採掘するのでは,どう考えても採算が取れない。深海での作業を簡単に考え過ぎで,海底ステーションを設けることも,海底を3kmも歩行することも有り得ない。
 ■ 深海から海上のマナ・ワンの司令部と頻繁に交信しているが,どんな方法で通信しているのだろう? こんな深海まで電波は届かないし,音波も減衰してしまい,使いものにならない。海底ステーションから脱出した後,ジョナスやジウイン達はあっという間に海上まで浮上してくるが,水圧から身体を慣らす暇もない。7〜10kmの深海からの浮上もさることながら,水平方向の距離も無視している。マリアナ海溝から上海沖200マイルのマナ・ワン研究所までは,2000km以上もある。この移動は潜水艇なしでは不可能な上に,新幹線でも約7時間かかる距離なので,簡単にマナ・ワンには戻れない。
 ■ 本作では,2種類のオリジナル捕食生物を生み出している。水陸両用の肉食獣「スナッパーズ」(写真9)と巨体なタコの「ジャイアントオクトパス」(写真10)である。多数のスナッパーズと一匹のジャイアントオクトパスが,MEGと共に深海からファン・アイランドまでやって来る。前者はCGデザインとしては優れていたが,後者は凡庸だった。そもそも,パニック映画としてはMEGだけで十分で,こんな余分なクリーチャーを登場させる必要は感じない。


写真9 本作オリジナルのスナッパーズは,水陸両用の肉食獣

写真10 上:深海の大タコがリゾート地を襲う, 下:海中でのバトルもあり

 ■ 全体にコメディタッチで,たまに笑えるのは和むが(写真11),全体的に絞まりがない。次々と危機に遭遇するが,笑いながら難なく解決するので,緊迫感もなければ恐怖感もない。脚本も演出も3流で,これじゃアクションスターも台無しだ。残念だったのは,本作にはヒロインが登場しないことだ。前作のヒロインのリー・ビンビンは元より,ジョナスの元妻役のジェシカ・マクナミーもかなりの美形であった。勘弁して欲しいのは,継続出演のメイインだ。前作ではまだ子供らしい愛らしさがあったが,14歳という設定の本作では全く可愛くなく,完全なオバサン顔だ(実年齢は不明)。容貌は別にしても,言うことを聞かない身勝手な行動で何度も騒動を引き起こすので,観客側もイライラする。途中でMEGに食べられてしまっても,誰も文句は言わない(笑)。


写真11 これは実演+CG。このシーンで, 会場から笑いが起きる。
(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

【総合評価】
 ビジュアル面での満足度が高かっただけに,科学的考察がないストーリーや,緊迫感のないパニック映画が残念で,低評価にしてしまった。『トランスフォーマー』シリーズに代わって,ラジー賞の有力候補になると思う。もっとも,この種の映画に科学的根拠も格調高さも求めない,ただただアクション部分に没頭できればいいという映画ファンなら,楽しく観られると思う。
 TVスポットやネット上での応援記事も多数散見するので,かなりの広告宣伝費をかけているようだ。その分,興行的にはそこそこヒットすることだろう。既に次作『MEG3』の計画も出始めているようだ。原作小説はシリーズ8作目が出版されるようなので,映画もあと数作作られるかも知れない。その場合は,監督は勿論,脚本家も替えて,もっと緊迫感のある映画にして欲しいと希望しておく。


()


Page Top