head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
   
titletitle
 
O plus E 2022年9・10月号掲載
 
 
1950 鋼の第7中隊』
(ツイン配給)
      (C) 2021 Bona Entertainment Company Limited
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月30日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2022年8月6日 オンライン試写を視聴 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  プロパガンダ臭が漂うが, 映像のスケールは大きい  
  中国映画で,原題は『長津湖』,英題は『The Battle at Lake Changjin』であり,朝鮮戦争後半の天王山「長津湖の戦い」を描いた戦争映画である。日露戦争における203高地をめぐる「旅順港争奪戦」に匹敵するそうだ。この邦題は,ヒット作『1917 命をかけた伝令』(20年Web専用#1)を意識したものと思われる。
 朝鮮戦争を描いた映画は少なく,当欄で紹介したのは,韓国映画の『ブラザーフッド』(04年6月号) 『戦火の中へ』(11年2月号)の2作品に過ぎない。そもそも,筆者のような「団塊の世代」でも,この戦争のことを殆ど知らない。勃発当時はまだ2歳だから実時間で知る由もないが,学生時代でも,この戦争特需が敗戦後の日本経済復興に役立ったと聞いた程度だ。大人になり,国際政治を少し学んでから,以下の概要を知った。
@1950年6月,ソ連の支援で,突如北朝鮮軍が国境線を超えて南下し,韓国は半島最南部まで侵略される。
A米国軍中心の国連軍が派遣されて形勢逆転し,北朝鮮軍は北の中朝国境近くにまで押し戻される。
B参戦した中国人民志願軍の猛攻により,国連軍は苦戦し,その後は膠着状態となり,現在の国境線で停戦が成立した。南北分断国家のまま,現在に至る。

 本作は,Bの中での分水嶺となった激戦の模様を,中国軍の視点で描いている。朝鮮戦争全体では,北朝鮮の金日成首相の権力が増し,現在の金正恩独裁体制に繋がっている。この映画に北朝鮮軍は殆ど登場せず,米国の近代兵器に対抗して大きな戦果を得た中国軍(特に,第7中隊)だけが英雄視されて描かれている。
 戦争映画は,製作国側の視点で描かれるのは当然だが,本作は殊更プロパガンダ映画の色彩を強く感じた。とりわけ強調されているのが,周囲の反対を押し切って派兵を決断し,成功した毛沢東の功績である。彼を崇拝し,同等の評価を得て長期政権を確立しようとする習近平・国家主席の思惑が透けて見えてくる気がする。中国国内では大ヒットしたが,韓国内では上映禁止になっているという。そうした政治的意図はさておき,当欄では,純粋に戦争映画としての出来映え,特にVFX多用作としての評価を中心に論じる。
 特筆すべきは,中国映画界を代表する3監督(チェン・カイコー,ツイ・ハーク,ダンテ・ラム)を起用していることだ。それぞれが,物語の全体的管理,特撮シーン,戦闘シーンを担当している。上映時間は約3時間,製作費が中国映画界最高額の270億円であるから,文字通り威信をかけた豪華大作だ。主演は,第7中隊の伍千里・中隊長(ウー・ジン),その弟の新米兵士・伍万里(イー・ヤンチェンシー)で,この兄弟を中心に物語は展開する。他の出演者も多数だが,マッカーサーや毛沢東役にそれらしい風貌の俳優を起用している。
 以下,当欄の視点からのVFX評価と感想である。
 ■ ロケ中心で,多数のエキストラを起用する物量作戦はいかにも中国映画だ。映画の冒頭は,国連軍の仁川上陸作戦から始まる(写真1)。軍艦からの艦砲射撃(写真2),空中戦や戦闘機から爆弾投下等,CG/VFXシーンが多数登場する(写真3)。レベルはそう高くないが,この点でも物量戦だ。映像は鮮やかで,物語展開は分かりやすい。その半面,あまり深みがないと感じる。

 
 
 
 
写真1 冒頭の仁川港のシーンには,VFXがたっぷり
 
 
 
 
 
 
 
写真2 艦砲射撃もしっかりCGパワーで描写
 
 
 
 
 
 
 
写真3 戦闘機も当時の姿をCGで復刻している
 
 
  ■ 軍艦,戦闘機の他に,戦車,ヘリも多数登場する。軍事評論家の解説によると,当時の兵器の再現描写はかなり正確だそうだ。実物大模型を作った上で,CG描写しているのも今や当り前のことだ。鉄道車輌や軍用車は,ほぼすべて実物なのか,遠景に配置されたものはCGなのか,見分けが付かない(写真4)。走行中の列車から見える「万里の長城」もしかりだ。爆弾投下で吹っ飛ぶ兵士,零下40°Cの厳寒下の行軍,崖からの戦車の滑落等はCGだろうと想像できる。さすがに,銃弾の貫通や,砲弾同士が擦れるシーンは嘘っぽかった。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 いくら大量動員,物量作戦とはいえ,遠景の車輌はCGのようにも見える
 
  ■ 迫撃砲,輸送車の襲撃等,当時の戦争の模様がよく分かる。戦車中心の戦闘シーンは,かなり見応えがあった(写真5)。『プライベート・ライアン』(98)や『ブラックホーク・ダウン』(02年3月号)を意識していると感じられた。 砲撃や爆弾投下による爆発シーンが多用されているが,大半はCGの産物だろう(写真6)。俯瞰シーンでの,雪原に見える炎が美しかった(写真7)。同じような戦闘が延々と続き,少し退屈した。
 
 
 
 
 
写真5 雪原で展開する戦闘はかなり見応えがある 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

写真6 いずれもCGゆえに描けた爆撃だと感心する

 
 
 
 
 
写真7 不謹慎ながら,火炎が美しく,見惚れてしまった
(C) 2021 Bona Entertainment Company Limited All Rights Reserved.
 
 
  ■ 大阪の試写室で顔見知りに感想を求めたら,「“大阪ラプソディー”を思い出しますな」という返事が返ってきた。1970年代に姉妹漫才コンビ「海原千里・万里」が歌ったヒット曲である(海原千里は,現在の上沼恵美子)。主人公の兄弟の名前からのジョークだが,余りにも見え見えのプロパガンダ映画で,「これじゃ。お笑いだ」という意味も込めているようだ。
 
  ()
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
Page Top
sen  
back index next