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O plus E 2022年Webページ専用記事#4
 
 
鋼の錬金術師 完結編 最後の錬成』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C)2022 荒川弘/SQUARE ENIX
(C)2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会

 
  オフィシャルサイト [日本語]    
  [6月24日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2022年6月10日 大手広告試写室(大阪) 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています)  
   
  ちょっと恨みがましい当欄執筆者の愚痴  
  隔月刊の本誌の間を埋めるこのWeb専用ページで,当然今回は5・6月号での積み残し分から語る。その筆頭は,あの人気作『ハガレン』の完結編の後編『最後の錬成』である。既に前編『復讐者スカー』(22年5・6月号)で述べたように,完結編を2部構成とし,それを連続公開するのは興行上の常套手段だ。最近では,同じワーナー・ブラザース配給の邦画『るろうに剣心 最終章』が『The Final』(21年3・4月号)と『The Beginning』(同5・6月号)として連続公開されたのと同じパターンである。
 昨年公開のその2作の間が6週間であったのに対して,今回の後編の公開は,前編の5週間(=35日)後と少し詰まっていたので,何とか2本まとめて紹介したいと考えたのだが,その願望は叶えられなかった。一向にマスコミ試写の案内が届かず,後編の試写開始日は前編から1ヶ月半以上先だった。2作同時製作で,撮影も同時期のはずなので,好意的に考えれば,後編のCG/VFXの仕上げに時間をかけたということだと解釈した。では,その出来映えの程をたっぷりと紹介できるかと言えば,しかるべきスチル画像の追加が全くない。公式サイトも前後編共通であり,チラシもプレスシートも全く同じだ。登場人物も殆ど同じであるから,それじゃ後編『最後の錬成』の紹介記事は何を書けというのか。せいぜい完結編全体が,熱心なハガレン・ファンを満足させられる出来であるどうかを評価する程度になってしまう。
 しばらく待っていたら,ようやく後編だけの予告編が登場した。これはもうCG/VFXぎんぎんの見せ場のラッシュだ。であれば,何とかその一部のVFXシーンが追加されていないかと,再三ワーナーの公式ダウンロードサイト(WB MediaPass)を点検したのだが,これは徒労だった。邦画最大級のCG/VFX大作であるのに,当欄のメイン記事扱いできずに,短評欄で済ませるしかないと諦めた。何ともったいないことか。
 その考えでの概略の紹介文は約1週間前に書き終えて,Webページの裏リンクから辿れるようにしてあった。ところが,公開前日に他サイトを観ると,新しいスチル画像が何枚もあるではないか! 慌ててパブリシティ担当社から同じ画像を取り寄せ,敬意を表してメイン欄記事として書き直すことにした。着手したのは,公開前日の深夜のことである。最後までWB MediaPassに新規画像はなかったことを,恨みがましく愚痴っておきたい。
 
  原作に忠実で,ハガレン・ファンも満足できる内容  
  原作コミックが人気作品の実写映画化は,原作ファンから手厳しい評価を受けがちだが,観客動員では彼らが高い比率を占めるので,SNSで流れるファンの評価を無視できない。いや,その評価を下げないことが監督に求められる最大の要求事項と言える。その一方で,この完結編からハガレン・ファンとなり,アニメ,ゲームに進み,原作コミックの全巻を揃えようというファンが増えることも,製作委員会の幹事会社にとって大きな関心事である。
 毎度のことであるが,当欄としては,CG/VFX多用作としての出来映えを論じ,根っからの原作でない一般映画ファンの視点からこの映画を論じる。

【大団円に向かっての後編の展開】
 前編でエド(山田涼介)やリン・ヤオ(渡邊圭祐)らが,大食漢のグラトニー(内山信二)に飲まれてしまった。中でまだ生きていて,どうやって脱出するか考えていたから,まるでクジラの体内にいるピノキオのようだった。さて,後編はどうなるのかワクワクする展開を期待したのだが,これはあっさり脱出できてしまい,少し拍子抜けだった。
 その前の映画の冒頭シーケンスでは,エドとアルの父親であるヴァン・ホーエンハイム(写真1)が本格的に登場し,快刀乱麻の活躍をする。物語がしばらく進行すると,今度は彼と容姿が瓜二つで,同じ俳優(内野聖陽)が演じる「お父様」なる黒幕的人物が登場する(写真2)。 本作はこの2人を中心に物語が展開し,2人はどういう関係なのかがこの後編の鍵だということは,原作ファンでなくても容易に分かるだろう。
 
 
 
 
写真1 左が2人の父親ヴァン・ホーエンハイム 
 
 
 
 
 
写真2 これが「お父様」。こちらも内野聖陽が演じている。
 
 
  元々,この長編物語は,亡き母トリシャを蘇らせるため,エドとアルの兄弟が禁忌の「人体錬成」に失敗し,2人とも不自由な身体になってしまったことに端を発している。となれば,最後に彼らがどうなるかもほぼ想像できる(写真3)。ファンにとっての興味は,結末ではなく,その大団円に向けて,どういう語り口でこの完結編が描かれるかである。
 
 
 
 
写真3 新登場の少女アメリカ・チャベス 
 
 
  その意味での結論を言えば,完結編らしい予想通りの「大団円映画」であった。筆者は4年半前の第1作を観る際に,原作コミック全27巻中の10数巻までしか読んでいない。その意味では,原作の正確な結末は知らないのだが,ここまでの描き方からして,かなり原作に忠実な物語進行であると思われる。おそらく,原作ファンの半数以上は,本作を気に入ると思われる。
 第1作に比べて,この完結編は分かりやすくなり,物語進行にも余裕があることは前編解説時に述べた。前編は125分,後編は142分もあるから,当然とも言える。それでも終盤でやや駆け足感があるのは,原作のエピソードをなるべく多く盛り込もうとしたためだろう。1件落着後の後日談が長いのは邦画の常だが,本作は殊更それが長い。これも主要登場人物のその後を一通り描こうとしたからと考えられる。余韻を通り越して,くどいと感じた。

【登場人物と演じる俳優たち】
 主要な俳優にしっかり演技させて見せ場を作っているが,完結編全体として目覚ましい成長を感じたのは,主演のエド役の山田涼介だ(写真4)。かつては,いかにもジャニーズ系の小柄でひ弱なアイドルで,演技は見るに堪えないレベルだった。その後演技力も増し,今や堂々たる主演男優だ。心なしか,体躯もがっしりとしてきたように見える。映画・TV併せて主演作は多数あり,既に29歳なので当然とも言えるが…。
 
 
 
 
 
写真4 相変わらずのイケメンだが,演技力も増してきた 
 
 
   年配のメディア関係者が,「内山信二と舘ひろし以外は,若い美男美女ばかりで,誰が誰だか分からない。同じような髪型,顔立ちで,外国人名前だし…」とこぼしていた。これには同意する。原作ファンには,主要人物は一対一の対応がとれているだろうが,初見の観客には彼らを見分けるのは難しい。

【CG/VFXの充実度】
 後編単独の予告編から分かるように,CG/VFXの登場場面は増し,種類も豊富なので,一々解説し切れない。その反面,同じパターンの繰り返しが多い。実写映画化にはCG/VFXなしでは有り得なかった作品であるが,ここまで多用する必要があるのかとも感じた。
 新たなスチル画像が提供されたとはいえ,CG/VFX関連の画像はわずかしかなかった。折角だから,少し解説しておこう。写真5のグリードの左手は,身体の一部を硬化させた状態で,手の甲にウロボロスの紋章が描かれている。これは実物なのか,それともCGなのか? いずれでも実現可能だが,他の乱発具合からして,これもCGだろう。写真6の光り輝く黄金色の球は,最近のCG技術からすれば何でもない表現だが,エドの顔への照り返しや色調全体の調整は見事な出来映えだと言える。
 
 
 
 
 
写真5 グリード(左)の硬化した左手はCG製か?
 
 
 
 
 
写真6 CG的には何でもないが,顔や手への反射や色調の調整は見事
(C)2022 荒川弘/SQUARE ENIX (C)2022 映画「鋼の錬金術師2&3」製作委員会
 
   その一方で,何度か登場するSLや戦車は感心した出来映えではなく,まだまだ稚拙でいかにも作り物と感じるレベルだ。CG/VFXの主担当はOXYBOTで,曽利文彦監督が役員を務めるVFX制作会社である。その他,20数社が名を連ねているが,その間に技術レベル差があるのだろう。ただし,全社合わせてもCGアーティスト,VFXエンジニアの数はハリウッド大作の1/10にも満たない。かなり効率的,かつ低予算でここまでのCG/VFXを描いたのは立派だと言える。
 かつての話題作,『20世紀少年』シリーズ (08〜09),『進撃の巨人』2部作(15)と比べても,CG/VFXのレベルはかなり向上していると感じた。日本のVFX業界のレベルを上げることにも貢献していると評価できる。
 
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