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O plus E誌 2019年11・12月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『テルアビブ・オン・ファイア』:表題からはイスラエルのテルアビブ市が炎上する戦争ものに思えるが,劇中で登場する連続TVドラマの題名でもあり,ブラックユーモアたっぷりのコメディである。主人公のサラーム(カイス・ナシェフ)は東エルサレム在住で,毎日ヨルダン川西岸のパレスチナ地区に通っている。番組制作の下働きから脚本家に昇格するが,ドラマに熱中する家族や毎日通る検問所の将校から,筋立てや結末に様々な注文がつき,板挟みで思い悩む…という展開だ。笑えるのは,洋の東西を問わず,女性達は連続ドラマに夢中になるという点だ。同時に「フムス」なる現地の食べ物も大きな役割を果たす。およそ美味には見えないが,現地人には強い拘りがあることが分かる。複雑なパレスチナ情勢の解説の中に,絶妙のバランスで風刺を織り交ぜている。「“笑撃”のラストを見逃すな!」がキャッチコピーなので,楽しみにしておいた方がいい。
 『EXIT』:韓国映画のサバイバル・パニックと言えば,まずヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』(17年9月号)を思い出すが,その前に大作『ザ・タワー 超高層ビル大火災』(13年8月号)も見応えがあった。本作も,最初の舞台は高層ビルであるが,災厄の元は火災ではなく,テロリストの撒布した有毒ガスである。1つのビルだけでなく,大都市のゾーンが次々と大混乱に陥る。登山部でロック・クライミング経験のある男女(チョ・ジョンソクとユナ)が活躍し,大多数を脱出させるが,この2人だけが取り残され,その後,町中を逃げ回る。色々身の回りのものを緊急時に使う技が見どころだった。韓国内の世相もよく描かれていて,若者の就職難もひしひしと伝わって来る。この種の映画の主人公達は救出されるに決まっているが,分かっていながら緊迫し,下を見ると目が眩んだ。予想通り疲れる映画で,もう少し途中の休息が欲しかった。
 『決算!忠臣蔵』:「決戦」ではなく「決算」だ。それだけで『武士の家計簿』(10)『殿,利息でござる!』(16)と同路線の松竹時代劇だと分かる。原作は山本博文著の「『忠臣蔵』の決算書」で,歴史学者の大学教授が書いたノンフィクションである。金勘定の額は原作を使っているが,『殿,利息…』の中村義洋監督が思いっきり脚色したオリジナル脚本だ。これまで見たどの「忠臣蔵」よりもコミカル度が高く,ほぼ全員関西弁を話す(赤穂藩だから不思議ではないが,何で江戸詰めの堀部安兵衛までが…)。中盤までは,おふざけ度が過ぎると感じたが,所々,真剣味を増した演出になる。図面を見ながらの討入りの机上リハーサル,必要武具のリストアップ部分は圧巻だった。硬軟,緩急の使い分けが上手く,まさに異色の忠臣蔵に仕上がっている。ロケ,美術セット,衣装は一級の時代劇仕様なので,まともな討入り,一夜明けて泉岳寺に向かうシーンくらいは欲しかった。
 『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』:原作は1980年代に少年漫画誌に連載された和製コミックで,TVアニメ,劇場用アニメ,実写映画が何度か作られている人気作である。本作はフランスで実写映画化され,熱烈ファンの俳優フィリップ・ラショーが,自ら監督・脚本・主演を務める。現地では168万人を集める大ヒットとのこと。日本の関係者も安心する出来映えで,監督の原作愛は本物だという。主人公の冴羽獠,相棒の槇村香は,フランス版ではニッキー・ラルソン,ローラ・マルコーニだが,本邦では日本語吹替版で公開され,原作の名前のままで登場する。それで違和感はなく,日本人俳優が演じるより,スタイルのいい外人の方がピッタリだと感じる。全編ギャグ満載のアクション・コメディで,惚れ薬の香水をめぐる攻防の上,自白剤も登場する。弾丸,ヒヨコ,爆発や落下など,漫画的な動きはCG/VFXで描かれている。
 『THE INFORMER 三秒間の死角』:北欧ミステリーの傑作「三秒間の死角」の映画化作品で,仮釈放中の犯罪者が捜査機関と取引し,自由の身と引き換えに情報屋を務めるというクライム・サスペンスだ。舞台をNYに移し,スウェーデン法務省はFBIに,ストックホルム市警はNY市警に置き換えられている。主人公は,麻薬組織のボスから刑務所内での麻薬取引を仕切る役を任され,FBIからは組織撲滅の証拠を掴むよう命じられる。ところが,ある事件からFBIには梯子を外され,組織,FBI,NY市警,受刑者たちからも命を狙われる羽目に陥ってしまう…。主演の情報屋を『ロボコップ』(14)のジョエル・キナマン,連絡役のFBI捜査官をボンドガールのロザムンド・パイクが演じている。いい組み合わせだ。この種のアクション・サスペンスとしては中の上の出来映えで,大きな特色もないが,外れでもない。強いて言えば,「三秒間の死角」の意味が説明不足だ。
 『ゴーストマスター』:ジャンルとしてはホラーコメディに属するのだろうが,ちょっと形容のしようがない,不思議な魅力に溢れた青春映画だ。主人公の黒沢明(三浦貴大)は,名前負けしながら,映画撮影現場で働く要領の悪い助監督である。根っからのホラー好きで,彼が書き溜めてきた脚本「ゴーストマスター」に悪霊が宿り,撮影中の青春恋愛映画が凄惨な地獄絵図と化してしまう…,という構図である。大ヒット作『カメラを止めるな!』(18)の設定に少し似ているが,ホラー描写が強い分,一般受けはせず,カルト的人気を得ると思われる。中盤以降のグロテスクな描写は,『悪魔のいけにえ』(74)『死霊のはらわた』(81)『スペースバンパイア』(85)等のスプラッター映画へのオマージュだという。どうしてどうして,おぞましさよりも滑稽さの方が前面に出ている。顔面特殊メイクやCG/VFXのチープさが,この映画のテイストを決定づけている。楽しい!
 『ジョン・デロリアン』:「デロリアン」と言えば,『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場するタイムマシン・カーとして有名だが,あのジウジアーロがデザインした市販のスポーツカーであったことは,日本ではあまり知られていない。開発者のジョン・デロリアンは,元GM副社長の天才エンジニアであり,独立後,社名と車名に自らの名を冠した。本作は,彼の伝記映画で,てっきりDMC-21開発の苦労話なのかと思ったが,中身はFBIの囮捜査で,彼が麻薬取引の罪で逮捕される顛末を描いたクライム・サスペンスであった。情報提供者ジム・ホフマンとのJ・デロリアンの関係に焦点が当てられている。人物も裁判結果も知る米国人には事件の裏話として面白いだろう。両方とも知らなかった日本人は,むしろ囮捜査の実態が分かって楽しい。1982年当時のカリフォルニアの再現が嬉しいが,路上を走行するデロリアンの雄姿も観たかった。
 『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』:こんな凄い人物がいたのか,こんな人生もあるのかと感嘆する。同時に,映画は知識を,世界を広げてくれると実感できる作品だ。フランス南東部のオートリーヴ村に実在する石造りの宮殿で,一介の郵便配達員がたった1人で作り上げたという。本物の王宮ほど大きくはないが,東西26m,高さ10mはかなりの大きさだ。武骨で,子供との接し方が分からない不器用なシュヴァルは,愛娘アリスのため夢のような理想宮作りを思い立つ。郵便配達員として地球5周分を歩き,勤務時間外に33年間,9,000日,93,000時間をかけ,拾ってきた石だけで宮殿を造り上げるとは,驚くべき精神力の持ち主だ。無惨にも,愛娘は15歳で,長男は46歳で他界し,妻フィロメーヌにも先立たれる。自身は,宮殿完成後に,今度は8年間かけて家族のための廟を作り,88歳で大往生する。ラストの宮殿のライトアップが美しい。
 『THE UPSIDE/最強のふたり』:副題からすぐ分かるように,フランス映画のヒット作『最強のふたり』(12年9月号)のハリウッドリメイク作だ。前作の評で既に「車椅子生活の白人の富豪と,介護人に雇われたスラム出身の黒人青年の組み合わせは,アメリカ映画向き」と記していた。その通りで,本作は米国式にアレンジしたことが奏功している。ペントハウスが驚くほど豪華で,NYの街を走るスポーツカーが頗るカッコよく,「ハックルベリー・フィンの冒険」の初版本を登場させるのも小粋だ。主演は,ケヴィン・ハートとブライアン・クランストン。この2人の掛け合いも悪くないが,富豪の秘書イヴォンヌ役のニコール・キッドマンの存在感が光っていた。「当初反目しながらも,やがては互いを認め合い,かけがえのない存在となる」というテーマが普遍的なので,何度リメイクしても楽しめるのだろう。改めて,これが実話だということに感じ入ってしまった。
 『冬時間のパリ』:この題名からは,フランス映画でロマンチックな恋物語を想像する。男女関係はさほどロマンチックではなかったが,パリの街は相変わらず美しい。監督は名匠オリヴィエ・アサイヤスで,2組の夫婦の愛のもつれと信頼の回復を描いたと語っている。大人の恋とはいうが,よくぞ平気で仕事仲間の配偶者と浮気できるものだと感心する。出版界が舞台で,辣腕編集者の不倫相手は部下の美女で,妻は人気女優だ。その不倫相手は夫が担当する作家で,彼の妻は国会議員秘書という組み合わせである。知識階級の知的会話なのだろうが,何しろ台詞が多い。絶えず,誰かがしゃべっている。この会話の多くは,恐らく監督の体験に基づくものなのだろう。観客それぞれが,有り余る台詞の一部に,自分の人生や人間関係を重ねて楽しめばいい。筆者は,こんな夫婦関係には興味なく,出版業界にとってのデジタル化の影響に関する会話を興味深く拝聴した。
 『フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて』:本作も,筆者にとって,新しい世界を拓いてくれた映画だ。英国に実在する漁師たちのバンド「Fisherman's Friends」の成り立ちとメジャーデビューの実話を描いたヒューマンドラマである。舞台は,英国南西部コーンウォール州の港町ポート・アイザックで,現役の漁師たちが伝統の舟唄や民謡を歌っていた。力強く,美しいハーモニーを偶然耳にした音楽業界のマネージャーが魅せられ,紆余曲折の後,ようやくバンドとしてデビューする契約を交わす…。それだけなら,単なる音楽サクセスストーリーだが,現地の人間関係やラブストーリーを織り交ぜている。英国人のパブ好きもしっかり伝わって来る。強いて言えば,主演のダニエル・メイズが余り敏腕プロデューサーに見えないのが欠点だが,本当の主役は,何と言っても漁師たちの素朴で,素晴らしいコーラスだ。早速輸入盤CDを注文した。
 
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