head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
O plus E誌 2018年Webページ専用記事#5
 
映画サウンドトラック盤ガイド
   
 

■「旅猫リポート」オリジナル・サウンドトラック
(発売:SHOCHIKU RECORDS ,販売:Sony Music Marketing)

   
 
 
 
  待ち遠しかったサウンドトラック盤だ。映画本編の評は9・10月号に掲載し,「サントラ盤は間に合わなかったので,後日紹介する」と約束しておいたが,公開日の1週間前になって,ようやくOST音源が届いた。
 音楽担当は,シンガーソングライターのコトリンゴ。大ヒット作『この世界の片隅に』(16年12月号)の音楽も担当したが,同作で複数の映画音楽賞を受賞している。彼女のウィスパーヴォイスにすっかり魅せられて,その後,既発売のアルバムは全部取り揃えた。よって,本作でもすぐにコトリンゴの歌だと気付き,試写を観ている途中から,是非当欄で語りたいと思っていた。
 劇中で何度か歌が流れた気がしたが,彼女の歌唱曲は実質,主題歌「ナナ」と挿入歌「奇跡は」の2曲だけだった。劇中で流れるのはそれぞれの1コーラスで,エンドロールで「ナナ」がフルに聴ける。勿論,サントラ盤CDには両方のフルコーラスが収められている上に,ボーナストラックとして「奇跡は」の別テイクが付いている。
 CDは全28曲構成で,残る25曲の器楽曲もすべてコトリンゴ作のオリジナルスコアである。「2. ハチとの出会い」には口笛が,「16. ナナの虹」にはスキャット風の声(歌詞はない)が入っているので,もっと歌唱曲が多かったように感じたのかも知れない。オリジナルスコアは,いずれもこの映画のほのぼの感にピッタリで,映画観賞後に聴くと,猫や犬たちの挙動を思い出す。CD単独で聴いても,癒し系BGMとして心地よい。原爆体験を描いた『この世界の…』のOSTが喜怒哀楽の抑揚をつけているのに対して,本作は全体的に明るく,難病ものの悲愴感はない。
 シンガーソングライターがエンドロールで流れる主題歌に起用されることは多いし,映画音楽担当の作曲家が主題歌まで作るケースもある。ところが,オリジナルスコアから挿入歌まで作って,自分で歌うケースは珍しい。実は『この世界の…』では,当初,歌唱曲だけかと思ったのだが,映画音楽全体の作曲・編曲まで1人でこなしていることを知り驚いた。さすが,米国のバークリー音楽大学に留学し,ジャズ作・編曲科/ピアノパフォーマンス科を専攻して卒業したという経歴だけのことはある。

[付記]本誌短評欄は紙幅制限があって,書き切れなかったことを,ここで付記しておこう。
 主役の猫ナナは牡猫であるが,彼の独り言(勿論,人間には聞こえない)は女優・高畑充希の声がぴったり合っていたし,さらに愛くるしい表情や挙動には,このコトリンゴの音楽が見事にマッチしていた。
 少し驚いたのは,ナナと他5匹の犬猫は,すべて1匹ずつしか割り当てられていないことである。ハリウッド作品なら,主役の動物には,見分けがつかない4〜5匹が起用されるところだ。少し違和感のある場面もあったが,低予算の邦画ゆえに1匹ずつだったと知れば,納得できる。各1匹を相手にあれだけの演技を引き出したのは,トレーナーや撮影陣の苦労の賜物だろう。
 
   
   
   
 

■「Smallfoot (Original Motion Picture Soundtrack)」
(WaterTower Music)

   
 
 
 
   本編欄で『スモールフット』のミュージカル・ファンタジーとしての出来の良さを褒めたが,サントラ盤としても高評価を与えたい。ところが,英語の原曲の輸入盤,ネット配信しかなく,日本語のライナーノーツのついた国内盤はない。さらにいうなら,ファミリー映画らしく,日本語吹替版が公開され,劇中の歌唱曲は声の出演者たちが日本語で歌っているのに,日本語のサントラ盤が発売される気配がない。歌える声優,歌手(木村昴,宮野真守,早見沙織)を配しておきながら,これはもったいない。
 ちなみに,本誌2017年3月号では『モアナと伝説の海』『SING/シング』をまとめて紹介し,同号で両方のサントラ盤(英語版)紹介をしている。これは,映画自体を字幕版でしか観ていないためだが,両作品とも日本語サントラ盤が発売されている。即ち,後者は,長澤まさみ,大橋卓也,山寺宏一の歌も収録した国内盤である。ディズニー配給のアニメなら当然のことだが,ユニバーサル作品,東宝東和配給のアニメにも,国内で成功させようという意気込みを感じる。それに対して本作の場合は,最初から採算が合わないだろうと判断し,逃げている訳である。残念至極だ。
 さて,輸入盤のOSTであるが,最初に歌唱曲が7曲(劇中歌が6曲,エンドロールの最初に1曲)があり,それに続いて音楽担当のHeitor Pereiraのオリジナルスコア(演奏曲)18曲が収録されていて,計25曲の構成である。そして,歌唱曲7曲は,監督のキャリー・カークパトリックが主として作詞し,"Percy's Pressure"を除く6曲をミュージシャンの兄ウェインが作曲している。2人は音楽作家として,ブロードウェイ・ミュージカルの曲作りの実績もある。
 映画冒頭でミーゴ役のチャニング・テイタムが歌う"Reputation"は本作全体の応援歌であり,続いてミーチー役のゼンデイヤが"Wonderful Life"を歌う。クライマックスはCYNの"Moment Of Truth"(6曲目),エンドソングはNiall Horanの"Finally Free"(7曲目)で,この4曲は軽快なポップスとして歌われている。ディズニー・アニメの曲として使われていれば,様々なアーティストにカバーされ,末長く生き残ると思えるレベルの曲である。
 ちょっと異色の聴きものが2曲ある。1曲は,スモールフット役のジェームズ・コーデンが歌う"Percy's Pressure"(3曲目)である。イントロのギターリフを聴いただけですぐ分かるように,クイーンの"Under Pressure"の替え歌だ。子供たちには通じないだろうが,同伴する親世代は,クイーンとデヴィッド・ボウイ共作のこの大ヒット曲のパロディを劇中で聴いて,大笑いするか,感涙にむせぶ,という仕掛けである。図らずも,クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラブソディ』がまもなく公開される時期なので,まさにタイムリーなパロディである(計算づくか?)。
 もう1曲は,最長老役のコモンが歌う5曲目の"Let It Lie"だ。5分13秒に及ぶ重厚感のある曲を,ヒップホップ調の語りにして,物語中の重要な役割を果たしている。ラッパー&俳優の彼を声優として起用したことを最大限に利用した,見事なアレンジである。曲名は,ディズニーの"Let It Go"のパロディだろうか。
 もう1つ触れておくなら,主題歌 "Reputation"やエンドソング "Finally Free"の主旋律が,Heitor Pereiraのスコアの中でも随所で使われていることだ。同じ作曲家が作った主題歌なら当たり前のことだが,他人の作をこういう風に盛り込むのは珍しい。映画音楽全体が1つのテーマで作られ,物語に溶け込んでいる好例である。
 
   
  ()  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br