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O plus E誌 2019年9・10月号掲載
 
 
クロール –凶暴領域–』
(パラマウント映画/ 東和ピクチャーズ配給)
      (C)2019 Paramount Pictures Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月11日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年9月11日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  2大名物をCG/VFXで描いたご当地パニックムービー  
  宇宙もの,アメコミの次は,これまた当欄得意の災害パニックムービーだ。舞台となるのは,フロリダ州南東部のコーラル湖周辺である。フロリダと言えば,アメリカやカナダでは避寒のリゾート地だが,夏季休暇時にも大勢の人々で賑わう。ただし,しばしばハリケーンの猛威に晒されるのが玉に瑕だ。湿地帯であり,多数の湖沼が点在しているが,そこはワニの棲息地でもある。地元住民には珍しくもない身近な存在だという。筆者は同州を何度も訪れたが,幸い,いずれにも遭遇していない。ただし,現地の日本食レストランで「ワニ肉の天ぷら」を食べて,その証明書をもらったことはある(笑)。
 ハリケーンとワニ,その2大名物の脅威を組み合わせたパニック映画であり,ホラー映画的な演出もなされている。この映画で到来するのは,カテゴリー5の最大級のハリケーンで最大瞬間風速70mだという。先日関東を直撃し,大規模な停電・断水被害をもたらした台風15号,昨年秋に関西地方を襲った台風21号級か,それ以上である。当然,地元民には避難勧告が出されている。
 主人公のヘイリーは,フロリダ大学に通う水泳選手の女子学生で,彼女の競泳シーンから物語は始まる。回想シーンから,父と娘の特別な関係が分かる。この競泳が得意ということが,映画終盤の危機脱出のポイントとなって来る。そこにボストンに住む姉から連絡があり,大型ハリケーン上陸の警報が出ているのに,父親デイブと連絡が取れないとの電話が入る。安否が気になるヘイリーは,2時間かけてクルマで現地に向かい,警官の制止を振り切って,実家へと向かう。そこには,地下室でワニに襲われ,重傷を負った父親が横たわっていた……。
 製作はサム・ライミ。監督として,『死霊のはらわた』(81)でホラー映画界に新風を吹き込み,トビー・マグワイ ア版『スパイダーマン』3部作のメガホンもとったので,CG/VFX利用には通暁している。彼が監督に起用したのは,フランス人監督のアレクサンドル・アジャ。ホラー映画が主で,ハリウッドでも数本の監督経験がある。当欄では3Dブームの初期の頃『ピラニア3D』(11年9月号)を掲載している。ホラー得意のこの2人で,「ワニ映画の代表作を作ろう」となったらしい。サメ映画なら誰もが『ジョーズ』(75)を思い出すが,そう言えば,ワニの恐怖を正面から取り上げた映画は思い出せない。
 主演のヘイリー役は,カヤ・スコデラリオ。名前は覚え難いが,『メイズ・ランナー』シリーズのヒロインであった,あの若手女優だ。父親役は,脇役俳優のバリー・ペッパー。よく観る顔だが,登場場面としては本作が最も多いかも知れない。この2人とワニだけの登場シーンが大半で,全編の登場人物は10人にも満たない。
 上映時間は短めの88分だが,ずっと長く感じられた。主人公がすぐに舞台となる昔の実家を訪れるので,そこから約70分間,ワニや水没の恐怖と戦う。一難去って,また一難の連続だ。どう見ても,B級パニック映画なのだが,ワニの登場のさせ方,恐怖の演出が上手い(写真1)。その中で,しっかり定番の家族愛も描かれている。
 
 
 
 
 
写真1 バスルームにまで侵入してきたアリゲーター
 
 
  突っ込み処としては,暴風雨警報が出る状況で,救助ヘリが救出に飛んで来られるのが不思議だが,そういう疑念は払拭して楽しめるエンタメ作品に仕上がっていた。
 以下,当欄の視点からのCG/VFXの論評である。
 ■ 何といってもワニの描写だ。フロリダに棲むのはクロコダイルではなく,アリゲーターである。平均体長は約3.5mらしいが,もっと大きく感じる(写真2)。一部実物大模型もあるのだろうが,大半はCG描写だ。各種恐竜を簡単に描く最近のCG技術なら何でもないが,獰猛な目,尻尾の威力等もしっかり描けていた。水中での移動はヘイリーの方が早いという演出が面白い。
 
 
 
 
 
写真2 水中だと一層大きく見える
 
 
  ■ もう一方はハリケーンの描写と水没シーンの演出だ。空の暗雲,暴風で揺れる木々,めくれ上がる屋根もほぼすべてCGで,風雨も描き加えているのだろう。浸水,冠水はどうやって撮影しているのだろう?プールのようなセットで撮影し,遠景はVFX合成していると思われる(写真3)。堤防決壊で押しよせる波はCG描写(写真4),屋内の浸水は家屋セット撮影で,大量の水を流し込めるスタジオを使っていると思われる。この屋内での浸水場面の撮影が巧みで,次々に上に逃げるのが,まるでゲーム感覚だ。CG/VFXの主担当は,Rodeo FXで,Eye Spy Productionsも参加している。  
 
 
 
 
写真3 水槽で撮影し,暗雲,暴風雨,揺れる木々はCGだろう
 
 
 
 
 
 
 
写真4 堤防決壊で押し寄せる水はCGに見えたが,ミニチュア撮影かも
(C)2019 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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