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O plus E誌 2019年3・4月号掲載
 
 
ハンターキラー 潜航せよ』
(ミレニアム・フィルムズ /GAGA配給 )
      (C) 2018 Hunter Killer Productions, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月12日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年3月12日 GAGA 試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  久々の潜水艦映画,頭脳戦も絡めたエンタメ作品  
  かつて「潜水艦ものに外れなし」と言われた。確かに『Uボート』(81)『レッド・オクトーバーを追え』(90)『クリムゾン・タイド』(95)等の名作が生まれている。海中での行動に制約がある密室であり,地上との通信も円滑でないので,危機状態では緊迫感が増すからだろう。当欄開始後は,洋画の『U-571』(00年9月号)『K-19』(02年12月号),邦画の『ローレライ』(05年3月号)を紹介したが,それ以来である。最近ヒット作がないのは,実在の潜水艦の能力が上がり過ぎ,小説や映画が追いつけないからだそうだ。本作は,原作小説の著者の1人が原潜の元艦長だというので,その描写に期待した。
「ハンターキラー」とは,狙撃者(Hunter)専門の殺し屋(Killer)かと思ったが,敵の潜水艦を狩り出した上で撃沈する攻撃型原潜のことらしい。本作では,ロシアで国防大臣が軍事クーデターを起こし,ロシア大統領が監禁される。第3次世界大戦を避けるため,米国の特殊部隊とハンターキラーのアーカンソーが彼の救出に向かうという筋立てである。そもそも戒厳令下のロシア領内に簡単に入れるのかと疑うが,困難なミッションゆえにエンタメとしての面白さも増す訳である。
 主演は『エンド・オブ・ホワイトハウス』(13年6月号)『エンド・オブ・キングダム』(16年6月号)で大統領特別護衛官だったジェラルド・バトラーだというので,大統領救出の工作員かと思ったが,本作では冷静かつ豪胆な潜水艦艦長ジョー・グラス役(写真1)だった。一方,ロシア側のセルゲイ・アンドロポフ艦長役は『ミレニアム3部作』(09)のミカエル・ニクヴィストだが,2017年に逝去したので,これが彼の遺作となった。
 
 
 
 
 
写真1 本作では,たたき上げの豪胆な艦長役
 
 
  監督のドノヴァン・マーシュは馴染みのない名前だが,南アフリカ共和国出身で,これがまだ長編2作目だそうだ。その他の助演陣には,ゲイリー・オールドマン,ラッパーのコモン,リンダ・カーデリーニ,トビー・スティーヴンスらの名前が並ぶ。ちょっと意外だったのは,G・オールドマンが,やたら攻撃的で単細胞の統合参謀本部議長役だったことだ。もっと思慮深い人物が似合っているのに,オスカー俳優をこんな軽薄な人物役に使っていいのかと思ってしまった。
 米国側の大統領側近はまだしも,ロシア側のキャスティングが弱い。大統領はとてもロシア人に見えないし,クーデターを起こした国防相は悪役らしい風格がない。この当たりはメジャー系の大作でない欠点が出ていると言えよう。主役は潜水艦なので,その装備や作戦は原作の良さが出ていると思われるが,地上側の大統領救出や米露両国の駆け引き等の駆け引きも面白く,戦闘アクション映画としては十分楽しめる。
 以下は,当欄の視点からのやや辛口の論評である。
 ■ 監督自ら現役のヴァージニア級攻撃型潜水艦に試乗して艦内をじっくり観察したというだけあって,艦内のセットはよく出来ていた(写真2)。最新型といってもスタイリッシュではなく,機能本位でワイヤーやパイプが露出した景観である。浸水した魚雷室(写真3)や漏水個所の修理,排水作業等の描写は生々しく,見事な出来映えだ。捕虜となったアンドロポフ艦長を案内役として,狭い海域を通過する場面の演出は絶品である。
 
 
 
 
 
写真2 本物をじっくり観察してだけあって,艦内のセットは上出
 
 
 
 
 
写真3 浸水した魚雷室もそっくりに再現したという
 
 
  ■ 海中での敵艦の追跡や爆撃,洋上での戦闘等(写真4)で,潜水艦の登場場面は多々ある。潜水する様子の一部は実写のようだが,大半はCG描写だろう。CG/VFX技術からすれば,ギリギリ合格点であり,この10数年の進歩を反映したものとは思えない。駆逐艦の急旋回(写真5)や地上からのミサイル攻撃(写真6)等の出来映えもしかりだ。VFX担当には,Worldwide FX, Spin VFX, Bottleship VFX, Nvizible, Intelligent Creatures等の名前が並ぶが,いずれも大手スタジオとは言い難い。分量をこなすのに精一杯であり,メジャー大作ではないので,クオリティ面を犠牲にせざるを得なかったのだろう。緊迫感を煽るための音楽も同様に安っぽく,低予算を感じさせた。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 海中走行や海上での戦闘のCG/VFXクオリティは,何とか合格点のレベル
 
 
 
 
 
 
 
写真5 急転舵して,これだけの旋回となると.さすがにCG描写だろう
 
 
 
 
 
 
 
写真6 地上のからのミサイル発射もしっかりCG描写で
C) 2018 Hunter Killer Productions, Inc.
 
 
  ■ 上記の狭い海域通過以外では,潜水艦の戦闘場面の演出は特筆すべきものがなかった。これなら,かわぐちかいじ作のコミックの描写の方が圧倒的に素晴らしい。かつての「沈黙の艦隊」は極上品で,最近の「空母いぶき」でも潜水艦や戦闘機の優れた戦闘シーンが登場する。それで,我々の目が肥え過ぎているのかも知れない。それを実写映画化した『空母いぶき』が進行中で,5月24日に公開される。さて,我が国のVFXスーパバイザやCGクリエータ達は,本作を超えるシーンを生み出せるのか,比べて観ることを楽しみにしている。 
 
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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