1997年7月の火星探査機マーズ・パスファインダーの活躍は印象的で,久々に宇宙への夢を感じさせてくれた。恐らくその頃,火星を舞台とした企画がいくつも持ち上がったのだろう。この映画とのバッティングを避けた『ミッション・トゥ・マーズ』(M2M)が数ヶ月前倒しの強行日程で2000年3月公開に踏み切ったことは,昨年6月号で述べた。一方,この映画は秋のハイシーズン(11月10日公開)まで待機した。
共倒れを避けようとしたのだが,アメリカでは散々な結果だった。やはり類似企画となると,観客の興味も薄れてしまうのだろうか。興行的には惨敗でも,そんなに悪い映画ではない。『アルマゲドン』には及ばないが,『M2M』よりはずっと面白いし,VFXは勝るとも劣らない出来栄えだ。宇宙もののビジュアルとしても上出来である。
2050年,環境破壊が進んだ地球に見切りをつけ,光合成で酸素を確保し,人類が住める環境を作る「火星地球化計画」が進められていた。しかし,計画の進行を伝える火星からの通信が途絶え,原因究明のため火星に降り立つチームが編成されるが,着陸船は火星にたたきつけられ,乗組員達を待ち受けていたものは……というストーリー設定である。
火星上でのサバイバルを戦い抜く宇宙整備士ギャラガー役は,『ヒート』『バットマン・フォーエバー』のヴァル・キルマー。火星上空で着陸クルーの帰還を待つ宇宙船の女性船長に,『マトリックス』のトリニティ役で一躍注目を集めたキャリー=アン・モス。トリニティのイメージをさらに増幅させた役柄で,完全に『マトリックス』ファンを意識したヒロイン像だ。クールでモノセックスを感じさせるかと思えば,ハッとするセクシーなショットも見せてくれる。
以下,VFXやビジュアル面での見どころである。
■キャリー=アン・モスが演じるのが「ボーマン船長」であるように,『2001年宇宙の旅』へのオマージュと思しきシーンが宇宙船内部にも幾つか登場する。その一方で,約50年前から置き去りにされていたとの想定で,マーズ・パスファインダーが登場するのも嬉しい。
■宇宙船内部のデザインと質感,大小ディスプレイに映し出されるグラフィック,宇宙船のドッキング・シーンは,見ごたえがある。冒頭の地球や火星はキレイだし,クライマックスの火星をバックにした救出シーンも見事だ。『2001年宇宙の旅』の時代からすると格段に進歩していて,SFマニア,宇宙マニアは十二分に楽しめる。
■火星への着陸シーン,無重力下での宇宙船内火災などは,VFXとしてもハイレベルだ。人間を襲うCGの甲虫の群れも悪くない。デジタル・ドメイン,リズム&ヒューズ,シネサイト,ピクセル・マジック,イリュージョン・アーツ等,10社以上が参加しているが,それぞれの担当シーンをそれぞれの流儀で達成していることが感じられる。その流儀の違いを見るのも楽しみだ。
■火星探索を助けるはずが,突如変身して飛行士たちを襲う攻撃型ロボットのAMEE(エイミー)。質感は金属製の模型だが,これはフルCGらしい。宇宙船内や火星上での光の反射は,よく考えられている(写真)。もっとも,フルCGなのを強調したいのか,クネクネとしたこれ見よがしの変身シーンが目立った。これは滑稽で,少しうるさく感じられた。
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