head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| TOP | CIFシネマフリートーク | DVD/BD特典映像ガイド | 年間ベスト5&10 |
 
title
 
O plus E 2018年Webページ専用記事#1
 
 
空海 ―KU-KAI― 
美しき王妃の謎』
(東宝&KADOKAWA配給 )
      (C) 2017 New Classics Media, Kadokawa Corporation, Emperor Motion Pictures, Shengkai Film
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [2月24日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー公開予定]   2018年1月26日 東宝試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  中国製大規模セットと和製VFXで彩る贅沢な娯楽大作  
  一言で言えば,贅沢な日中共同製作の娯楽大作だ。予告編を一見しただけで,たっぷりCG/VFXが使われていることが分かったので,本誌2月号のトップ記事にしたかったのだが,マスコミ試写が間に合わなかった。2月24日公開なので,昨年までなら翌日発行3月号でも十分なのだが,生憎,O plus E誌がこのタイミングから隔月刊になってしまった。さすがに1ヶ月以上経った3&4月号での紹介では遅過ぎるので,かくして新設Web専用記事の第1号として取り上げる次第である。
 7世紀の中国が舞台で,遣唐使時代の空海(弘法大師)を描く映画で,阿倍仲麻呂ら日本人役の数名を除いて,俳優も撮影や美術スタッフもすべて中国人である。監督は『さらば,わが愛/覇王別姫』(93)『始皇帝暗殺』(98)の名匠チェン・カイコー(陳凱歌)。撮影も中国,日本人同士の会話部分が日本語である以外は,セリフはすべて中国語だ。即ち,空海役の染谷将太も阿倍仲麻呂役の阿部寛も,現地人との会話は中国語で話す。日本資本が中心の映画化だが,拡大する中国の映画市場も当てにしてのことだろう。言葉の使い分けがきちんとなされているのは喜ばしい。
 当初の予告編で聞いた染谷将太の中国語が中国人に通じるのか筆者には判断できなかったが,いかに天才の空海とて,初めて唐に行った当時は似たようなレベルかなと想像した。ところが残念なことに,試写会は日本語吹替版だった。勿論,日本人俳優のセリフは本人が吹替えている。当然,元々が日本語のシーン以外は口は合わない。折角丁寧に言語を使い分けたのだから,本邦でも字幕版中心の上映にして欲しかったところだ。
 当初の製作報道では副題はついていなかった。よって,伝記もので,彼が本場で仏教を学び,日本に真言宗を広める宗教色の強い話だかと思っていた。実際は,夢枕獏の小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」の映画化だった。空海が,玄宗皇帝の寵愛を受けた皇妃・楊貴妃の死の謎を探る探偵役として登場する全くのフィクションである。言わば,安倍晴明を主人公にした「陰陽師」シリーズと同工異曲の拡大版の感じと考えればいい。原作は17年かけて書いたという,全4巻の力作である。
 名探偵ホームズにとっての相棒のワトソン役は,原作の橘逸勢ではなく,本作では大詩人の白楽天(後の白居易)となり,ホアン・シュアン(黄軒)が演じている。留学生仲間の日本人同士ではなく,唐の都・長安で知り合った日中の俊才コンビが謎を追うという設定である(写真1)。中国人観客の目も意識しての変更に違いない。元々フィクションであり,著名な「長恨歌」は玄宗皇帝と楊貴妃が題材だから,この変更は妥当かつ良い設定だと思う。
 
 
 
 
 
写真1 王妃の死の謎に挑む日中の俊才コンビ
 
 
  この設定とキャスティングを聞いて,大丈夫かなと思ったことが3点ある。まず,さして長身でなく,童顔の染谷将太が空海というのに,少し違和感があった。空海の身長体重を推測する歴史資料はないのだが,何となく,もっと大柄でどっしりした人物を想像していた。子供の頃に読んだ絵本やどこかで見た弘法大師の銅像が,かなり大柄に描いてあったからかも知れない。スキンヘッドにした染谷将太の空海は,結構似合っていた。一休さんかマルコメ味噌のCMのイメージである。
 第二は,「傾城の美女」として歴史の残す楊貴妃役に相応しい美形の女優がいるのかどうかだ。この役を演じるのは,チャン・ロンロン(張榕容)。主な出演作は日本未公開作品ばかりなので,本作で初めてみたが,なかなかの美形だ。玉蓮,春琴,麗香らを演じる女優陣も美人揃いなので,圧倒的な美貌ではなかったが,まずまず合格点の容色と評価しておこう。
 第三は,チャン・イーモウ(張芸謀) を初め,低予算のヒューマンドラマで実績のある中国の名匠たちは,CG大作が苦手という点だ。当欄で以前紹介したチェン・カイコー監督の『PROMISE/無極』(06年3月号)も大味で,お世辞にもCGの使い方が上手いとは言えなかった。では,本作の試写を観ての感想はというと,さすがにVFX利用にも慣れてきたのか,まずまずの出来映えである。幻術師・黄鶴の弟子,丹龍と白龍が織りなすファンタジー・アドベンチャーに,CG/VFXをたっぷりと使っている。以下,当欄の視点での感想とコメントである。
 ■ まず何と言っても注目すべきは,湖北省襄陽市に建てられた唐の都の大規模なオープンセットだ(写真2)。東京ドーム8個分もあるという。元が沼地であったので,水路を配し,本物の木も多数植えたという(写真3)。これに合わせて,室内装飾も絢爛豪華で,これは中国映画の大作ならではの美術装飾だ。この巨大セットを生かした魅惑的なシーンが何度も登場するが,遠景はVFX加工しているものと思われる(写真4)。カメラワークも多彩で,高い位置から見下ろすシーンが多用されていた(写真5)
 
 
 
 
 
写真2 長安の街を大規模なオープンセットとして再現
 
 
 
 
 
写真3 沼地を利用し,木を植えた豪華セットの一部
 
 
 
 
 
写真4 大型セット+VFXで,豪華絢爛なシーンも続々と登場
 
 
 
 
 
写真5 カメラワークも派手で,上からのショットも頻出する
 
 
  ■ 明らかにCGと分かるのは,遣唐使一行が遭遇する嵐の海のシーンだ(写真6)。最近は海外製のツールが購入できるので,比較的容易に描画でき,新味はないが,うまく使いこなしていている。都の中央を貫く長い回廊のような通りも,CG製だろう(写真7)。さすがにドーム8個分でこれは収まらない。
 
 
 
 
 
写真6 さすがにこの光景はCGの産物だろう
 
 
 
 
 
写真7 家具たちがCGでどう描かれるか注目(C) 2017 New Classics Media, Kadokawa Corporation, Emperor Motion Pictures, Shengkai Film
 
 
  ■ 全編を通じて登場し,物語に大きな役割を果たすのが黒い妖猫だ(残念ながら,スチル写真は提供されなかった)。一部は本物の黒猫かも知れないが,縦横無尽の動作やジャンプからして,大半はCG製だろう。劣悪ではないのだが,登場場面が多いので,若干不自然な表情が気になり,作り物っぽさが垣間見える。65点程度の出来映えだ。
 ■ その他,岩山や雲海,トラが登場するシーンもCG/VFXの産物と思われる。幻術での対決シーン等でVFXが多用されるのは予想通りだったが,全編で多過ぎると感じた。すべてのシーンが高品質とは言えず,少しプアな表現があると,作品自体がチープに感じてしまう。主担当は日本のOLM デジタルで,多人数を投じて大半をこなしている。この意欲は買いたい。一部Digital Domain Chinaも参加しているが,残りの大半は日本の小さなCGスタジオだ。こうした大作を経験することで,参加各社の実力アップが図られるのは喜ばしい。それゆえに,敬意と期待を込めて,ハリウッド大作に比べれば,まだまだ差は大きいと評しておこう。
 
  ()
 
 
 
 
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next