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O plus E誌 2019年11・12月号掲載
 
 
男はつらいよ お帰り 寅さん』
(松竹配給 )
      (C)2019 松竹株式会社
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [12月27日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2019年10月31日 松竹試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  懐かしく,嬉しいが,期待し過ぎると残念な面も  
  今年,邦画では最も待ち遠しかった作品だ。ギネス公認の国民的映画『男はつらいよ』シリーズの50周年記念にして,50作目という記念碑的存在である。49作目のような,過去作品に少し前置きを入れた程度の特別編ではない。全くの新作で,懐かしの面々が再登場する上,過去作品中の「寅さん」が復活するという。この話題が昨年の内から溢れていた。NHK特番の「いま,幸せかい? 〜山田洋次 映画に託す思い」は,約1年前の2018年11月17日に放映され,本作の撮影風景も寅さんの登場シーンの選択する様もしっかり描かれていた。
 こういうCG/VFX多用作中心で,SFやアメコミばかりを取り上げていると意外に思われるかも知れないが,筆者は,根っからの『男はつらいよ』シリーズの熱烈ファンである。過去49作中,46本は映画館で入場料を払って観ている(1 & 2作目はTV放映で,49作目の特別編は松竹本社の試写室で観た)。その後,TVで再放映される度に,VHS,DVD,Blu-rayに録画し直し,その都度,大半はついつい観てしまうので,シリーズ全体で200回以上は観ていることになる。日頃マスコミ試写会で出会う年輩のプレス関係者にも,同じようなファンが多い。
 本作には,個人的に格別の思い入れがある。実は,本業の大学教授職の関係で,山田監督と面識ができ,直接この50作目論議をしたことがある。2006年のGW中のことだ。監督の自宅近くの高級寿司屋で(しかも山田監督の奢りで),約2時間半も歓談した。その際,ファン代表として,早く50作目をと熱望した(そのやりとりは後述しよう)。その時点では,特別編2のつもりであり,新脚本で,10数年後に実現するとは思っていなかった。
 待ちに待った本作は,ファンとして一喜一憂する映画だった。以下では,個人的な賛否を述べてみよう。
 【とにかく懐かしく,嬉しい】
 ■ おいちゃん3人(森川信,松村達雄,下條正巳),おばちゃん(三崎千恵子),御前様(笠智衆),タコ社長(太宰久雄),テキ屋仲間のポンシュウ(関敬六)は既に鬼籍に入っている。妹さくら夫妻(倍賞千恵子,前田吟),甥の満男(吉岡秀隆)の出演は当然だが,タコ社長の娘・朱美(美保純),寺男の源公(佐藤蛾次郎),店員の三平(北山雅康)らが登場するのは,素直に喜ばしい(写真1)

 
 
 
 
 
 
 
写真1  朱美,源公,三平の凖レギュラーも続々と登場。見慣れない女子高生は満男の娘。
 
 
  ■ リリー役の浅丘ルリ子の出演は早くから予告済みで,満男のかつての恋人・泉役の後藤久美子は,本作のために欧州から帰国し,女優業を再開した(写真2)。『ターミーネーター ニュー・フェイト』(19Web専用#5)のリンダ・ハミルトン級の話題だ。その母役の夏木マリも登場する(写真3)。後任の御前様役の笹野高史も,風格はないが,似合っている。「くるまや」がカフェに生まれ変わっていると聞いて驚いたが,何だ,相変わらず草団子中心の「甘味処」だった。店内も居間も,家の構造もほぼそのままだ。NHKの連続ドラマ「少年寅次郎」(全5回)は戦前戦後を描いているが,同作でも殆ど同じだった。
 
 
 
 
 
写真2 リリー(右)と泉(左)の再会も目玉シーン
 
 
 
 
 
写真3 泉の母親役の夏木マリは,過去5作品に登場
 
 
  ■ 帝釈天参道は現代のものだが,違和感はない。柴又駅や京成電鉄の車輌が新しくなっているのも,なるほどと納得できる。新作の物語が進行するが,結局,泉が「くるまや」にやって来て,お馴染みの団欒風景となる(写真4)。こうでなくっちゃ,ファンは承知しない。ただし,老年期の博用に手摺りがついている。芸が細かい。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 泉が「くるまや」にやって来て,そしてお馴染みの構図での団欒シーンに
 
 
  【寅さんの登場場面は少なく,少し残念】
 ■ 随所で,寅さんを懐かしむ回想シーンが登場する。やはり1作目が出色だ。しっかり,あのメロン騒動のシーンも出て来る(写真5)。ただし,期待したほど寅さんの出番は多くなかった。これじゃ羊頭狗肉で,全体の印象はシリーズ終盤の満男と泉の恋物語の後日談に過ぎない。
 
 
 
 
 
写真5 このシーンの後,予想通り,第15作のメロン騒動の映像が流れる
(C)2019 松竹株式会社
 
 
  ■ ラストで,マドンナ全員の過去の短い映像が登場する。浅丘ルリ子以外にも,何人かは現在の姿で登場させて欲しかった。最近の山田組常連の吉永小百合(歌子役),御前様のお嬢様役の光本幸代,3回もマドンナを務めた竹下景子あたりは欲しいし,50周年記念なら,舎弟の登(津坂匡章)の顔も観たかったところだ。
 ■ 筆者が50作目を希望した時,山田監督から「現在のCG技術で俳優をどこまで描けるのか」との質問があった(監督は覚えていないだろうが)。「10年後は分からないが,まだ技術は未熟で気味が悪い。過去映像から切り出して,合成するので十分だ」と答えた覚えがある。あれから13年経ち,『ジェミニマン』(19Web専用#5)を語るまでもなく,ハリウッドではCGダブルは実用域にある。ただし,寅さんにはそれは似合わないので,本シリーズなら,過去映像の現代シーンへの合成でもファンは大歓迎だ。そうした合成場面はたった3シーンしかなかった。しかも,スチル写真としては一切提供されない。あくまで,本作は新作だというのが松竹広報の言い分だ。それじゃ,あれだけ前宣伝で「寅さん復活」を吹聴し,「お帰り 寅さん」と題したのは,一体何だったのだろう?
 
 
 [付記]
 上記の本文にミスがあった。御前様のお嬢様・坪内冬子役の「光本幸子」は,6年前に亡くなっていた。全員点検したつもりだったが,迂闊だった。
 その他の歴代マドンナでは,「新珠三千代」「池内淳子」「八千草薫」「太地喜和子」「京マチ子」「大原麗子」(出演順)が既に他界されている。
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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