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O plus E 2018年Webページ専用記事#1
 
 
ダウンサイズ』
(パラマウント映画/
東和ピクチャーズ配給 )
      (C) 2017 Paramount Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月2日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開予定]   2018年1月22日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  物語は地味だが,美術的には注目に値するSF映画  
  4年毎の冬期五輪開催年はアカデミー賞授賞式が3月にずれ込むため(現地時間3月4日夜,日本時間5日)ため,目下,映画業界内や映画関連サイトの話題はそれ一辺倒だ。加えて,その受賞候補作やパワフルなアメコミ作品が同時期に公開されるため,見逃されがちなのが本作だ。SF映画ファン,当欄の読者なら,是非とも気に留めておいて欲しい一作だ。
 原題は『Downsizing』で,身長180cmの人間を13cmに縮小する技術が完成したという前提である。ミニサイズの主人公が登場する映画は結構あり,古くは『ミクロの決死圏』(66)の特撮と美術が衝撃だった。1980年代から90年代にかけて製作され大ヒットした『ミクロキッズ』シリーズ,小さな人形兵士が動き出す『スモール・ソルジャーズ』(98)は,SFXやVFXの大活躍の場であった。そして最近の『アントマン』(2015年10月号)まで,いずれもワクワクして観た。もはや最近のVFX技術なら,通常サイズの人間に混在させて小さな人間を描くのは何の問題もない。しかも縮小率は他ほど大きくない。となると,物語のリアリティ,小さくなってから何が起こるか,登場人物の魅力がポイントになる。
 世界の人口増による食料不足,環境破壊が深刻な問題となり,その対策として人間を安全に縮小する技術が開発され,各国でその希望者を募るという設定である。費用は1人100万円以下,一度小さくなると戻れなくなるが,縮小された人間は彼ら専用の居住区に住むことになり,資産は82倍になり,大邸宅での生活が保証されている。ドタバタ喜劇ではなく,少し真面目すぎる設定だが,SFでは十分有り得る話だ。その分,物語設定にはリアリティはあるのか, 果たしてこの縮小世界はユートピアなのか,それとも思いがけないディストピアとなるのかが興味の的である。
 監督・脚本は,『ファミリー・ツリー』(12年5月号)『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(14年3月号)のアレクサンダー・ペイン。当欄ではこれまで短評欄でしか取り上げていないから,SFやVFX多用作向きではなく,ヒューマンドラマの方が得意な監督だ。アカデミー賞脚色賞を2度も受賞している。
 主演はマット・デイモンで,米国ネブラスカ州の平凡な人生を送っている善良な市民のポールを演じる。同級生に勧められ,裕福な生活に憧れて夫婦でのダウンサイズの決断をするが,妻オードリー(クリステン・ウィグ)は土弾場で逃げ出し,1人で縮小世界に行く破目になる。助演陣では,縮小世界で出会う怪しい隣人ドゥシャンを個性派のクリストフ・ヴァルツが演じ,掃除婦で脚の不自由なベトナム人女性ノク・ラン・トランにホン・チャウが配されている。
 このホン・チャウなる女優は,これが映画出演2作目だという。タイ生まれ,米国のニューオリンズ育ちで,現在はLA在住らしいが,両親はベトナム人というから,この役にはピッタリだ。いや,この役は中国人でも韓国人でも構わなかったが,彼女に合わせてベトナム人といに設定にしたのかも知れない。最初は小うるさく,うざい存在であった。そういえば,東南アジアからの留学生にこんな女子学生がいたなと,妙に納得した。おいおい,まさか彼女がヒロインなのでは思っている内に,次第に可愛く見えるようになり,それらしい男女関係へと発展する。中盤以降は,彼女が物語の中心的な役割を果たし,完全にマット・デイモンを食う活躍だった。ゴールデングローブ賞の助演女優賞部門にノミネートされていたのも頷ける。
 以下,当欄の視点での解説と感想である。
 ■ 美術が圧巻だった。縮小することへの本人の合意,準備,そしてダウンサイズ施行までの過程の描写が見事で,リアリティが高く,本当にこの技術が開発されたらこうなるだろうと思わせてくれる。縮小人間たちの豊かな暮らし,その一方で存在するスラム地区の描写も秀逸だ。他作品ではここまで描き切っていない。ここまでしっかり描いているのなら,8千年後まで人類が生き延びるための地下シェルターとやらの内部も見せて欲しかった。
 ■ VFX的には難しくないとはいえ,通常サイズと縮小サイズの混在場面は楽しい(写真1)。人間を1/14倍に見せるには,14倍の実物を配するだけでいいのだが,これだけで嬉しくなる(写真2)。大小の合成シーンもグリーンバックで撮影され,丁寧に合成されている(写真3)。ノク・ランの片足を消す処理も完璧だ。CG/VFXの主担当は老舗ILMで,他にRodeo FX, Framestore, Lola VFX, Atomic Fiction, Halon, Base FX, Shade VFX等が参加している。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 これが1/14サイズに縮小された人間
 
 
 
 
 
 
 
写真2 CGではなく,14倍サイズのバラの花,クラッカー,ペットボトルを利用
 
 
 
 
 
 
 
写真3 合成シーンの大半はグリーンバック・スタジオを利用
 
 
  ■ 縮小人間の居住区である「レジャーランド」は,富裕層の住宅地として描かれている(写真4)。人も物もすべてが小さいのだから,そのまま普通に撮影すればいいのだが,それでも何か人工的な町だと感じてしまう(写真5)。これは意図的にそう思わせるデザインなのだろう。
 ■ 家も家具も電化製品類も,すべてが1/14サイズの物が用意されているという設定だ。縮小化開始からたった15年で,世界の3%の人口のために,ここまでのインフラが揃うのだろうか? 微細加工技術はそこまで進んでいるのか,それが産業として成り立つのか,他の部分に説得力があるだけに,そんなことが気になった。
 ■ かく左様に,VFX映画史を同時進行で語る当欄にとっては見どころ満載のSF映画なのだが,娯楽映画としては,やや盛り上がりに欠ける。およそ美男美女が登場しない映画だが,人も物語も地味過ぎる。ハリウッド大作なら,少しはアクションを入れたり,悪人を登場させたりの味付けも欲しかったところだ。あのジェイソン・ボーンがただの地味なオジサンでは,もったいないではないか。
 
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写真4 通常の町の一部に造成された「レジャーランド」
 
 
 
 
 
写真5 レジャーランド内は,清潔で豪華だが,面白みに欠ける
(C) 2017 Paramount Pictures. All rights reserved.
 
 
 
   
   
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